14


「なんか、疲れたよな」

「普段、車ばかりだからね」


とりあえず 戻って来て、テントに入ったんだけど

もう 15時くらい。

冷蔵庫から グレープフルーツとかオレンジジュースとか出して飲んでる。


まーた 長ぇ階段降りて、遺跡の洞窟から出たんだけど、スマホ見ながら歩いてた四郎が

『やはり、洞窟周辺から通じるようです』つって

洞窟に入ると、祈りに来てた現地の人に

泰河が また祈られて、泰河も祈り返す。


日本人の観光客が、ガネーシャ像の方から来て

『この中、蒸し暑いよね』って 言ってたけど

オレらは 全然だった。

むしろ、日本側から 海風が吹き込むと

涼しく感じたくらいだし。


『泰河、行くぞ』って ボティスに言われて

朋樹が泰河を引っ張って、洞窟を出ると

『あの人たち、どこから出て来たの?』って声が 近くからした。うん、目撃されるよなぁ。

全員、サプッサロンだしさぁ。


『崖の穴だろ?』

『穴なんか 無いよ?』って

パラソルの下で カップルが言ってる。

崖の穴すら見えねー人も いるみたいだ。


『どういうことだ?』

『しかし、スマホンの記事にあったのであろうよ?』

『洞窟に、人避けのようなものが

ほどこされているのでは?』


ハッキリしねーけど、洞窟の穴には

榊が 神隠しを掛けておく。

バリに出ちまっても、認識されずに混乱するだろーし。


「どうする? ここで、ミカエル待つ?」

「ホテルでも構わんだろ」


浴衣に着替えるし、ホテルに戻るか って

なってるけど、泰河が

「オレ、ちょっと出て来る」って

サプッとサロン、腰布を外しながら言うから

「オレもー」って 外して

テントの端にあるベンチに 畳んで置く。


「どこに?」って、ジェイドが聞くけど

“告解に” とは 言いづらそうだし

「リラの父さんパン屋」って、オレが答えた。


「ホテルに居る。帰りにクロワッサン」


ボティスが立つと

「オレ、あったら アップルパイ」って

朋樹も立つ。


「あの、私も... 」


四郎が 遠慮がちに言ってみてる。

行ってみてーっぽい。

後でパン屋にも寄るけど、先に告解だし... って

思ってたら

「行って来たら?」って ジェイドが勧める。


「おう、来いよ」


泰河が言うのに、オレも「うん」って 頷くと

四郎は、また嬉しそうな顔になって

サプッとサロンを ベンチに置いた。


「儂は、ぱん お... 」


「ああ、パン オ ショコラ な」って

榊に答えながら、ホテルに戻るボティスたちと

テント 出ると、まだ サプッサロンのアコが

少し離れたところに、紙袋いっぱい持って居る。


パラソルの下にいる子たちと 話してるっぽいし

「海でも 順かよ」って 近寄ってみたら

シイナとニナが居た。


「嘘だろ?」

「海でも おまえらなのかよ?!」


「失礼じゃない?」

「っていうか、あの辺から 車で来れるビーチって

ここくらいしか無いし」


「仕事は?」と、ジェイドが聞くと

「店が休み」って シイナが答えてるし。


パラソルの下、レジャーシートの上に座ってる

二人は、水着の上に パーカーとショートパンツで

つまんねーし

「おまえら、脱げ それ」って 言ってやったら

「あんた、ゲイじゃないの?」って 聞くから

「ざーんねーん。オレ、女の子もスキだしぃ」って 返してやったんだぜ。ついでに

「オレのカノジョ、天使だからさぁ」つったら

うわぁ... って 眼ぇされた。しとけ しとけー。


「今日、ブロンドの恋人は?」


ニナが “いないの?” って風に聞いたから

「もう戻って来るし。あいつも天使だけどー」

って 返事したら、二人して

痛くて見てらんない... みてーな 顔しやがる。


「ずっと 思ってたんだけど」


シイナが ニヤッとして、榊に向いた。


「お姉さん、キレイだよね」


えー、ボティスの女だって 知ってるよなぁ?

