49 ルカ


「これは?」と 聞いたスサさんに、

迦楼羅は「バルフィ」って 答えた。

食ったスサさんは「甘い」つってる。


「ツキ。異国等のも」って スサさんが勧めて

月夜見キミサマやボティスたちも摘んでみてるけど

ビビるくらい甘いっぽい。

月夜見とスサさんって、食い物 勧め合うよなぁ...


「これも、アムリタのように回復するのか?」


「いや」


聞いたシェムハザも、答える迦楼羅も 真顔だし。

サービスかぁ...  ミカエルが

「うん。シェムハザ、珈琲。濃いやつ」って

言ってる。


「あれ、どっから出したんだ?」


朋樹が不思議そうに聞くと

「ああ、なんか 用事だけこなしてくれる配下がいるらしいんだよな。

飯とかも いつの間にか出てくるしさ」らしい。

シェムハザんとこのディル的な 式鬼っぽいヤツ

... って 感じなんかな?


迦楼羅ガルダ師匠。解いてくれて ありがとう」


ジェイドが言うと、迦楼羅は「うむ」って

オカッパ頭で頷いた。

ジェイドの師匠じゃねーけど、細かいことは

気にならねータイプっぼい。

オレも 師匠って呼ぼかな...

そういや また最近、ヒポナに連絡してねーし。


「うん? そうよ。

迦楼羅かるら様、ありがとうございます」

「礼を言う」


トビトとスサさんも、今 気付いた感じで言った。

あまりに、すうっと 解いてくれたし

すぐ バルフィだったもんなぁ。

けど これで、操作される心配は 無くなった。


「うむ」


トビトとアコの間にも バルフィの皿が出て

オレらのテーブルにも 同じ皿が出る。

お礼言って食ったけど、濃厚な固形練乳って味で

「なんと... 」って

四郎が ふるっと、ちっさく震えた。


テーブルでは「甘い」「うむ」って

天狗会議が始まってて、榊たちも参加してるけど

オレらは、エスプレッソとバルフィ食いながら

「四郎を 天から教会に落としたのは、何故か

ウリエルらしくてさぁ... 」とか

泰河と別々に居た時の 細かい話しをする。


「なんで、ウリエルが?」

「さぁ... “半身サリエルを探してる” って 言ってたらしいけどね」

「サリエルって、まだ ベリアルんとこー?」

「だろうな。オレらじゃ ベリアルに聞きづらいし、ハティとかが 話しは聞いてるだろうけど... 」


話してる間に、泰河のスマホが鳴った。

朱里ちゃんからのメッセージらしく

アプリ開いて読んだ泰河が “おっ” て 顔した。


「部屋、“引っ越す” ってさ」


「ん、マジで?!」「良かった」「安心だな」


バルフィに 砂糖入りラテの四郎も

「良い御決心を なさいましたね」って

ホッとした顔で笑った。

泰河は「おう」って 照れ答えしながら

朱里ちゃんに返信打ってる。


「朱里ちゃんは、遠慮するタイプだから

どうかな... って 思ってたんだけど」

「逆に 気を使ったのかもな。

泰河 おまえ、ちょこちょこ 朱里ちゃんとこ行けよな」


「おう」


「オレも ちょこっとだけ、リラに 会えてさぁ」


ど甘いんだけど、なんか食っちまう... って

皿から バルフィ取りながら、何気なく言ったら

「... おまえ、マジか?」って

泰河が スマホから顔上げて、オレに向いた。


「ん。沙耶さんの店で

ミカエルが、ザドキエルとアリエル喚んだ時に。

光の形だったけど、リラだったぜ」


聞いてる内に、泰河は 眼を赤くした。

もう またかよー。

なんか こっちが照れくさくなるんだよなぁ。

嬉しいんだけどさぁ。


「ルカが “mon cœur” と 言うと、リラちゃんは

光の形のまま、ぴょこぴょこ跳ねたんだ」


「おう、かわいかったよな。

“楽園の仕事も術の修行も 頑張ってる” って

アリエルが教えてくれてな」


「そうか...  ルカ、良かったな」


感動してる 泰河に

「オレ、おまえに 話したくてさぁ」って 言ったら

「おう」って、軽く鼻すすって 照れやがって

朱里シュリに話してくる」って

スマホ持って、バルコニーに出た。


「りら という、御使あんじょの方は... 」


「ふむ。ルカの恋人なる女子おなごよ」


遠慮がちに聞いた四郎に 榊が答えた。

テーブルの話しは ミャンマーのことに飛んでいて

退屈になったっぽい。


「人神様ばかりである故、ちぃと緊張するしのう」って、空いた 隣の席に座る。

六人掛けだから、泰河が戻っても座れるけど

テーブルの方 見ると、榊の代わりに

浅黄が ボティスと月夜見の間に座ってた。


「ルカとリラは、海で出会うたものであるが... 」


“緊張するから” って 言ってたけど

たぶん、こういう話に寄って来たんだろーな。

榊って 最近、恋愛系の話がしたくて しょーがねーもんなぁ...

