『おお、ミカエル!』『おかえりぃ』

『待ってたぜ』『かき氷 買いに行こうか?』


オレら、ミカエル対応にも慣れてきたんだぜ。

でも別に、ごまかすってことだけじゃなくて

ミカエルが戻って来ると、実際に安心するし。


『早かったじゃん! 良かったぜー!』

『四郎を 海に連れて来たくてさ。

今、ボティスが ボートに乗せてくれてる』

『ミカエル、近くのサーフショップで 水着 選ばねぇとな』

『でも先に、天での話を聞きたいけど』


『うん。氷はいい。

沙耶夏の店で 食べて来たから』


... ってことは、先に ゾイに会って来たのかぁ。

エデンから降りたにしたら、翼も隠れてるしな。

で、店で読書してたハティに、オレらが 海にいることを聞いたらしい。


とりあえず、あんまり へそ曲げられずに済んだから、『なんか飲むー?』って

シェムハザが設置してた ポータブル冷蔵庫から

グレープフルーツジュース取って、渡そうとしたら『それ、ニガイから違うやつ』って言う。

『じゃあ、どれ?』って 泰河が聞いたら

パインジュース 選んでた。

グレープフルーツ、オレ 飲もー。


『それで、天から 奈落に?』


『うん。イザナギの書状を 長老達に渡したら

“天狗の神を 返せば良い” って 簡単に決まって、

まず 第六天ゼブル配属の天使が、長老が書いた書状を

奈落に持って行った』


長老達は、アバドンが天狗を捕らえた ってことは、何も問題視してないっぽい。

異教神だし、しかも 邪神の類だし。


ただ、天狗が 人間に害を為した訳でもねーし

日本神が出てきて 面倒くさいから

“じゃ、返せばいーじゃん” 程度の話だったようだ。

預言者として 四郎も降ろしてる国だから

無視も出来ねーもんなぁ。


『それで アバドンが、天狗を解放しなければ

また月夜見キミ第六天ゼブルに上ることになるし

天狗そんなやつは 囚えていない”って、しらばっくれたら

天が 奈落の調査に出向く』


『それまでに、天狗奪還のために

奈落に潜入するのか?』


朋樹が、“一応” って感じで聞いてみてるけど

案の定 ミカエルは

『いや。調査に出向くまではしない。

調査の時なら、アバドンが立ち会うから

その時の方がいい』って 答えた。


もし、天狗が隠されてても

調査中や、アバドンが尋問される間に探す。

あわよくば キュベレも... って よぎるけど

そう上手くは いかねー気もする。


『今、アバドンに、天狗を隠したり

どこかへ移動させたりする時間を与えることには ならないのか?』


『もちろん、考えられないことじゃないから

奈落の門には 第四天マコノムから監視をつけて

新たに開くかもしれない別口にも、注意を払わせてる。

アバドンが、天狗を解放して 天に引き渡す以外に

奈落から天狗を出せば、俺にも天にも その報告が入る』


『じゃあさぁ、アバドンが すんなり

天狗を解放したら?』


『この件に関しては 解決だろ?』


うん。いらねー質問だったよなぁ。

奈落の調査も無し ってことだし。


でも 泰河が『歓喜仏ヤブユムになっちまってたら... ?』

って 聞いたら、ミカエルは

『アバドンが 罪に問われるかどうかは分からないけど... 』って、ブロンドの眉をしかめた。


『囚人に 手を出しても、罪にならないのか?』


ジェイドが、気分悪い ってツラになる。


『必要以上の拷問は罪だけど、相手は “囚人” だろ?

囚人の尋問をする際、アバドンには ある程度

手を下す権限がある。

相手が悪魔だったら 平気で嘘つくし、話にならないから。それに、アバドンは 女型だからな』


天狗... 男の方が そういう気にならねーと

歓喜仏には なれねーよな...

天逆毎... 姫様は、アバドンが 天狗を夫として迎え入れることを喜んでた。

天狗は、母親の姫様が喜ぶことをする。


『まぁ、結果にもよる。

それによって、地上の均衡を崩した とか

何か 甚大な被害を及ぼすものを産み出した... とかになれば、話は違ってくるけど』


もし、歓喜仏ヤブユム... っていうか、やっちまってたら

どうなるんだろ?

