12 ルカ


「こんにちは!ヴィタリーニ神父、皆さん」


「Buona sera」「よう、リョウジくん」


今日は、助祭の本山くんが 協会に行ってて

大学生のヒロヤくんも休みなので、勉強会も休み。


「体調は?」「何も変わりないな?」


「はい!大丈夫です!」


ボティスやシェムハザ、ミカエルにも挨拶した

リョウジくんは、やっと四郎に 眼を向けた。


「えっと、あの... 」


照れてるし、緊張気味の四郎から

「りょうじ。コンフェイトなど... 」と

だいぶ残り少なくなった 小瓶を差し出す。


リョウジくんが、水色を取って

「ありがとう」と 礼を言って口に入れ

「ソーダ味... 」って また黙る。

なんか こそばゆいんだけどー。


「りょうじ。あなたも、私に 血肉を... 」って

四郎が言い掛けると、リョウジくんは

「あのっ! 天草、四郎... さん、なんだよね?」と

意を決したように聞いた。


「はい。一揆勢を率いた大罪人として... 」


「すげぇ!!カッコいい!!

おれ、天草四郎と 遺伝子が似てるなんて!!」


四郎は、えっ? って顔になって、

嬉しいのを押し止めるように 唾を飲んだ。


「ですが、私は大罪を... 」


「そんなの! 何百年も前のことだし

だいたい、誰も 大罪なんて思ってないよ!

おれと同じ歳で、一揆勢を支えてたんだ!!

まじで すげぇ!!

日本人で、天草四郎が キライな人なんかいないよ! ね? そうですよね?!」


リョウジくんは、眼を輝かせて大興奮なんだぜ。


「おう、オレらも興奮したしな」

「陣中旗 もらったんだぜー」


朋樹とオレが答えて、スタンドに立てた陣中旗を指すと、リョウジくんは、また「かっけぇ!!」って、スマホで写真を撮り出してるし。


ジェイドが「学校のことを、いろいろ教えて上げて欲しいんだ。頼めるかな?」って 頼むと、

「ハイ!」って、一際 でかい返事する。

四郎に「制服、似合ってる!」と

同じ制服姿で言って、四郎も やっと笑った。


「ふむ。四郎よ、また友が増えたのう」

「学校で、シロウのこと頼めるか?」

榊やミカエルが言うと

「はい、嬉しいです!」って、また元気に答えた。


「進学クラスなら、たぶん同じクラスだよ」


「1組なんだ」と、朋樹が答えると

「じゃあ、同じだ! さすが!」って

またリョウジくんの眼が キラキラする。

「おれ、すごい苦労して入ったのに、

塾にも通わずに 入れたなんて!」と

羨望の眼差し だしさぁ。


「... それで、あの

“ミカエル” って お名前なんですか?」


遠慮がちに ミカエルに聞いてる。

榊が狐って知ってるし、ボティスにシェムハザ。

で、天草四郎 だもんなぁ...


「うん、そうだぜ」


リョウジくんが、ボティスに期待の眼を向けると

「天の英雄、大天使ミカエルだ」って

あっさり答えて、また感動し出しちまった。


「あれ? リョウジくんの家って

カトリックじゃなかったよね?」


高校はカトリック系なんだけど、家の宗教は違った気がして、気になって聞いてみた。


「はい。進学したかったから、明月を選んだんです。でも、聖書の学習時間もあるから... 」


知られていたミカエルは、機嫌良くなって

「今度、俺のシャツ買ってくるからな」つった。

着せる気らしいんだぜ。


「朝は、8時20分までに着席なんだけど、

月曜と火曜は 朝学だから、1時間 早いよ。

弁当だけじゃ足りないから、パンか何か買うことになると思う。

二時間目終わるくらいで、もう 腹減るし。

そうだ、部活は考えてる?