切れ長の眼ぇ 輝かせて、かわいいけどさぁ。


「それは海中より リラがルカを見掛ける... という

一方的なものであり、ルカは 気付かなんだ。

しかし 儂はリラと、夏夜の浜で出会うたのじゃ。

リラは、美しき人魚であった... 」


語ってるぜ、榊。オレの話をさぁ。

けど 四郎も「おお、何と... 」って 聞き入ってるし


「でも、地上で ルカと再開したんだ」

「ボティスが 天に取られた時に

ザドキエルが、リラちゃんを預言者として

こっそり 降ろしてな... 」


何故か、ジェイドと朋樹も

優しげなツラで 語り出したし

オレも 普段なら

“そ! あいつ、かわいくてさぁ”... とか

快調に 話しまくるんだけど

なんか やたら、照れくさくなった。


妹のリンより歳下の四郎に 話してるからなのか

あの 天草四郎に話してるからなのか

リラを想う心が、今までの誰の時とも違うからなのか、どれが理由かは 分からねーけど


「ルカは、今まで 僕が見たことのないような顔をしていた」って 話すジェイドに

「うるせーしぃ」とか、笑っちまったりして

「もう、なんか照れるしさぁ」って 白状して

泰河がいるバルコニーに 行ってみることにした。


朱里ちゃんとの通話が終わってた泰河は

清々しいような いいツラしてて

「よう」って 言ったら「おう」って 言う。


「朱里も 鼻声になったりしてて、喜んでたぜ」


「ん、そっか。

朱里ちゃんにも 会わせてーよなぁ。

引っ越しも 快諾してくれて、良かったし」


「おう。ゾイと沙耶ちゃんが 朱里の店に行って

“同じマンションに” って、誘ってくれたみてぇなんだ。

朱里の部屋って、ショーパブの方の繁華街に近いからさ、どっちにしろ 引っ越しは考えてたみたいなんだよな。タイミングも良かった」


「おっ、ゾイと沙耶さん、すげぇじゃん」


「おう、なんかゾイも 積極的になったよな?