シェムハザたち グリゴリの天使と 人間の娘だと

間に産まれたのは 巨人だった。

天使と 異教神なら... ?


『あと 気になったのは、ザドキエルからの報告で

“ウリエルが サンダルフォンに付き纏ってる” って』


一度 天に上がった四郎を、預言者として地上に降ろす時も、ウリエルは、四郎を隠すように ジェイドの教会に下ろして、サンダルフォンに掴み掛かってる。


『付き纏う って、監視でもしてんのか?』


『うん。ウリエルは 第六天で、キュベレの牢獄のことを ほのめかしたらしいんだ。

“何故 管轄を変えた?

俺は、幽閉天の牢獄に入ったが... ” って笑って』


キュベレの牢獄の管轄は、第七天アラボトから

サンダルフォンの第五天マティに移っている。


『サンダルフォンは 何も答えなかったらしいけど

ウリエルは、幽閉天に入り浸ってる。

サンダルフォンは、地上に降りる天使達の監督義務もある。罪を犯せば 幽閉天に繋がれるしな。

地上の様子を見ようと 第一天シャマインに降りる時まで

ウリエルは、“黙示録についてだが... ” とか

ペラペラ話しながら着いて行ってる、って』


サンダルフォンが 動きにくくなるように してんのかな... ?


『ウリエルってさぁ、四郎を 地上に降ろす時に

“もう立てるな” って 言ってたんだよな?』


こないだ、ガッツリ立てちまったよなー... って

思いながら 言ってみたら

『そうだな。気には なってるけど

天狗の時は 日本神絡みだったから、余計にそうなったって ところもある。

預言者のシロウの国の神々だし、シロウの身近で起こった。地上で そのイザコザを起こしたのは

アバドンじゃなく 天狗だからな。

俺にしても ルシフェルにしても

“天の預言者であるシロウが関わった” 件だから

異教のことに手を出しても、咎められることはない』らしい。


『皇帝も?』


『あいつが、“悪魔... 異教神達を治める” ってことなるから。

預言者であるシロウと敵対した天狗も

ルシフェルが “自分の監視下に置く” ってかばえば、天の殲滅対象にはならない。

今回は あいつ自身も、“甕星ミカボシ” っていう異教神だったけど』


皇帝って、堕天使たちだけのオサじゃなくって

地界全体の皇帝だもんなぁ。

日本での “甕星” だけでなく、他神話でも

別の名前の神になってそうだし。


『とにかく、アバドンが 天狗を解放したかどうかの報告を 待つことになる』


ミカエルは、パインジュースの瓶を空けて

『だから その間、俺も遊ぶ』って

なんか拗ねたよーな顔して、椅子 立つし

『うん、もちろん』

『まず、水着買いに行こうぜ』って

テントを出た。


で、ビーチの近くで発見したサーフショップで

ミカエルの水着とパーカー、ビーチサンダルとかを買うと、一度 テントに消えたミカエルは

すぐに海パン姿で 隣に立った。

紺地に白のマリンボーダー。一番下のラインだけ水色。

肌 白いけど、ゴツゴツし過ぎず 引き締まってて

均整取れた身体してるし、周囲の女の子たちに

“ステキ” って眼で 注目されてる。

朋樹もジェイドも 一緒に居るもんなぁ。


当の ミカエルは

『バラキエルとシロウのボートまで泳ぐ』って

かなり沖のボートを指差すし

『いやだぜ』

『オレら、ボートで追うからさ』って

ボート 二艇借りた。


『じゃあ、ちょっとずつ付き合えよ。

まず ルカ』


『どういうことー?』


『俺が泳ぐのに... に、決まってるだろ?』


みんなボートで、ひとり泳ぐのは 寂しいらしいんだぜ。拗ねちまう前に

『もう、しょーがねーなー』って 付き合う。

オレの次は ジェイド。朋樹、泰河。


泳ぎやめると、急に

『人魚って、尾ビレが横向きだろ?

