6 祝福 ゾイ (第八日)


「アブラムまで きたな。後のアブラハムだ」


ミカエルが、ノアが残した ぶどう園から

ぶどうを 一房取ってきて、一緒に食べながら歩く。瑞々しくて おいしい。


「4章から割と進んだな。もう遊ぶ?」って

ミカエルが言うけど、

そんなに遠くないところに、アブラムやサライが見える。


「うーん... もう少しだけやるか」


ミカエルは、ちぇー って感じで

私に ぶどうの房を預けると、はらはらと羽ばたく蝶馬に、今度は 黄色い花を食べさせた。


12章で、父は アブラムに

“わたしが示す地に行きなさい” と 命じる。


“「あなたを祝福する者を わたしは祝福し、

あなたをのろう者を わたしはのろう。

地のすべてのやからは、

あなたによって 祝福される」”


つまり、最初の預言者となったってこと。


アブラムは、父の言いつけ通りに

妻サライと 甥っ子のロトと

父が示した カナンの地に入る。


父は アブラムに

「わたしは あなたの子孫に この地を与えます」と与えて、アブラムは 父のために、祭壇を築いた。


だけど、先住のカナンびとがいたから

アブラムは まだ移動を続けた。

移動した地は、飢饉に陥っていたから

エジプトに寄留しようと考える。


「でも、美しい妻のサライを使うんだよな... 」


アブラムの隣にいるサライに視線を向けると

ぶどうの最後の 一粒を

「ほとんど食ってないだろ?」と、私に取らせて

空っぽの房の茎を ポイっと投げ棄てる。


私が ぶどうを食べ終わると、私たちは

アブラムたちの すぐ近くまで行ってみたのだけど

サライは美しい人だった。


「こんなに近くに?」って聞くと、

「向こうからは見えないぜ?」って頷く。


アブラムは、サライに

“エジプトびとは、私を殺して

あなただけ生かしておくと思う。美しいから” って

しょんぼり気味に言ってる。


だから、“自分の妻じゃなくて、妹だってことにしといて欲しい。それなら殺されないし”... って。


甥っ子のロトも頷くし、そう口裏を合わせることになったけど、やっぱりサライは エジプトで

“美しい” と 話題になった。


それで サライは、エジプトのパロの家に

召し入れられてしまう。

召し入れる というのは、正妻になるんじゃなくて

愛人として迎い入れられること。側室の意味。


アブラムは、サライの兄と思われてるから

パロから、多くの羊、牛、雌雄のろば、

男女の奴隷 及び、らくだも得たのだけど...


「まあ、人間だからな」って

“仕方ない” って風に、ミカエルが言った。


この時は 父が、“これは アブラムの妻だ” と

激しい疫病を パロと その家に下した。


パロは、サライが妹だって聞いてたのに。

だけど、サライを取り返した後に

アブラムが殺されないようにするためだと思う。


パロは アブラムに “なんで妹って言ったんだ!” って

焦って

“さあ、あなたの妻を連れて行ってください” って

エジプトから去らせた。


13章では、アブラムとサライ、ロトが

エジプトで手に入れた家畜や奴隷、金銀と共に

もと来た道を戻る。


ロトも家畜などを持っていたのだけど

アブラムの家畜の牧者たちと、ロトの牧者たちが争うから、“身内なのに争うことのないように” って、アブラムとロトは 別れることにした。


ロトは ヨルダンの低地、アブラムは カナンの地で暮らす。

「ロトが選んだのは、ソドムだ」と

ミカエルが 残念そうに言う。ヨルダンの低地の町。ソドムには、よこしまな人が多かった。


英語の “ソドミー” という言葉は、同性異性、

また異種間にも関わらず、

不自然な性行を意味する言葉 のようなのだけど

この町の名前が由来なのだそう。


父はカナンに戻ったアブラムに

“「目をあげて あなたのいる所から

北、南、東、西を見わたしなさい。

すべてあなたが見わたす地は、

永久に あなたと あなたの子孫に与えます。

わたしは あなたの子孫を 地のちりのように多くします。

もし人が地のちりを数えることができるなら、

あなたの子孫も数えられることができましょう。

あなたは立って、その地を たてよこに行き巡りなさい。わたしはそれを あなたに与えます」”... と

見えるところを全部あげる って言う。

ここまでが 13章。


14章では、周辺の国で争いが起こってる。

「争いのことは、短くていい」って

ミカエルが まとめてくれる。


「ソドム、ゴモラ、アデマ、ゼボイム、ゾアルの

“五人の王” 対、 “四人の王”

