『珊瑚を見たいのです』って言う 四郎を連れて

アコが案内してくれるとこまで ボートで行ってみたんだけど『ここ?!』って ビビるくらい

深そうだった。


釣りしてたのは、リラが繋がれてたとこくらい。

それでももう そこの時点で、頑張れば 海底まで潜れるか?... って くらいの深さだったし。


『ミカエルが居れば、海 割ってもらえるのに』

『でも まだ、ボティスと釣りしてるしな... 』


『後で割ってもらえば いいじゃないか。

シロウ、見に行こう』


『四郎、呼吸は... ?』って ジェイドが聞くと

『普通に 泳ぐ、潜るということも致しますが

アコのように 海底を歩くことも出来ます。

海中でも、息苦しいということは御座いませんでした』だし。べんりー。

四郎は アコと、海底に潜って行っちまった。


狐で付いて来た榊も『むう... 』って ムリそうだったから、シェムハザが 取り寄せた透過スクリーンを 海面に置いて、海底の様子を見ることにする。


『おおぉ... 』


ボートの端から、海面に浮いた透過スクリーンを覗く榊が、感嘆の息をついた。


『そんな すげーの?』

『シェムハザ、こっちにも術掛けして 浮かべてくれよ』


シェムハザが、二枚の透過スクリーンを浮かべてくれたから、オレらは ボートを降りて

立ち泳ぎして見てみることにした。


『おお!!』『すげー!!』


海底は、色とりどりの珊瑚で

本当に森になってるし!


『日本っぽくないよなぁ... 』

『かなり深いのに、こんなに澄んでるんだ。

珊瑚礁が見れるとはね』


ん? ってツラになった シェムハザが

一度、ボートから 海底に移動した。

アコに 何か話してるみたいだけど、アコは首を傾げてる。


シェムハザは、スクリーンを 一枚 取り寄せて

珊瑚礁の撮影をして、ボートに戻って来ると

『そっちのスクリーンでも、珊瑚を撮っておいてくれ』って 言うけど

オレら、透過スクリーンの操作 出来ねーし。


『そうだった』って、海ん中に移動して来た

シェムハザが、真隣で スクリーンに触れるけど

こんな間近に シェムハザ見たのって、初めてだったし、珊瑚見てたのなんか 一瞬で忘れて

横顔に見惚れちまった。シェムハザ、すげー...

口 開いてたけど、このくらいで普通だよなぁ。

泰河も開いてるしさぁ。


オレらんとこから移動したシェムハザを

次に 間近で見たジェイドは、見惚れながら

イタリア語で 聖父に感謝してる。


『... よし。そろそろ戻って、食事にするか』


微笑まれた朋樹は『おう... 』って 足を攣らせ掛けた。あぶねーし。珊瑚の印象も薄れたんだぜ。


海底から上がって来たアコと四郎も

『ボートで 一緒に戻る』って 言うから

シェムハザと榊んとこに アコ、オレと泰河んとこに 四郎を乗せて、砂浜へ戻った。


貸しボート 返して、ボティスたちが釣ったアジと、シェムハザが 城から取り寄せてくれた 肉や野菜を焼く準備をしてたら、もう 夕焼けの空。


「アジの半分は 一夜干しにして、朝 食おう」と

開いたアジを、干す用の網の中に寝かせて

テントの近くに立てた棒に吊るしてるアコに

榊が「ふむ!」って 嬉しそうに頷いてる。


四郎は、シェムハザや ジェイド、朋樹と

ピーマンとか玉ねぎを切ってみたりして

それすら楽しそうだし。

テントの 氷テーブルとは別に 水槽の棚が据えられて、榊のピンク珊瑚や貝殻と 一緒に

四郎が選んできた 薄い水色の珊瑚が飾られた。


海の店も、今日は もう閉まってて

人も だいぶ少なくなってる。


クーラーボックスから取った 瓶ビールを開けて

波打ち際まで行ってみたら「よう」って、泰河も来た。


オレンジの中に輝く 海の道と

何色もの夕焼け空。

寄せて返す 白い うたかたの波。


同じ海なのに、去年の夏とも 冬とも違う。

こうやって 変わってくんだよな。


「明日さ、西原神父の教会に 行ってみねぇ?」


西原神父 っていうのは、この街の教会の司祭。

リラの家系に掛けられた 呪いに関わった。


オレらが会いに行ったりしたら、気ぃ使ったりさせるんじゃねーのかな? って 思ったけど

元気なのか... っていうか、立ち直れてこれたのか

気になるし、時々 オレらが会いに行くことで

悪魔に使われてしまったことを、過去にしていけるかも。オレやリラと、この海 みてーに。


「いや オレ、告解 ってやつ、してみようと思うんだよ。信徒じゃなくても いいのかな?

ジェイドに頼んでもいいんだけど、なんかこう

距離が近過ぎてさ... 」


まいか って子の父親、ギリシャ鼻の人のことか...