お前等、なんでなのか知ってる?』って

ニコニコして聞いてくるし。


『そういえば、イルカやクジラも水平だね』


ジェイドが、濡れたアッシュブロンドの髪を乾かすように、指で わしゃわしゃやりながら

続きを聞きたそうに促してる。

実は 知ってるんだろうけど、ミカエルが あまりにニコニコしてるから、話してもらうことにしたっぽい。

『その方が かわいからじゃねぇのか?』って

うそぶく朋樹も 知ってるとみた。


オレは 本当に知らねーし

『なんでなんだよ? ジャンプするため?』って

聞いて、泰河も

『そういや、魚の尾ビレの向きって

ほとんどが縦だもんな』って

“教えてくれ” みたいな 顔になる。


『うん。イルカやクジラの哺乳類は、エラ呼吸じゃないだろ?

呼吸のために、速く海面に顔を出せるように

つまり 海中を縦に速く泳げるように、横向きの形なんだぜ』


『えっ、そうなんだ!』

『そうか! 魚類は エラ呼吸だもんな!

海の中で素早く横に進めるように 縦なのか』


オレと泰河が 感心して、朋樹もジェイドも

『人魚も たぶん哺乳類だしな』

『呼吸のためなのか』と

“ためになった”って ツラしたら、ミカエルは

『うん。それぞれ よく出来てるだろ?』って

満足げに海中に潜る。


で、足ヒレもねーのに、両足揃えた 人魚みたいな泳ぎ方で、すげー スピードで行っちまうと

遠くから 顔出して『早く来いよな!』って言う。

はしゃいでるんだぜー。


四郎たちのボートの近くに着くと、

釣り糸垂れてる ボティスに

『もう 戻ったのか』って 言われてんのに

『俺も釣りする! シロウと バラキエルと』って

二人用のボートに 無理やり乗った。


四郎は、麦わら帽子 被されてたけど

アコが買って来たらしい スポーツドリンクのペットボトル片手に、海中の網の中のアジを指して

『聖みげる。これは 私が釣ったのです』って

楽しそうに教えてる。


『あれ? 榊はー?』って 聞いたら

ボートに 長い脚伸ばして、ビール飲んでるシェムハザが、小麦色の髪を輝かせて

『アコと潜って、貝殻集めをしている』と

海中を指差した。

いつの間にか ティーシャツと海パンだし。


狐姿の榊が、口に でかい巻き貝の貝殻を咥えて

海面に顔を出した。


まだ ボートに上がってなかった泰河が

『榊、口ん中に 水入らねぇの?』って 心配すると

ボートに前足掛けて、ぽと って 巻き貝落とした榊は

『ふむ。まだ空は駆けれぬが、喉元にて水を止めることは 習得済みよ』って、狐のまま笑った。


『榊』


アコも 海面から顔を出した。

いつも通りに ハーフアップにしてる黒髪が

全然 濡れてねーのが 不思議だけどー。


手には、両手に収まるくらいの ゴツゴツした石を持ってて『あっ、ミカエル おかえり。

お前等も ボート借りたのか。飲み物いる?』って

石を ひっくり返す。


『のっ!』


石には、ピンクの 小さな木みたいのが付いてた。


『珊瑚じゃないか』

『桃珊瑚だ』


『うん。もう少し深いところまで行ってみたら

他の種類のも群生してて、森になってたぞ』


『なんと... 』


『アクセサリーに加工も出来るが... 』って言う

シェムハザに、長い鼻の首を 横に振って

『竜宮は 沢山の このようなもので、艶やかに彩られておると聞く。玄翁への土産にしたくある』と

切れ長の黒い眼を輝かせてる。


『うん。もっと赤いのもあったけど

ピンクが かわいいだろ?

玄翁と浅黄の土産も取って来る。これは榊に』


アコが、ボートの上のシェムハザに

ピンク珊瑚を渡すと、アジ釣り上げたボティスが

榊に振り向いて『綺麗だ。良かったな』って

“貰っとけ” って風に言うと

榊は『ふむ... 』と、シェムハザのボートに上って

珊瑚の枝の匂いを嗅いでみてる。

潮の匂いなんだろうけどさぁ。かわいいんだぜ。


『嬉しくある。礼を申す』


榊に『うん』って 答えたアコは

『シェムハザのボートに イオン飲料があるぞ』って オレらに言って、また海に潜って行った。






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