おれは ダンス部なんだけど、まだ男子が少なくて... 」


リョウジくんも四郎も、立ったまま喋ってるし

「座れば?」と 朋樹が言うと

「あの、じぇいど... 」と、四郎が遠慮がちに

何か言おうとした。


「自室に招待したいのか?」と

シェムハザが輝くと「よろしければ... 」って

ちょっと そわそわしてるし。


「うん、もちろん。家は この裏なんだ。

四郎が リョウジくんを案内して」


ジェイドが笑顔で言うと、四郎は

「はい!」って、リョウジくんを誘って

教会の裏口から ジェイドん家に向かった。


「ふむ、良い... 」


榊は、姉さんな顔して うんうん頷く。


「大人ばかりでなく、同年代と友と語るのが 楽しくあろう。そのような歳であるのよ。

存分に謳歌するが良い」


そうだよなぁ。オレらとばっかり話すより

同じ歳頃のコとも 話した方がいいと思う。

過去でも、大人に囲まれてただろうし。


オレ 高校の時なんか、遊んでしかなかったしさぁ。今も 大差ないけどー。

四郎にも、いっぱい遊んでほしい。

しょーもないことも たくさんしたりして。


「邪魔になるかもしれんが、菓子などは出した方が いいだろう」


シェムハザが、バケットサンドと白身魚のフリット、オレンジフレーバーの水を取り寄せてくれたので、オレが 四郎の部屋へ運ぶ。


なんか 嬉しいよなぁ。

四郎に早速、ツレが出来て。


ジェイドの寝室の隣の書斎を、四郎の部屋にした。書斎の机は でかくて渋かったけど

“格好良いので、このままで... ” って

学習机代わりに使ってる。


ベッドを運び込むと、狭くなったけど

ウォークインクローゼットも整理したし、

この家の元々の持ち主だった 浅井神父も

四郎が使うことになって、嬉しいんじゃねーかなって思う。


四郎の自転車も買って、浅黄が練習に付き合って

すぐに乗れるようになった。

来週から、雨以外の日は 自転車登校なんだぜ。


四郎の部屋をノックして「はい」って 返事聞いて

バケットサンドと水を差し入れると

床に座って、小さい折りたたみテーブルを挟んでいた二人は、バケットサンド見て 喜んだ。

スマホの交換してたみたいで、四郎が すげー

嬉しそうだった。


「琉加、楽しいです」って 言うしさぁ。

「何にもしてないのに」って 言ったリョウジくんも 笑顔だし。


「妹のリンにも話してあるからさぁ。

三年生だけど、学校で 何か困ったら

リンに言うんだぜ」


バケットサンド持った四郎は

「はい」って返事したけど、リョウジくんが

「でも、おれがいるんで」って 気持ち 胸を張る。

リョウジくんて、リンに憧れてるっぽいけど

四郎には 自分を頼って欲しいらしい。


「うん、じゃあ 二人とも何か困ったらさぁ... 」


ちょっと話して、邪魔すんのもな って思って

しゃがんでた状態から立ち上がったら

オレが部屋を出るのを察した リョウジくんが

「あの、ルカさん」って 呼び止めた。


「ん?」


「泰河くんは、まだ... ?」


心配そうだ。自分も 怖い思いしたのに。


「泰河は、朱里あかりちゃんといるんだぜ。

うまくいったし、ちょっと休憩中」


朱里ちゃんと って聞いて

ちょっとホッとしたみたいだけど

「おれから、連絡しない方がいいですよね?」って、寂しそうにした。


「うーん... 別にいいと思うけど、

あいつ、返事 返さねーかもだぜ?

口下手だし、気も回んねーからさぁ」


リョウジくんは 頷いたけど

「そのうち、泰河から連絡させるし。

心配してくれて、ありがとうな」って 言って

部屋を出る。

泰河、早く戻って来りゃいいんだけど

自分からは 戻って来そうにねーよな...


閉じたドアの向こうで、四郎が

『泰河は、きっと大丈夫』って 言ってくれてる。


『うん、そうだよな!

泰河くんは、カッコいいんだぜ。すごい人なんだ。いつも おれを助けてくれてさ... 』


リョウジくんが 一生懸命 言うのを聞いて

グッ と 胸が詰まった。




********




教会に戻ると、ジェイドたちもバケットサンド食ってて、オレも ひとつ貰う。


「今さぁ... 」って

リョウジくんが 言ってたこと話してたら

朋樹が オレに顔を向けて

「高校生に心配させてなぁ... 」って

申し訳なさそうな顔になる。


「獣の存在が でかいからな。未知のものだ」

「フォローが足りなかった」


ボティスやシェムハザが言うと、ミカエルも

「出来るなら、獣を取り除いてやりたいけど

どうすることも出来ないんだ。

もっと泰河と、話しをするべきだよな」って

反省したように言うし。

オレらもだよな。ツレなのによ。


「しかし 泰河も、皆の心は分かっておろうよ。

今、ちぃと 疲れてしもうたのであろ。

幾度 つまずいても構わぬ」


穏やかな声で言った榊に、朋樹が頷く。

リョウジくんの “そうだよな!” って 信じる声を

思い出した。


「今から、どうする?」

「あんまり 遅くならない内に

リョウジくんを送らないと いけないけど」

「今んとこ、仕事入ってねぇな」

 

最近、蝗見たりも してねーんだよな。

警戒は してるけど、奈落に偵察送ったりするのは

難しいみたいだから

アバドンが 奈落から何を出そうとしてるのか、

または、すでに出したのかどうかも分かんねーし

何かあってから 対処することになる。


仕事は ぼちぼち入ってて

こないだの縊鬼いつきみたいな、なんか 暗くて怖いのが

多い。今日はまだ、沙耶さんから連絡ねーけど。


「お前等、俺のプラモデル完成させろよ。

色塗り まだだろ?

バラキエル、シェムハザ。榊も遊ぼうぜ。

俺、カードやりたい。“ハナフダ” ってやつ」


「えっ、なんだよ ミカエル」

「四郎もプラモデルなのか?」

「オレらは 花札に混ぜねーのかよ?」


「大人数でやるカードじゃないんだろ?

浅黄や桃太が言ってたぜ?」


「大人数でやるカードを やればいいじゃないか」


「でも 俺は、ハナフダが... 」


ミカエルは 文句言いかけて

教会の扉の方を見た。


すぐに扉が開いて、女が顔を覗かせる。


「むっ、ニナ!」


ボンデージバーでは トップで纏めてたウェーブの黒髪を 下ろしていて

胸元の花々のタトゥも 服に隠れてたから

すぐには ニナだと気付かなかった。

本名は “ヤマダ ユウゴ” なんだけどー。


「こんにちは。

“山の麓の方の教会にいる” って 聞いてたから。

本当に居るんだ... 」


あの日。全部済んで

シイナの様子を見に行った ニナに、アコが

『困ったことがあったら、俺を喚ぶか

キャンプ場の山の麓の教会に... 』って

言っといたらしい。


「どうした?」

「何かあったのか?」


ボティスやシェムハザが聞く間に

榊が 長椅子の間の通路を歩いて、ニナを迎えに行く。


「私、教会って 初めてなんだけど

入っても 大丈夫なの?」


すっかり高くなった声で ニナが言うと

榊が立ち止まった。


「うん、どうぞ。僕は ここの神父なんだ」


「神父が SMショウなんか見に来るんだ」


んん? 別の声?


「“スエ” ってカンジ」


ブラウンのショートヘア。

右耳に 一つ、左耳に 二つの軟骨ピアス。

ニナの後ろから、シイナが顔を覗かせた。








  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る