で、朱里は、費用のことが やっぱり気になったらしいけど、ゾイが ハティ喚んだらしくてさ」


「えっ、店にかよ?」


「そう。他の客とかには 目眩めくらまししてて

テーブルのグラス 錬金して、純金に変えてさ

ゾイが、“私の父” って 紹介した... って」


ハティは “我儘な娘で すまない” と

テーブルのボトルや皿、スプーンやフォークまで

純金にしながら、“だが 聞いてやって欲しい” って

朱里ちゃんに笑ったらしい。すげーけど 怖ぇし。


ゾイが、“カジノのインゴットもハティだよ” って

教えて

純金のグラス... いや、杯?で ワイン飲みながら

“地上の部屋の 一つや二つなど... ” みたいな

雰囲気を醸し出すハティに 微笑まれた朱里ちゃんは、“甘えた方がいいのかも”... って 気になったらしかった。

もう、甘えねーほうが ヤバい気するもんなー。


「けどさ、やっぱり “ゾイと沙耶ちゃんが

誘ってくれたのが嬉しかった”... って 言っててさ。

朱里、この辺りからは 実家が遠いらしいしな。

ショーパブの時の友達もいるけど、リラちゃんが

一番 仲良かったみてぇなんだ」


そっかぁ...  それで、仲良くなったリラとも

離れちまったんだもんな。


「これからは、ゾイも沙耶ちゃんも いるし

榊も行くだろうしさ」


「おう。オレも、琉地 派遣するぜー」


「おう、頼むぜ」って 笑った泰河は

今までより、おおらかになった気がして

泰河がつらい時に 支えてくれた朱里ちゃんに

すげー 感謝する。厳しかったけど、浅黄にも。


「なぁ、おまえさぁ」


庭の、バラバラになった ドワーフ像の破片を見ながら「忘れなかったしさぁ、走ったよな」って

泰河に言ったら

「は?」って、キョトンとした声を出す。


「“ライラック” 追って、エデンに」


何も答えねーしぃ。

どんなツラになってるか、想像つくけどよー。


オレも見ないで

「オレも、また おまえが走ったら 追うしよ」って

言って、河川敷で 二人でコーヒー飲んだこととか

思い出したりした。




********




「しかしさ、一応 日本神の姫様が産んでるのに

天狗は、煩悩を呪詛にして 操作する... って

何でなんだろうな?」


シェムハザに『お前達は そろそろ寝ておけ』と

客用寝室に行かされた オレらは

壁際に 二台ずつ並ぶベッドと

別室にあった 折り畳みベッドを持ち込んで

四郎も含み、それぞれ横になって話す。


ベッドの頭の方向は、入口側からも奥側からも

部屋の中央側だし、奥の折り畳みベッドで

ジェイドと朋樹の間にいる 四郎は

「この様に、皆で寝るのも楽しいですね」って

ニコニコしてるんだぜ。


「魔像が、廃仏毀釈で埋められてた 仏像だからじゃねぇの? その中で生まれてるんだしさ」


「おお、成る程」「泰河」「冴えてんじゃん」


朋樹は、自分の疑問に さらっと答えた泰河に

「どうしたんだよ、おまえ... 」って

軽く驚愕する。


「いや あの魔像さ、最初って 何の像だったのか

気になってたからさ」


泰河が 迦楼羅に聞いた話では

下級天使が 魔像を見つけた時は、人の顔だらけだったらしい。無数の人の魂を吸収してたから。

迦楼羅が見つけた時は、下級天使が入っていて

観音像のような 女神像だった。


観音菩薩... 観自在菩薩 自体

人々の悩みに応じて、“三十三応身” っていって

千手観音とか 十一面観音とか、いろんな姿になる。

けど 魔像は、入った神の姿になる っていうし

魔像の元々の形が 観音像だった... とは

考えねー方が いいよなぁ。


「モレク儀式の山だろ? 寺の跡地」


「密教系だったんじゃね?

ダキニさんの儀式も やってたヤツら居たじゃん」


狐女こめサマがいる って噂もある山だったしね」


「こめ様とは?」って 聞く四郎に

「人の心臓とか生き肝喰う... っていう きつね女みたいだぜ」って、軽く説明する。


「けどさ、狐女サマは 寺とは全く関係無いって

恐れもあるよな。

“寺” じゃなくて、“山” の 都市伝説だった場合」


「ですが、そういった噂が出るのであれば

やはり 密教寺だったのではないでしょうか?」


「そうだよなー」


朋樹が、スマホのマップで モレク儀式の山を開き

その辺りの情報を調べてみてるけど

何も分からなかったっぽくて、枕元にスマホを

ポイっと投げる。


「スマホ、故障しなかったのか?」


ジェイドが聞いてるのは、朋樹が池に落ちたからだと思うけど

「ああ、仕事で いろんな目に合うから

一応 防水のやつなんだけど

シェムハザの仕事道具入れの おかげだと思うぜ。

濡れてなかったしな」とか 言った。

地界素材すげー...  シェミー やるよなー。


尾刀ビトウくん、何か分からねぇかな?

バンガローとか貸別荘の 管理のとこに

いるんだけどさ」


「モレクの時に聞いて、知らなかったのなら

何も知らないんじゃないか?」


「でも、“何か知ってる人” のことは

知ってるかもしれんぜ」


「明日、連絡してみるー?」って 言ったら

泰河が すぐに「そうしようぜ」って 答えた。


「おまえ、何か考えてる?」


朋樹が なんか引っ掛かった って感じで聞いたら

「師匠に聞いたんだけどさ... 」って

迦楼羅が 二度目に像の中に居た時のことを話し出した。

像の中で、天狗を押さえ付けていたようだけど

天狗に 融合されそうになってたらしかった。


「柘榴は... ?」


「いや、師匠は何年も入ってた っていうのもあると思うんだけど、やっぱり心配でさ」


天狗像も 水竜巻になってたもんな...


迦楼羅ししょうは、“迦楼羅かるら天” で “迦楼羅ガルダ” だからな。

簡単には融合されねぇだろうけど... 」


柘榴は霊獣だし、どっちかと言えば

天狗側の類になると思う。


「ですが、心経などを唱えられますし

山神として、月夜見命の加護もありましょう」


「おう、そうだよな」って 泰河が頷くし

オレらも 大丈夫だ って信じたいけど

何にしろ、救出は 急がねーと。


「とりあえず、明日 尾刀ビトウくんに連絡して... 」


カーテンのすき間が 明るくなってきてたけど

まだ話してたら、寝室のドアが空いて

花砂糖っぽい 爽やかな甘い匂いが漂ってくる。

シェムハザが 無言で指を鳴らすと

オレらは、ふわっ と 眠りに落ちた。




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る