11 ルカ


********

********




「四郎、制服が届いたよ」


「はい」


「おお、着てみるが良い!」


榊に言われて、四郎はまた

「はい」って 返事をすると、ジェイドに連れられて、二階の自室へ着替えに行った。


四郎は、マジで神童だった。

教科書や参考書を 一度読むだけで、内容を理解しちまう。ほんの二週間程度で、私立中学卒業並みの学力を身に付けた。すげーよなぁ...


“四郎の両親が海外で仕事” って ことにして、

それ以前の学歴データと

朋樹ん家の親戚データを、アコが仕込み、

朋樹の現住所に 四郎の住所も移した。


転入試験を受けたのは、オレの妹が通う高校で

見事合格した。リョウジくんも通ってる。

制服も届いて、来週から学校に通う... ってとこ。


「学校ってさぁ、こっちが ドキドキするよなぁ」

「ふむ... しかし 儂が狐身にて、偵察に行く故」

「どっちにしろ、配下と守護天使を 見張りに付けるがな」


今は、ジェイドん家で コーヒー中。

もうすぐ夕方。


四郎とミカエルが 天から戻って、必要な物を買った日は、また 仕事の話とかすることになったし

召喚部屋へ移動した。


ボティスと榊も来て、シェムハザとハティも呼び

四郎が天から戻った経緯いきさつを説明して

ミカエルが、ウリエルの話をする。


『サンダルフォンは、シロウのことは?』


『たぶん見てない。

ウリエルは、サンダルフォンから シロウを

隠そうとしたように見えたぜ?』


四郎には、“なんで エマや四郎が蘇らせられたか”