「まぁな」って、ボティスが答えたら

「ですよね」つってるし、何 考えんだろ?


「むう。“友になりたくある” と

素直に申せば良かろう?」


「ええっ?!」「そういう事?!」


オレと泰河は、素直に ビビったけど

朋樹とジェイドは

「なんだ、お前」「かわいいじゃないか」だし

ボティスは 分かってたっぽい。


榊が 普段の口調で言ったし、シイナは

オレらを無視して

「あれ? 天人の子みたいに、時代 違うヒト?」

とか 言ってる。

「ふむ。齢は三百よ」と、榊が 化け解いた。


「... キツネ?」

「嘘でしょ?」


さすがに 唖然としてるけど、また 人化けした榊が

「超能力よ」ほほ... つった。


「芽生さんは、大変に しゃい なのですね」


四郎が、うんうん頷きながら

どっか達観した様子で言ってるけど

「メイ?」「誰?」って 聞いたら

「私だけど」って、シイナが言った。


「何だ? おまえは “シイナ” だろう?

ホラーショウの方か?」

「いや、名が知れ過ぎてる。

そっちに出ても “シイナ” だろう」


「こいつ、椎名 芽生って名前なんだ」


アコが言って、オレらに注目を浴びた シイナは

「何? 私が付けた訳じゃないし」とか

先に 予防線引いてるけど

「... メイちゃん だってよ」

「えー、かわいくね?」「マジかよ、あいつ」

って 聞こえよがしに コソコソ言ってやったら

頬 赤くなってやがる。

けど、名前マジで かわいいしー。


「どういう意味の名前?」


ジェイドが聞いても、シイナは

「さぁ?」だったけど

四郎が「このように書くようです」って

砂に “芽生” って書いた。


「四郎、なんで知ってんの?」って 聞いたら

「リョウジとる時に、お会いしまして

“二人共 未成年で、私達は成人だから” と

免許証を出され、名乗られたのです。

連絡先などまで明かされました。

“身元を隠すような大人の話しは、聞いてはならない” と」... だってよー。

へー、オレらより ちゃんとしてるんじゃん。


「漢字の意味は、“芽生めばえ” 。シイナが生まれて

ご両親に 新しい気持ちが芽生えた... とかも

あるかもな」って 朋樹が言って

「愛や 慈しみであろうのう」って、榊も言うと

「いい名前じゃないか!」と

ジェイドが 素直に感動して

「それなのに、君は... 」って 嘆いて見せてるし。


「派手な腕して、うるさいんですけど」とか

答えながら、シイナは満更でも無さそうだし。


「いいなぁ、シイナ。私、改名しようかな... 」


ぽつりと ニナが言って

「えぇっ?!」って、かなり焦っちまう。


「待って、ニナ!

それ、オレが からかったりしたから?!」


オレ、“ユーゴ ユーゴ” って言ってたし!


「だろうな」って、ボティスが答えられて

砂に 膝が着いた。


「サイテーだな」「思念 分かるくせにさ」


ここぞとばかりに、朋樹と泰河にも責められるし

「ごめん、ニナ...

オレ、冗談のつもりだったんだけど... 」って

真面目に謝ってたら

「えっ? ううん、それは全然 関係ないんだけど」って、キョトンとしてる。


「最近、ニナの順だったんだ」


アコ...


「おまえ! いきなり言うなよ!」って

四郎を気にする 泰河が突っ掛かると

四郎は、涼やかな眼を 海に向けた。

意味、解ってるじゃん...


「ん? ニナとは寝てないぞ?