泰河は、罪を背負い切れずに 自殺しようとして、

師匠と再会したり、朱里ちゃんや 浅黄に助けられて、生きることを選んでくれたけど

つい最近、精霊で ギリシャ鼻の人が出た。


オレの精霊なのか、泰河の獣が 精霊の形を取ったのか、どちらなのかは 分からない。


ギリシャ鼻の人は、偶然 通り掛かった自分の娘に

自分のことと、娘に対する心を伝えてたんだけど、オレや泰河の精霊や獣を使ってる っていう

印象はなかった。

ただ、“娘に 伝えられた” って感じだった。


うーん... 上手く説明 出来てないかもだけど

ギリシャ鼻の人からは、オレは見えてなかったんじゃないか? っていう印象。


娘さんのことは、ずっと見守ってたんじゃねーのかな? って思う。

けど、娘さんと話すことは出来なかった。


オレや泰河が、娘さんと すれ違ったから

精霊か獣が、ギリシャ鼻の人の意志に感応したのかも... って 気がする。


娘さんの まいかちゃんが、父親の死を受け止めて

『私が ママを護るね』って 言うのを聞いて

つらくて 感心もして、形容出来ない気分になった。


生きようと決めても、魂に刻まれた 自分の罪に

向き合うのは、大変なことだと思う。

泰河は、それをしようとしてるところだ。

西原神父は、信徒じゃなくても きっと

聞いてくれる。


顔に、髪に眼に、夕焼けを映す泰河に

「うん、行ってみよーぜ」って 答えたら

「おう」って、ほっとしたような顔になった。


「泰河、ルカ」


どこかの店の 持ち手のない紙袋を持ったアコが

近くに立って「もう、肉が焼けるぞ」って

バーベキューグリルの方を 顎で示す。

そう聞くと、すげー いい匂いだし。


「おっ。シェムハザが焼く肉、美味いんだよなぁ」

「アコ、何 持ってるんだ?」


「これ? オニギリ。いっぱい買って来た」


気ぃ利くよなぁ。


「榊は もう、アジ食ってるけど

シロウが 腹鳴らして待ってる」って聞いて

ビール空けて、バーベキューグリルに向かう。


グリルの 一台では、キャベツと玉ねぎ、ニンジン、ピーマン。ホイルの上で 椎茸とか ジャガイモ焼いてて、もう 一台で 牛ヒレとアジ。


四郎は 焼くのも楽しいらしく、トング持ってて

「聖みげる。ピーマンなど」って

タレが入ったプラスチックの皿に配ったり

シェムハザに配られた 牛ヒレ食ったりしてる。


ピーマンに ブロンド眉ひそめるミカエルと

榊に勧められたアジ食ってるボティスは、

肉や野菜を焼く間、透過スクリーンで撮った

珊瑚を見てたみたいだ。


「熱帯の海じゃないのに、こんなに?」


ピーマン食ったら、玉ねぎ 配られたミカエルが

また もそもそ食いながら言うと

ボティスが「後で 割ってみろ」って 言いながら

テーブルの上のタッパーを指差す。

中身は セロリのマリネだし。

榊が せっせと作ってるやつを、里から持って来たっぽい。


榊のマリネは すぐ売れて、

オニギリ片手に、散々 肉と、配られる野菜

バター溶かしたジャガイモとかも食ってる内に

すっかり夜になった。


シェムハザに ソルベもらって

コーヒーと シューアイス、ちっさい生チョコケーキも食うと、朋樹とジェイドが 四郎を連れて

コンビニに 花火を買いに行く。


「なぁ、そういやさぁ

リフェルって 天使は、どこに居んの?」


おかわりしたコーヒー 飲みながら聞いたら

「ラファエルの診療所」って ミカエルが答えた。


「翼骨と、奈落で落とされた 翼のことが気になるから、ラファエルが診てみてる」


「奈落のことに 詳しいんじゃねーの?」


「うん。アコとハティが 大まかには聞いてるけど

潜入することになったら、また アバドンの城や

他に繋がれてる罪人の話も聞く」


リフェルは、キュベレのことに関しては

何も知らないようだった。


「知ってても、隠してるだけ とか?」って

泰河が言ってみてたけど

「アコが “話せ” と命じ、ハティが質問する間に

月夜見キミサマ迦楼羅ガルダが読んでいる」って ボティスが言う。


堕天使系の悪魔が 天使を読むのって、難しそうだもんなぁ。

もう 恩寵はねーし、天使の方が上位だし。

話 聞いてると、異教神の 月夜見キミサマや師匠なら

下級天使とか 奈落の堕ちかけ天使を読むことは

出来るみたいだけどー。


「うん。天でも 一応、ザドキエルが リフェルの記憶を読むけど、アバドンは キュベレのことを

当然、極秘事項にしてるだろ?