... っていう理由を説明する。

アバドンのことから、サンダルフォンのこと。

泰河の獣の血のこと。


四郎は、天使であるサンダルフォン

... 預言者エリヤだった人が

キュベレを起こそうとしていることや、

ほぼ 黙示録が起こっている状態 だということに

驚いていたけど、オレらと一緒にミカエルが居て

天では聖子にも会ってるから、

今の状況を すんなり納得してた。


四郎の件に関わった パイモンも喚び、

ベルゼには ハティが地界へ話しに行った。


パイモンは、四郎に『利発だと聞いている』と

地上のものだけでなく、地界の医学書も渡して

時々 講義に来るし

シェムハザやボティスも、術を仕込むって言う。


『バカ言うなよ。シロウは子供なんだぜ?』と

ミカエルは、仕事に巻き込むんじゃないかってことを 警戒していたけど

『自身の身を護れずに どうする?』

『シロウのことは、アバドンが知っている』って

ちょっと口論になった。


結局、四郎自身が

『私に血肉を分けた人々を護りたいです。

共に戦います』って言って

案の定、ミカエルがヘソ曲げたけど、

さんみげる。あなたの守護のもとに』って

上手く甘えて

『うん。勝手なことはしちゃダメだぜ?』って

落ち着いた。


なんかさぁ、四郎は

“お飾りみたいに立てられる” んじゃなくて

“地上勢力の 一員” っていうのが、嬉しいみたいなんだよな。

この辺りのことは、ゾイが すごく分かるらしい。


『大切な友で、お互いを思い合える仲間だから』


天使同士も、もちろん仲間だけど

地上勢力のそれとは違う って言う。


『人間も霊獣も、悪魔も天使も 種を越えて

共に 手を取れるなんて。

きっと本来は、そうあるべきだって思う』


四郎は 榊に

『私は あなたに、化生けしょうと言いました』って

謝ろうとしたけど

『何。実際に 人語を話し、人に化けもする化生である故、構わぬ。

儂等からすると、そう悪い言葉でもない故』と

握手した。


四の山... キャンプ場の広場で

六山のおさや 霊獣たちにも、四郎を紹介すると

『かの 天草四郎時貞殿とは... 』って

ざわざわした。

霊獣たちは 長生き多いし、知ってんだろうけど。


大きく空いた襟ぐり、地に着く裾の 緋の地に五色の花模様の あでやかな着物。前で結んだ金の帯。

結い上げた髪に六本のかんざし


露子を抱き、界の番人姿の榊に見惚れた四郎は

ボティスに視線を移して、頬を染めた。


『ぼてぃす。あなたの奥方は美しいですね』と

ボティスに申告して、ボティスの でかい手で

頭をぽんぽんされる。榊、きれいだもんなぁ。


界を開くと、長たちや霊獣たちがひざまずいて

扉から出て来た月夜見キミサマを、浅黄がエスコートする。


高い位置に括った黒髪。

白い神御衣の胸に、幾重もの翡翠の数珠。

精悍な頬に 凛々しい眉なんだけど、

眼とか くちびるに、やたら色気あるし。


月夜見命つきよみのみこと』と 四郎が礼をすると

『天草の... 』と、神御衣かんみその袖の中に組んだ手を出して、握手をした。


“どういうことだ” っていう視線を流す月夜見キミサマ

『決まってるだろ?』『アバドンだ』って

“話さんと分からんのか?” 風に

ボティスとシェムハザが答えちまって

『我が国のことは、“その時に” 俺に話を通せと

言うておるだろう?... 』って 言い合いになりかける。


『シェムハザ。お前の “天空の霊” とやらで

地上を隠しておったであろう?』

『見ていたのなら、降りてくれば良かっただろう?』


月夜見とシェムハザって、だいたい言い合いするんだよなー。

ムッとした月夜見が、当て付けに榊の肩抱いて

ボティスもムッとするしさぁ。


『拗ねるなよ、キミ』


ミカエルに言われるのは 心外っぽいけど

別界の天の、ほぼトップに言われて

月夜見は 自分を抑えて、話を聞くことにしたらしい。


ボティスたちが月夜見に説明する間

オレらは、おさたちや桃太と話すことにした。


『しかし、天草殿とは... 』

伴天連バテレンであるな... 』


ジェイドには すっかり慣れた玄翁たちも

四郎には、まだちょっとビビってた。


『だが、わらしでは ありませんか』


銀縁眼鏡を くいっと上げて、桃太が言うけど

『お前は まだ、生まれておらぬであった』

『妖術使いであるぞ... 』と、ひそひそ言うし。


『異国の宣教師共より 優れておる、と

聞き及んでおった』

阿蘭陀オランダ医術や 伴天連の術だけではない。

仏教などにも通じておろう?』

『うむ。我等 魔の者など、近寄りも出来ぬ』


『ミカエルやゾイは平気なのに』

『あいつら、天使だぜ?』


ジェイドと朋樹が不思議そうに言うと

『あの者等は、異国の神である故』

『うむ。人神様よ。月夜見命つきよみのみこと等と同様にある』って、最初はなから別枠らしい。


『人神等は、俺等が相当に暴れても

関与して来ねぇしな』


ウェーブの黒髪を 一つに括って、狼っぽい顔。

ライダースジャケットに革パンの史月が言うけど

史月が暴れたりしたら、オレらじゃムリだよなぁ。いや、おさクラスだと、どの山神でも

オレらじゃ ムリじゃね?って 思うんだけどー。


『オゥ、そうよ。

俺等が暴れると、人等が神等に祈る。

神等が人等の願いを聞き入れて、力を貸す って訳だからなァ。俺等は 所詮ショセン、畜生だからよゥ』


煙管キセル持った猫花魁のスカジャンにジーパン。

頬に掛かるウェーブの黒髪に碧眼。

何故か粋な べらんめえ。

一の山の新しい山神、猫神のフランキー もいるんだぜ。


『露子は抱っこされてんじゃん』って言ったら

『あいつァ、何だ... 巫女だからなァ』って

