13


うわ...  申告する前に バレてるし...


“それで?” って風に、ゴールドの眼で

オレらを見渡す ボティスに

「うん... 」つって、泰河が ビール買いに行く。


ボティスの後ろから、榊の顔が 斜めに鼻まで出た。琉地を警戒してるらしい。


真後ろに ボティスに立たれていた朋樹は

「座るよな? 榊も」と、四郎と一緒に立って

「マルタバ食うか?」って 二人で買いに行った。


「いや、洞窟 入れたからさぁ。

ボティス、寝てたしー」

「起こしたら悪いし、先に ちょっと見て

報告しようと思ったんだ」


座ったボティスと榊の前に、泰河が ビール置いて

また カウンターに取りに行く。


昼時で、カフェは混んで来たけど

オレらのテーブルや椅子に、榊が 神隠しを掛けた。

オレの膝に両足掛けたままの 琉地見て

「むう... 」って 唸りながら、ジェイドの手から

アンバー 受け取ってるけど。

赤に花柄のサロンが似合ってて かわいーしー。


「分かった事」


ビール飲んで、ボティスが言うし

アンバーや式鬼が 門を通れなかったこととか

オレらが認識されねーこと、

感ある人に、泰河がバロンに見られたこと話してたら、マルタバの箱持った 四郎と朋樹も戻って来て

「シロムクがおったのです」って 言いながら

空いてる椅子を持って来て、オレらの後ろに座る。


「そう、動物には オレらが見えるんだよ。

猿からも 見えてたみたいだしな」って

朋樹が言うと、ボティスは マルタバを指に取って

「しかし、榊は認識されていなかった」と

眉をしかめた。


「榊は、門 通れたのか?」


両手の指に ビールとオレンジジュースぶら下げた

泰河が戻って聞くと

「人化けでは通れなんだ。狐に戻ると 通路の先が見えたのだが... 」って 言う。


ボティスと榊は、目を覚ますと

テントんとこの バーベキューグリルで

一夜干しのアジを焼いて食って、アコを喚んだ。


アコが言うには、城では夜... 現在

ミカエルを歓迎するパーティーが開かれてて

城の子どもたちと遊びまくった ミカエルは

子どもたちが寝た後は、大人たちに

“ミシェル” “ミシェル”... と、崇められちまって

一人ひとりに 加護を与えた後に

『俺、皆と 普通に話したい』 つったけど、

それでも感涙に泣かれたりしてたようだ。

だって、あのミカエルだもんなぁ。


ミカエルの像は たくさんあるけど、

フランス北西部 ノルマンディー地方のサン マロ湾には、“モン サン ミシェル” っていう 聖堂がある。

フランス語で、“聖ミカエルの山”。


この聖堂がある場所は、満潮時には島に、

干潮時には陸繋島となる島で

8世紀に、ノルマンディーの司教、オベールが

ミカエルのお告げを受けて、聖堂を建てた。


オベールは、最初は ただの夢と思ってたけど

ミカエルは 三回も夢に出た。三回目には

“俺は、聖堂建てろ って言ってるんだぜ?” って

オベールの頭に 指を突っ込んだらしく

朝起きたオベールの頭に 指穴が開いてたから

やっと 本当だと信じた。

その後、穴が閉じたのかどうかは 知らねーけど

閉じなくても嬉しいんだろーな...