そう約束してただろ? “友になる” って」


アコが 心外そうに言ったけど

「だってよー... 」

「ニナ、女の子になったしな... 」って

ぶつぶつ話してたら

「何 言ってるんだ? ニナは、あの時も女だった。

“寝たら それきり” だから、寝ないって言っただろ?」って 呆れられちまった。


「そうだ... 」

「なんか、ごめん」


オレら、浅はか なんだぜ...

なんかさぁ、“女の子だ” って 思ってても

どこかで “生まれた時の性別は違った” っていうのが あるのかも。

からかうと かわいーから、からかっちまったけど

本気で 反省するんだぜ...


でも ニナは、こういう時にも

相手に気を使える子なのか

「違う違う! 本当に、ずーっと前から

女の子らしい名前がいいのに って、思ってただけ!」って オレらに言って、アコも

「順の夜も、“改名するなら どんな名前がいいか” って 聞いたりしたんだ。

俺、この国の可愛い名前は 分からないんだ。

どの名前聞いても、可愛いと思うから」と

肩を竦めた。


「だって、“祐悟” なんて。

ちっとも 女の子らしくないし」


「ならんのか?」と

ボティスが 不思議そうに聞くと

「えっ?」って、ニナも キョトンとする。


「いいんじゃないか?

僕は、女の子で “ユーゴ” って

クールだと思うけど。

イタリアでも、男性名の女性もいるし

女性名の男性もいるよ」


「ふむ。儂も 榊と申すが

そう 女子おなごらしき名でもあるまい」


ジェイドや榊が言うと

「うん... 」と、抱えてた自分の膝に 頬を着けた。

照れて見えるし、かわいーんだぜ。


「ついでに、好きだった男と デートしてみて

醒めちまったらしい。

“なんで ステキだって思ってたのかな?” って

話しをしてて、俺は

“誰にでも、気の迷いはある” って... 」


「アコ!」って 止めてるニナに

「ほう。何故?」と、榊が身を乗り出して聞いてるし。


オレ、これ 何となく理由は分かるけど

「そろそろ行くー?」って

泰河と四郎に言って、ボティスも「暑い」って

ホテルに戻ろうとする。


「榊。お前は もう少し、そのガキ共と話して構わん。部屋に居る」って 言ってるけど

アコも「ボティス、俺も行く。

最近、ゆっくり話してないだろ?」って 言うし。


「だが、榊が残る」

「じゃあ、朋樹とジェイドが

部屋に連れて戻ればいいじゃないか」


「えっ、オレら?」


“なんで?!”って ツラする朋樹に

「むう。儂は、部屋に戻る程度の事など

一人で... 」と 榊が意見してるけど

「ならん」って

ボティスが つり上がった眼を向けた。


「どうせ、ミカエルとシェムハザが戻る。

それまで居て、一緒に戻ればいいだろ?」


「オレら、榊の男避けか... 」


朋樹が ため息をつくと

「けど、必要だよな」

婦女子れでぃですので」って、泰河と四郎が言った。


「でも、ナンパ待ちしてたんじゃないのか?」

「のっ」


「そんなんじゃ... 」って、ニナが顔を上げると

シイナが「違うし」って スッパリ言った。


「海見に来て、人見ることになっただけ。

男付きの女ばっかりだし」


「シイナ、おまえ

オレらみてーなこと言うなよ... 」

「そうか...

おまえって、女の子狙いだもんな... 」


「それに、どうせ隣に ニナが居るし。

アバンチュールは期待してないの」


「と なると、ニナさんは... ?

男児が居れば、他の男児は近寄れますまい。

いえ、榊の警護は されますが... 」って

四郎が気にする。そんな心配するなよー。


「ううん、全然!」


「ふむ。ならば良かろう。

朋樹、ジェイド。氷など買って参るが良い。

小豆と練乳の載った物を」


榊が「間を空けるが良い」って

ムリに 二人の間に収まって、ニナに

「して、何故 突然に、そのように?」って

聞き出したし

「じゃ、オレら 行って来るわー」って

朋樹とジェイドに 手を振って、バスに向かった。




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る