エラム、ゴイム、シナル、エラサルの 争い」


「はい... 」


とっても簡潔。


「うん、続きもあるけど」って

戦火が見える周囲から、ミカエルは私を抱えて

羽ばたき、上空高くに上がる。


「ソドムとゴモラが陥ちる。

それで、どちらの町でも略奪が起きて

ソドムで暮らしていた アブラムの甥ロトも

捕虜になり、財産を奪われてしまう」


そのことを、戦火から逃れてきた人が

アブラムに伝えると、

カナンの地に 知り合いが増えていたアブラムは

訓練した家の子 三百十八人を引き連れて

夜、四人の王の連合軍を撃ち破り、

すべての財産、また身内の者ロトと その財産、

及び 女たちと民とを取り返した。


この後は、祭司である サレムの王メルキゼデクが

パンと ぶどう酒を持ってきて、

アブラムを祝福したから、

アブラムは 祭司に、すべての十分の一を贈った。


ソドムからは「財産をあげるから 人が欲しい」と言われたけど、アブラムが断って、次は 15章へ。


この後、父は 戦ったアブラムに

“「アブラムよ 恐れてはならない、

わたしは あなたの盾である。

あなたの受ける報いは、はなはだ大きいであろう」”... と、幻の中で 言いにくる。


だけど、アブラムは 父に

“私には跡継ぎがいないのに、何を下さるのですか?” って 聞いた。


父は、子供がいないアブラムに

“あなたの身から出るものが跡継ぎとなるべき” と

言って、アブラムを外に連れ出して

“「天を仰いで、星を数えることができるなら、

数えてみなさい。

あなたの子孫は あのようになるでしょう」”って

言ったりするけど、アブラムは 父を信じて

父も これを、アブラムの義と認める。


父は “「三歳の雌牛と、三歳の雌やぎと、

三歳の雄羊と、山ばとと、家ばとの ひなとを

わたしの所に連れてきなさい」”と

アブラムに 連れてこさせて、供えさせた。


そうして、夕に アブラムが深い眠りに襲われた時

大きな恐ろしい闇が アブラムに臨み

“「あなたの子孫は 他の国に旅びととなって... 」”

と、父は これから起こることを、アブラムに話す。


他の国に入ったアブラムの子孫は

その地で四百年 奴隷となってしまうけど

その国の国民は、父が裁く。

子孫らは、財産を携えて出て来るけど、

アブラム自身は 高齢に達して、安らかに先祖の元

... 父の元へ行く。


辺りが暗くなると、供えたものに

煙の立つかまど、炎の出るたいまつが 通り過ぎて

父は アブラムと 再び契約を結び


“カナンびと、ペリジびと” の地だった カナンから

“エジプト川から 大川ユフラテまで”... また、

“ケニびと、ケニジびと、カドモニびと、 ヘテびと、レパイムびと、アモリびと、ギルガシびと、エブスびとの 地を与える”... と、拡大して与えた。


15章までが まとめ終わると、地に降りて

「父って、甘やかすよな... 」と、アブラムから

勝手にパンをもらった ミカエルが言う。


「うん、私も そう思います」って 答えるけど

なんだか 笑ってしまった。


契約したひとが 父を信じると、父は嬉しくて

“これもあげる” “子孫のことも約束する” って

なってしまう。

人間が かわいくて仕方ないんだろうなって思う。


平べったい小麦のパンを 分けてくれて

「16章は ハガルだな」と

粉っぽく 素朴な味のパンを 一緒に食べる。


ハガルは エジプトの女性で、サライの女召使い。

サライには子供が出来ないので、アブラムに

“「どうぞ、わたしの つかえめの所に

おはいりください」” と 勧める。

ハガルに、アブラムの子を生んでもらうために。


そして、アブラムも これを聞き入れて

ハガルは 身籠った。


この時、アブラムとサライは

カナンの地に入って 十年が経っていて

跡継ぎがいないことも不安だったんだろうけど

妻の勧めたことを聞く、って とこだけ見ると

エバに勧められて、一緒に善悪の実を食べた

アダムを思い出した。


考えてみると、男性より 女性の方が

“こうしたらいいんじゃない?” って

思い付いて実行することが 多い気がする。


エバがアダムに 実を勧めて、サライがアブラムに 女性を勧めた。それもあって、女性は “罪” だって言われるのかもしれない。


ハガルは、アブラムの子を身籠ると

自分の主人のサライを見下げるようになる。

アブラムは、サライに

“あなたの つかえめなんだから、彼女には

あなたの好きなようにしなさい” って 言ったから

サライは、ハガルを苦しめた。


「ハガルは、サライの顔を避けて 逃げた。

ここで、ハガルの元に “主の使” が 登場する」


ミカエルは そう言って、私の背中を押す。


私は、荒野の “シュルの道” にある 泉のほとりで

“「サライの つかえめハガルよ、

あなたは どこからきたのですか、

また どこへ行くのですか」”... と、呼び止める。


少し腰が丸くなっていたハガルは、美しかった。


“「わたしは 女主人サライの顔を避けて

逃げているのです」”... と、私に答える。


かわいそうだけれど、聖書にあるように

“「あなたは 女主人のもとに帰って、その手に身を任せなさい」”... と 勧める。

父の手が、届くところにあるように。

“「わたしは 大いにあなたの子孫を増して、

数えきれないほどに 多くしましょう」”... とも。


迷っているハガルに

“「あなたは、みごもっています。

あなたは 男の子を産むでしょう。

名をイシマエルと 名づけなさい。

主が あなたの苦しみを聞かれたのです。

彼は野ろばのような人となり、その手はすべての人に逆らい、すべての人の手は彼に逆らい、

彼はすべての兄弟に 敵して住むでしょう」”... と

預言を伝えた。


野ろばのような人... 暴れん坊の人で、手が付けられず、敵も多くなる。だけど 父は見守る。


ハガルは 父に、“「あなたはエル・ロイです」” と言って、サライに仕えに戻った。

エル・ロイ... 見てくれる人。


「よく役を熟した」と ミカエルに言ってもらえて

「はい... 」って、ほんのり顔が熱くなる。

羽ばたきながら 空中を走る蝶馬が、私の小鼻に

横顔をつけた。かわいい...


ハガルは、アブラムに男の子を産んで

アブラムは この子の名をイシマエルと名づけた。 この時、アブラムは八十六歳。これが 16章。








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