その後に 修道院も建って、増改築されつつ

13世紀には ほぼ現在のような形になったんだけど

14世紀、イギリスとの百年戦争が勃発すると

モン サン ミシェルは、城塞として使われることになる。


ミカエルが、ジャンヌ・ダルクを導いて

フランスが勝利し、百年戦争が終結すると

より一層 ミカエル崇拝は加熱したけど、

18世紀のフランス革命後の モン サン ミシェルは

今度は、監獄として使用されるっていう数奇な運命を辿り、20世紀になって ようやく

本来の聖堂や修道院として再開された。


まぁ、こういう経緯もあるし

その ミカエルが顕れたら、そりゃ崇めるよなぁ。


ミカエルたち 御使いは、聖父と地上を結ぶ。

信仰がある人たちや、国によっては

“ミカエルって、有名な天使だよね?” っていうような、軽い存在じゃねーんだし。

オレの母さんが ミカエルに会ったら

感激で 腰抜かして泣くか、失神しちまうと思うんだぜ。


シェムハザが

『皆が、“大天使ミシェル” として接すると

ミシェルは、天に戻らなければ ならなくなる。

ここは、悪魔である俺の城だからだ』と

説明すると、やっと冷静になってきたけど

ミカエルは まだ皆に囲まれて、パーティーを楽しんでるみたいだ。明け方近くまで 続くもんなぁ。


ボティスに喚ばれたアコが

『珊瑚礁を確認してくる』って 消えると

ボティスと榊は、オレらとシロムクを探して

テントに向かった。... けど 居ねーし

崖の洞窟に向かう。


洞窟の前の砂には、五つの穴と 小さい砂山があって、穴は琉地だろう と推測。


潮は引いて、洞窟の高さも変わってるし

入ってみる。

手を繋いでいたはずの榊が消えたけど

すぐに、狐になって顕れた。


一通り、ゴア ガシャ見物して

階段の上の 売店に着いたら

『ボティス』と、アコが顕れた。


『俺、洞窟 通れなかったんだ』と 報告するアコを

周りの人たちが、不思議そうに見ているので

アコは 自分の姿を目眩めくらましして

『でも、ボティスを探して来たら バリ島だった。

珊瑚礁が復活してるんだ。

もう少し調べてから、ミカエルとシェムハザに知らせて来る』と 報告。

また姿を顕すと、ボティスと榊に

サロンと ミックスフルーツのスムージーを買って渡して、忙しく消えた。

で、カフェにいる オレらを発見。今に至る。


勝手なこと しちまったし、説教だろーな... って

思ってたら、マルタバ食った ボティスは

「まぁ、入るだろうな」って 言っただけだった。

多少 呆れた感あるけど、説教は免れたんだぜ。

四郎も ホッとしてるし。


「珊瑚礁、復活したのか... 」

「洞窟と 関係あるのかな?」


朋樹もジェイドも言ってるけど

金緑種ゴールドリップの白蝶貝があったしな」って

ボティスが言う。インドネシア近海 ってこと。


「洞窟の門が開いたことが、海にまで影響した ってことー?」って 聞いたオレに

「だろうな。門を開いた者が、何者かは 知らんが

バリ ヒンドゥーだろ?」って 答えたボティスは

「ガルダ」って、師匠を喚んだ。

そっかぁ... インドネシアの国章なんだし。


「何だ?」


オカッパ頭の師匠は、普通に顕れたんだけど、

赤く輝く翼、耳にゴールドの でかいリング。

裸の上半身には、白いトーガのような布が首に掛かって、揺らめいてる。

黒のハーレムパンツに、艶のある 赤い布をベルトみたいに 腰に巻いて結んでて

足元は、ゴールドのアンクレットとサンダル。

派手だぜー。アラビアンチック。


「うん? バリか... 」つった 師匠は

自分も、ベージュの 襟付き半袖シャツと

ブラウンのサロン、黒のサプッ の姿になった。

泰河と ちょっと被ってるし。


「サプッ がない」と、ボティスを差すと

ボティスの白いサロンに 水色のサプッが重なった。上のシャツも白だったから、天衣みたいになってたもんな。

榊の頭には、黄色いハイビスカスが付いた。

ますます オノボリさんっぽさが上がったのに

認識されねーんだよなぁ。惜しいぜー。


「何故、バリに?」って 聞きながら

バルフィと インディアン コーヒーを出してくれる。ビールばっかだったから 嬉しいんだぜ。


