17 ルカ


「あのさぁ、ココなんだけど... 」


どう話したもんかな... って 思うけど

なんか、ゴマカすのもな って 気になったんだよな。朋樹と眼が合うと、朋樹が引き継いで話す。


「こう、いろんなことがあって

シイナやニナも、一度 巻き込まれたから

妙なことが起こることがある ってことは

何となく分かったと思う」


二人とも頷くと「座ったら?」

「立たれてると、圧迫感あるんだけど」って

オレらに言うし、テーブルと向かいのソファーの位置を直して 座る。


「話してて。聞きながら飲み物持って来る」と

ニナが立つし、オレも手伝いに行って

バーから グラスとトニック、氷を運ぶ。

「何がいい?」って 聞かれたから

「さっき開けてたジンでいいし」って 答えて。


「オレらは、そういう妙なことを起こすようなヤツを 相手にする仕事してるんだけど

シイナやニナが巻き込まれた件も、今回の鏡影も

でかいヤツが関係してる。

そいつに ココの魂は、飲まれて無くなった と

考えられるんだ」


テーブルに戻ったニナも、ソファーで聞いてたシイナも、よく分かんねーって 感じだし。


「“飲まれた”?」

「天国にいたり、生まれ変わったりしない って

こと?」


「そう。

つまり、降霊しても喚べない ってことだ」


「取り戻せないの?」


「飲まれちまってたら 無理だろうな」


「飲まれてなかったら?」


それは、ないと思う。

キュベレの目覚めのために、魂を集めてるしよ。


「いや。飲まれてると 考えられる。

ココ以外にも、被害者はいる」


ジェイドが言うと

シイナは「そうなんだ」と、瞼を臥せた。


「あの “天人” の 復活のため?」


「いや、違う。四郎も そいつらが

魂集めに利用するために 復活させられた」

「四郎自身は、誰も取ってないし

今は オレら側」


「飲まれちゃったら

もう 伝えられない ってことだよね?」


そうなるんだろうな。

ボティスやシェムハザは、魂を飲むと

“共に生きることになる” って 言ってたけど。


... いや、シェムハザは

一度飲んだ ジーク... 前の奥さんの魂を出して

他の人に与えた。“共に生きよ” って。


けど、それも シェムハザだから

出来ることなのかもだよな。

自分の魂も分けちまうくらいだし、

それは シェムハザにしか出来ないって聞いたし。


「飲まれた魂が、どうなってしまうのかは

正直、僕らにも 解らないんだ。

だけど、天や 他の冥界にいるんじゃなくて

飲んだヤツの体内にいる ってことになる。

そこから喚び出すことは出来ない。

伝えたいことが 伝わるかどうかも 解らない」


「それに」と、朋樹が

「通常なら、わざわざ喚び出したりしなくても

想いは伝わるけど

基本的に、生きてる間に 伝えられなかったことは

もう 諦めたほうがいい」と

氷とジンのグラスを 口に運ぶ。


「亡くなった人の方から、働き掛けがある時もあるけど、それだって稀だ。

“どうしても” っていう 一言が ほとんどだしな。

生きてる側からの働き掛けは、現世に引っ張って

魂を縛ることもある。狭間に落とすこともある。

成仏、昇天、その先の転生まで

魂の道行きの邪魔をすることになる。

オレらは、そういう迷ったものを強制的に送って

残った念を消す仕事をしてるからな」


相手や自分が 生きてる間に伝える... って 生き方が

本当なんだよな。

“伝えたいから” って、相手を現世に喚び出して

言いたかったことを言うのは

生きてるヤツの 勝手なのかもしれない。


これを思うと、リラに会いたい って 考えるのは

オレの勝手なんじゃないか と 思う。

リラは 天使として、新しい世界にいる。

好きだと想ってるだけなら いいかもだけど...


「うん、わかった。私が 気付かなかったから。

そうだよね、普通は。

キョウケイだったけど、ココの顔見ちゃったから

“伝えられるのかも” って 考えちゃって」


シイナは、トニックウォーターも入れたグラスに

エクステ睫毛の眼を落として

「でも ココは、もし 出て来たくても

出て来れないんだよね?」と

少し拗ねたように言った。


「それは、ズルい気がする」


「まあ... 」「そうだな」


完璧な被害者だもんな。

ソカリも、ギリシャ鼻も人も

その首が すげ替わったマキタって人も。

これから 出会う人も。


「その 飲んだヤツを殺れたら、取り戻せる?」


「いや。殺れねぇから

起こさねぇようにしてるんだよ」


「起こさない って?」


「眠ってるんだ。これをやってるのは

そいつを起こそうとしてるヤツら。

とにかくな、もう 鏡影は出ない。

何かあったら、また相談してくれたら いいから

もう二人共 寝ろよ」


朋樹が話し締めたし、グラスのジン空けて

ソファーを立つと

「戻るの?」と、ニナが 不安そうに言う。


「おう。ジン、ごちそーさん」

「ニナたちも、もう別にホテルに居ることもないぜ。寝づらかったら、帰って寝たら?」

「もう深夜だし、朝帰った方がいいと思うけどね... 」


「お前達、遅いぞ」


アコだ。いきなり出現したし

「ちょーのーりょく」って言っておく。


「アコ」


ニナは嬉しそうなんだぜ。


「よう、ニナ。女王サマ。

なんか出たんだって? でも もう解決したんだろ?