言い訳っぽく言って あくびした。

フランキーって、人化けしても 猫って感じする。


『天草殿は、高等な祓い師ということよ』と

突き出た腹の真白爺が言った。

そっかぁ...  祓魔でもあって、真言とか経も使える ってことだもんなぁ。万能な祓い屋 ってこと。


『いえ、そのような大層な者では御座いません』


四郎が近くに来ると、長たちが緊張した。


『噂というものは、独り歩きするものですね。

多少の奇術は使えましたが、神国仏国に生を受け

切支丹きりしたんとして、御心おらしょを胸に留めたまでです。

見ての通り、若輩者に御座います』


『共に 手を取るが良い』


月夜見が言うと、玄翁が進み出て

『三の山の狐のかしら、玄翁に御座います』と

皺が刻まれた、小さな手を差し出した。


『天草四郎時貞、過去世より 戻りました。

友と認めていただけるよう、精進いたします』


玄翁の手を 両手で握った四郎に

天地てんち同根どうこん 万物ばんぶつ一体いったい』と、玄翁が言うと

四郎は 嬉しそうに笑って

他の長たちや霊獣たちも、次々に握手する。


『白尾』


月夜見が呼ぶと、白髪オカッパに 白い狐耳を頭に載せた白尾は、無数の揺れる狐火の下に

広場の桜を再開花させた。


シェムハザがワインと料理を取り寄せて

それからは花見宴会。

四郎が金平糖を配って回る。


月夜見に小瓶を差し出すと、月夜見は白い粒を指で取りながら『コンフェイトか』と、めずらしく 柔らかい顔になった。


風に降る桜の花片を見ながら、浅黄が

『やはり、物足りぬのう』って ぽつりと言った。

泰河が いなかったから。

うん。オレも はしゃぐ気にはなれねーし。


『死したかのように言うでない。

戻った折に、また仕切り直せば良いではないか』


眼鏡を指で上げながら、桃太が答えると

『うむ。今暫くは待つが、あまり戻って来ぬであれば、こちらから顔を見に行くかのう。

友である故』と、狐を思わせる顔で笑った。



「... 如何でしょうか?」


高校の制服を着て、リビングに戻った四郎は

すげー 照れてた。


「ふむ、良い!」「似合っている」


榊やボティスに言われて、また照れる。

かわいいしぃ。


「あれ? 髪って大丈夫だった?」


リンの学校は、校則が厳しかったはずだし

四郎の、後ろに纏めた長い髪を見て 聞いてみたら

試験の後にやった面接の時、

目眩めくらまししたシェムハザが付いて行って

催眠で 学校に許可を出させたようだった。


ソファーで長い脚を組む シェムハザは

「長い方が似合っているからな」って輝くけど

まかり通っちまうのが不思議だよなぁ。


「あっ。パイモンと浮気キスしたこと

アリエルに申告したのかよ?」


「した」


シェムハザは、城に戻って すぐに

アリエルの前に 膝を着いたらしかった。


「“仕事で くちづけた” と言うと、戸惑っていたが

パイモンを喚ぶと、パイモンが脱ぎ出した」


「はあ? どういうことなんだよ?」


パイモンは『俺は男なんだ。仕事とは言え

シェムハザも俺も 苦痛だった』って

上半身ハダカで訴えて、一緒に謝ったらしい。


「しかし、女というものは

俺の相手をした者が、同じ男だと知ると

何故か甘くなり、簡単に 許す傾向がある」


“傾向”...  前の奥さんの時にも

なんか、そーいう策を やったことがあるっぽい。

まぁ、シェムハザもパイモンも 美形だしな...


「怒る気に ならねーんじゃね?」


だって、もしリラが

ふざけたりとか 何かの都合で

女の子とキスしても、別に妬かねーしさぁ。

リラが、“女の子も好み” なら

またちょっと 違ってくるんだけどー。


「うん、そうだな。

ファシエルが沙耶夏を抱きしめても、俺も平気だぜ? 俺もルカと 恋人するし」


「ふむ。ボティスもルシファーと

くちづけをいたす」


「だいたい お前等、まとめて俺の女だろ?」


もうなんか、いろいろ妙だよなー。


「弁当は、毎日ゾイが作って 持って来るからな」


朋樹が 四郎に言うと

ミカエルが 羨ましそうなツラになったけど

「ミカエルにも作るみたいだぜ」って言い足すと

「うん。シロウ、楽しみだな」って

すげー 笑顔だし。


「教会に行こう。リョウジくんに連絡を取ってみたら、“部活を休んで来る” と言ってくれたんだ」


四郎は、リョウジくんと同じ 一年生。

“数え年で、16歳か 17歳ってことは

まだ 14歳か 15歳なんじゃないか?”... って

話も出たけど、その辺は もう無視する。

とりあえず、もうすぐ16歳 ってことにした。


「はい!」と、ドキドキした顔で

四郎は玄関に向こうしたけど

「あの... 」って、何か考えてたことを言う感じで

口を開く。


「自分のことは、“おれ” か “ぼく” と

言うべきなのでしょうか... ?」


もう、いちいち かわいーしぃー。

そこ 気にしてたのかよぅ。


「むっ、学校であるからのう!

儂等の前では、今のままで構わぬが

お前は ただでさえ目を引く故、現代の物言いをする方が良かろうの」


「リョウジに習うといい。すぐ慣れる」

「そう。俺等も すぐ慣れた」


ボティスやシェムハザが言うと、四郎は安心した顔になって「はい!」って 答えて

ミカエルが「俺が教えるぜ?」って言ったけど

「止せ」「ルカも手本にならん」とか言われるしさぁ。


「じゃあ、行こうか」


ジェイドが言うと

「ふむ」って 榊もソファーを立つ。


当たり前みてーに 朋樹も着いてくし

オレも後に続いたら、ミカエルが「行くぜ?」って、ボティスとシェムハザに言った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る