コーヒー ひとくち飲んだ四郎が

「美味しいです!」って 喜ぶと

師匠も「うむ」って頷いて 嬉しそうだし。

琉地の頭 撫でてるから、あっ... って 今気付いて

師匠に椅子を譲る。

泰河も立って、師匠のビールを買いに行った。


「あれ? バルフィ、色 着いてるんすね」


バルフィは、白と薄い茶色があって

「珈琲味」って 言われたし

ボティスが そっちを食ってみてるけど

やっぱり「甘い」つった。

でも、いろいろ やってみてくれてるっぽい。


「日本の海に居たが、崖に洞窟があってだな... 」


ボティスと、ジェイドと朋樹が 説明してて

琉地を避ける動きをする榊が、四郎とアンバーと

カフェのカウンターケースに並べられた ケーキを見に行ってる。


他の屋台も出て来てて、泰河が オレに

「見に行こうぜ」って 誘う。


琉地は師匠と居るし、空になったカップをテーブルに置くと、師匠に

「氷が入った物は買うな。お前達の腹に合わん」って 注意を受けて、泰河と 屋台を見に行った。


「肉入った スープみたいのもあるな。

オレらじゃ、買えねぇけどさ」


「おう。焼き鳥みてーのも 食いてーけど...

なあ、おまえさぁ

死神が “ユダ” ってこと、知られたくねーの?」


さっきのことが気になって 聞いてみたら

「いや、オレが話すより

ミカエルとかから 話す方がいいかと思ってさ。

ユダ って、イスカリオテのユダ以外にも

たくさん居たらしいじゃねぇか」って 答えた。


うーん、まぁ それは そうかもなぁ...

けど、ミカエルが言うなら

イスカリオテのユダなんじゃねーかな? って

オレは思うんだよなぁ...


死神と話した時、ジェイドも何か 引っ掛かってたみたいだった。だから

“死神のことも 分からないし” って言った時

あれ? って思ったんだよな。

オレら... っていうか、泰河が何か知らないか って

カマ掛けたのかな... って 気がした。


けど、死神がユダ ってことは

シェムハザも知らなかった。


死神が 自分の正体を隠してる ってことだろうし

話すかどうかは、ミカエルに任せた方がいいかな。 ま、オレ、あんまり関係ねーし...


「オレ、一回 戻ろうかな」


「あ、教会行く?」


泰河、告解したい って 言ってたもんな。

「オレも行くぜ」って 言ったら

「おう」って 嬉しそうなんだぜ。


「... 円盤?」


師匠の声がした。

えー、そこに引っ掛かったのかよ?


「少し 調べて来るが、此処バリに居るのか?」と

師匠が 椅子を立つと

「いや、日本むこうか こっちかは分からん。

認識されんからな。何かと不便だ」って

ボティスが答えた。


「では、来る時は サロンとサプッを。泰河」


呼ばれた泰河が 近くへ行くと、師匠は

「ナシゴレン」って ビニールに大量に入った パックを渡して、琉地が掛けてるサングラスを

「借りる」って 掛けて消えた。

それ 四郎のなんだけど、親切な神だよなぁ。


「食う?」「バルフィも まだある」って

テーブルに、ナシゴレンのパック配ってたら

「ボティス、お前等」って アコが立つ。

オリーブグレーのシャツ着てんだけど

パープルのサロンに 黄色のサプッだし。


「ミカエルと シェムハザにも

珊瑚礁と、洞窟の話をして来たぞ。

もう、ダンスの時間だったから

パーティーは もうすぐオヒラキだ。

“終わったら、テントに戻る” って言ってた」


話しながら、椅子 持って来て

ナシゴレン食ってるし。

テーブル、二つに分けた方が いいよなー。


幻惑で、店員にケーキ出させて 買って来た

榊と四郎と、別のテーブルに着いて

ナシゴレンから食ってたら

「これ食ったら、一度 戻ろう」って

アコが言ってる。


「今日は あの辺りで、夏祭りがあるんだ。

四郎は、夏祭り初めてだろ?」


「おっ、祭りか」「行きたいよな」


四郎が「はい!」って 答えると

早々と ナシゴレン食い終えたアコは

「浴衣 準備しとく」って 笑って消えた。


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