こいつ等は 仕事の話があるんだ。

“藍色蝗使いの見当を付ける” って言ってる」


後半はオレらに言ったし

「じゃあなー」「おやすみ」って

テーブルから離れる。


「待ってよ、アコ。

さっき オバケ見たし、不安なんだけど」


ニナ、かわいいよなぁ。


「でも俺も忙しいんだ。順も まだだろ?」


「順?」と、シイナが怪訝な顔をすると

「寝る順。並ぶ?」って さらっと無言にさせた。


「チェックアウトの時間は?」

「11時」


「わかった。じゃあ、その時間に珈琲に行こう。

シェムハザ」


オーロラが揺らめいてシェムハザが立つと

シイナがオレに「超能力?」って聞いた。


「シャワーとか化粧とかあるだろうし

朝9時くらいに頼む」


シェムハザが指を鳴らすと、二人はソファーに

くたっ と寝たので、ベッドに運んで 部屋を出た。




********




「遅いんだよ、お前等!」


ミカエルは ご立腹なんだぜ。

“また、この国の術師なんじゃないか?” って話に

なったみたいだけど

榊と四郎だけだと あまり術師の名前が出ずに

見当は付いてないみたいだった。

 

「ニナやシイナが不安そうだったんだ」

「オレらが話に入っても大差ないぜ。

縊鬼や鏡影の使役 って聞いたことねぇし、

奈落で蝗もらって、能力も上がってるんだろうしな」


「ミカエル、怒るなよー」って言ったら

「ルカ、お前 こっち来いよ!」って

ソファーの隣を指す。

四郎は ボティスと榊の間にいるし、なんか拗ねてやがったんだな。


「なんだよ、寂しかったのかよー」って 座ったら

「お前、あのイシャー達のこと... 」って 言い出した。

「えっ それ、ここでもやるのか?」って

アコが喜んでるしさぁ。


ミカエルに、肩に腕 回されながら

シェムハザお取り寄せのコーヒーもらって

「ゾイ喚んだら良かったんじゃね?」って言ってみたら

「喚んでも仕事の話になるだろ? 新蝗の」って

マシュマロ食ってるし。それもそーだよな。


「ルカ、いつもは 泰河と床だもんな」って アコが言った。ソファーは広いけど 全員は座れねーし

今日の床は、めずらしく朋樹とジェイド。

ミカエルは オレに気を使ったのか...


「高名な僧や術師だった者、他には?」


朋樹やジェイドにもコーヒー渡しながら

シェムハザが聞くけど

オレ、朋樹や泰河ほど 詳しくねーしさぁ。


「まだ “この国の” って 分からんくね?」って

言ってみたら

「悪魔や異教神に、縊鬼や鏡影が使役出来るならな」って、ボティスが ピアスを弾いた。


「あっ、そっかぁ。

今んとこ、なんか 和物っぽかったもんなー」


「でも、使役したのは 新蝗だぜ?」って

ミカエルが オレの側頭部に 横倒しにした自分の頭を付ける。もう クセってこと?


「ああ、確かに」「まだ分からないね」


朋樹もジェイドも、ミカエルにツッコミは無いんだぜ。周りも慣れてきちまってるよなー。


「だが、蝗を憑かせて使役する場合でも

使役する立場に立つなら、自分が理解出来る者を

使おうとするだろう?」


アコが ふざけて しな垂れ掛かるのを

胸に抱き止めながら シェムハザが言ったけど

シェムハザが アコに視線を向けると、

アコは すぐに「やばい」って 真顔で起き上がった。 アコでもかよ... シェミー、怖ぇ...


「うん、俺なら 下級悪魔系を使う。

使い方解ってる方が ラクだしな」


もう立ち直った アコの言葉に

「元人間とは限らんかもな」と

ボティスが反応した。


「元より魔の者と?」「その可能性もある」


「範囲 拡がってんじゃーん」

「幾らでもいるぜ」


「でも、アバドンが目を着けたのなら

人でも 人でなくても、有名なんじゃないのか?」


「ですが それでも、まだ何も 相手の特徴は... 」


そうなんだよなー...


「縊鬼からは、蝗 出なかったよな?」

「だが、魂集めには適している」

「藍色蝗使いの下には、縊鬼を使える者がいて

そいつに 蝗を憑けている... と したら?」


「藍色蝗使いが判明した場合は?」

「名縛りで呪詛掛け」「捕まえて罪を量る」


「泰河に さ」


テーブルの隣に 胡座あぐらかいた朋樹が

いつも通りっぽい 何気ない口調で言った。


「話しといた方が いいかもな。蝗 出たしよ」


「そうだな」「奈落関係だからな」


シェムハザとボティスが すぐに答えると

朋樹は、ほっとしたような 嬉しそうな眼になった。なんかオレが くすぐったいんだぜ。


「うん、早く戻りたいね。いつも通りに。

ずっと何か 物足りないんだ」


ジェイドが言ったら、朋樹は

「いや、ルカが うるさくならねぇのは

いいんだけどな」とか 言うしさぁ。

何 照れてやがんだよ。


「しかし、“奈落の蝗が出た故” などの理由で

“戻れ” と 申すのものう... 」


「うん、そうだよなぁ...

獣とか 仕事が しんどくて、

“やーめた” って なってるんだしさぁ」


「けど あいつ、自分からは戻らねぇぜ」

「戻りにくくも あるだろうね。こうやって 何か

戻る理由があった方が いいんじゃないか?」


「そのような理由を提示しようと

きっと、皆さんの “共に居りたい” という心は

伝わるものだと思います。友ですので」


そう言った四郎に ミカエルが頷いて

ボティスが四郎の頭を わしわしする。


「俺、行って来ようか?」


アコが早々に ソファーを立つけど

「えっ、今 朱里ちゃんと 居るんだろ?」って

それはめとく。


「じゃあ、朝?」「昼過ぎくらいが いいかな?」


オレやジェイドが言うと「おう、そうだな」って

朋樹がまた さっきの眼になった。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る