アバドンの配下で キュベレのことを知っている天使がいたとしても、話を 外に漏らさないために

奈落からは出さない... と 考えられる」


あの時に地上に降りた リフェルを含む 奈落の天使たちは、鴉天狗に憑依して

ゾイ... ファシエルが 悪魔の身体を手に入れて

新たな能力を身につけたように、鴉天狗の死後

融合しようとしてた。

失敗したから、捨られたけど。


そういう風に 実験に使われちまう天使や

地上任務を与えられる天使は、キュベレのことは

知らねーのかもな。


「たくさん買って参りました」


花火が入ったビニール袋を片手に

ソーダ味のアイスバー 食いながら、四郎と朋樹

ジェイドが戻って来た。

「オレらのはよ?」って 聞いたら

「溶けるだろ?」だし、アコが買いに行ってくれる。


「よし。打ち上げとか噴出系 並べるか」


テントから少し離れて、砂浜の上に

筒型の花火を並べていく。

50センチくらいずつ 間隔を空けてみてるけど

手持ちじゃないやつは 五十個あった。


「これ、パラシュート出るやつじゃね?

絵が それじゃん」


ビニール袋から覗いてる パラシュートっぽいのは、打ち上げ系と別に 三つあった。

子供ん時に やってもらったことあるけど

こういうの、まだ あるんだ。


「ああ、それ。コンビニの花火の棚で見つけたんだ。こっち やってから、狐火で 少し明るくして

やってみようと思って... 」


「何だよ、それ?」


ジェイドが言ってる間に、ミカエルが

ビニール袋から パラシュート花火を取ると

導火線に指で触れて 火を点けた。


「あっ」

「ミカエル それ、置いてするやつ... 」


花火の筒から、パン って 何か飛んで

「おお?!」

「海に入る! ルカ、風!」

風の精で巻いて、ムリヤリ 位置を真上に変える。

すぐにまた パン って弾けた。白い煙が見える。

そこから カラフルなパラシュートが...


「おお?!」「何個?」


「二十個。五十個のやつも あったけど

あんまりかと思って... 」


「すげぇな!」

「オレ、二個か三個のやつしか 知らねーしぃ」


パラシュートの糸には、小さい重りが付いてて

割りと 落ちて来んのが速い。


狐姿の榊が走り、ジャンプして 一つキャッチした。パラシュートに見惚れていた 四郎も

「キャッチ競争!」って アコに言われて

落ちてくる位置に移動して 取りまくってる。


「ふうん、おもしろいな」


黄色いやつを取ったミカエルが

またビニール袋から、別の花火の筒を取って

火を点けると、パン って 何か飛ぶ。


ダダッ と 走って来た狐榊が、泰河の背中を駆け上って跳び、何か分かんねーけど 見事にキャッチした。


「痛ぇよ 榊」

「何だったんだよ?」


着地した榊に ミカエルが聞くと、榊は 口から

ポロっと それを落とした。

小っさいクマのぬいぐるみなんだぜ。


「えっ、すげー!!」

「こんなの あるのか!」


「見せてみろ」って、シェムハザが

クマとか パラシュートを手に取って見てる。


「城でも やるのか?」って 朋樹が聞いたら

「昨年、手持ちの物は 買って帰ったが... 」って

指 鳴らして、パラシュートを ふわふわ浮かせた。


「向こうの夏は、22時頃まで明るい。

暗くなると、もう子供達は 寝る時間だ。

花火が打ち上げられることはあるが、家庭で花火はしない。

時折 イタズラで、pétard... 爆竹を鳴らす者はいるが... 」


榊に クマのぬいぐるみを返すと

「城の土産に買って来よう」って、シェムハザが消えた。

「オレも 後で買う」って、ミカエルが言ってる。

ゾイを喜ばせたいっぽい。


「もう ひとつは、何だ?」


アコと 一緒に、両手の指にパラシュート提げて

戻って来る四郎に眼をやりながら、ボティスが聞くと、導火線に火を点けたミカエルが、四郎の上空の方に 筒の先を向けた。


「これも クマみたいなやつだと思う」

「何が出るか 分からん系」


ジェイドや朋樹が答えている間に、筒が音を立て

気付いた四郎が、自分の方に落ちて来た 白い何かを拾って「かわいいじゃないか!」って言う

アコと はしゃぎながら戻って来た。


「このようなものが!」って、四郎が見せたのは

ゴマフアザラシの赤ちゃんだった。

マロみたいな黒眉毛の模様があるし、かわいーじゃん。「四郎、見よ」って クマの自慢する榊と

見せ合いしてる。

リラにも 持って行ってもらおかな...


「風 出ねぇ内に、こっちも やるぜ」


朋樹が 炎の鳥の式鬼を飛ばして

砂浜に並べた花火の導火線に火を点けると、

キュウ って音立てながら打ち上がったり

ピンクや青、緑に色を変える 細いラインの火を噴出させたり、パチパチと 火花を流れ星みてーに出すやつで、砂浜が 一気に明るくなった。



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