5 祝福 ゾイ (第八日)


7章2節と3節で、父は

“「すべての清い獣の中から 雄と雌とを七つずつ取り、清くない獣の中から 雄と雌とを二つずつ取り、

また空の鳥の中から 雄と雌とを七つずつ取って、

その種類が 全地のおもてに生き残るようにしなさい」”... と

最初は “雄と雌 一つずつ” だったのに

清いものと鳥は 七つずつに増やした。

清くないものでも、雄と雌を箱舟に乗せること。


“「七日の後、わたしは 四十日四十夜、

地に雨を降らせて、

わたしの造った すべての生き物を、

地のおもてから ぬぐい去ります」”


こうして父は、洪水を起こした。


“その日に大いなる淵の源は、ことごとく破れ、

天の窓が開けて、

雨は四十日四十夜、地に降り注いだ”


山々まで覆う程の大洪水で、“地のおもて” にいたものは、皆 地から 拭い去られた。


ノアと共に 箱舟にいたものたちが残り、

水は 百五十日の間、地上に みなぎった。

7章は ここまで。


8章は、父が ノアたちを心配するところから。


風を地に吹いて、水を退かせて

淵の源と 天の窓を閉ざして、雨を止ませる。

水は次第に引いて、百五十日後

七月十七日に、箱舟は アララテ山に留まった。


だけど、山々の頂が現れたのは 十月一日。


四十日経って、ノアは からすを放ってみたけど

からすは あちらこちらを飛び回るだけだったし

はとを放っても、まるところがなかったから

箱舟に戻ってきた。


それから七日経って、再び はとを放つと

はとは夕方になってから戻って来た。

その くちばしには “オリブの若葉”。

地から 水が、ますます引いてきたってこと。


一月一日、地のおもてが かわいて

二月二十七日、“地は全く かわいた”。


父は、ノアたちに箱舟を出るように言う。

鳥や動物たちも、地に ふえ広がるように。


箱舟を出たノアは、“主の祭壇” を築き

七つずつ取った 清い鳥と 清い獣のうちから取って

燔祭を 祭壇の上にささげた。


それで 父は、心に

“「わたしは もはや二度と 人のゆえに地をのろわない。

人が心に思い図ることは、幼い時から悪いからである。

わたしは、このたびしたように、

もう二度と、すべての生きたものを滅ぼさない。

地のある限り、種まきの時も、刈入れの時も、

暑さ寒さも、夏冬も、昼も夜も やむことはないであろう」”... って 言った。


“幼い時から悪いから”... アダムとエバの原罪を

引き継いだ上での再出発。

滅ぼしちゃったけど、父は 哀しかったんだろうと思う。 ここまでが 8章。


『うん、もう 9章だな。ちょうど出口だ』


トンネルに響く アコの声が言う。

『ここからは まとめといて』


少し寂しくなって「アコは?」って聞くと

『俺? 俺はトンネルの あっち側で

いっぱいでいる』って 言うから、大丈夫になって

「うん」って、トンネルを出た。


出て すぐに「ファシエル」って言う

ミカエルの声。


トンネルの出口の隣、壁に寄り掛かって

天衣にトーガ姿のミカエルがいた。

頭に 蝶馬が乗ってる。


「アコに喚ばれたんだ。河川敷に。

そしたら お前が寝てて

アコが “創世記にいる” っていうから、俺も来た」


アコ...


「創世記の、まとめはしてたんですけど

アコばっかりしか いなくて... 」


トンネルを踏み出した 私の足は

白い革のサンダル。

ホールターのドレスのような天衣には

幅広のゴールドのベルト。

髪が ブロンドに戻っていて、腕や脚も 天使ファシエルの私。


「アコばっかり?」と 聞くから、

トンネルの向こうの説明をしてみると

ミカエルは「うん。9章からだな?」と

アコの感想は述べなかった。


「この天衣って、エデンの... 」


「思い出したか?

俺も さっき、思い出したんだ」


ボティスに眠らされた時に、エデンで この天衣を着てた。だけど、実際に 海でも着て...


「“ゾーイ”。お前に作ったんだ。

第二天ラキアで、“エデン用にする” って言って」


胸から何かが 浮き立ってしまう。

私が ミカエルを見ると

ミカエルは笑って 手を差し出した。


手を重ねると、ミカエルは私を引いて

片腕に抱えた。海の時みたいに。


「地上だからな。翼がある」って

何もない草原の上を羽ばたく。


嘘みたい...

うん、アコが見せてる夢なんだけど...


すぐ近くに ブロンドの睫毛と、明るい碧い眼。

それを私の方に向けて、ニコっと笑う。

息がしづらくて、くらくらする。


「ほら、見えてきた。ノアたちだ」


眼下には、箱舟を降りたノアたちがいた。

ノアと妻、二人の子の セム、ハム、ヤペテ。

その妻たち。


祭壇での燔祭の後、父が ノアたちを祝福する。

“生めよ、ふえよ、地に満ちよ”。


すべての生き物を支配し、先に与えた 青草も

これらのものを 皆、あなたがたに与える。


この時は、禁じた 善悪の木と生命の木の実以外の

果実や植物だけでなく、

魚や鳥、獣の肉も 食べていいって与えてる。


ただし、“肉を、その命である血のままで、

食べてはならない”。

血... 命を食べてはならない。肉だけ。


そして、ノアたちの血を流す者には

いかなる獣でも 兄弟である人でも、

父が必ず 報復する と言う。

“人の血を流すものは、人に血を流される、

神が 自分のかたちに 人を造られたゆえに”


カインの時のことが前身。人が人を処する。

無秩序では、全体が堕落してしまう。

“目には目を、歯には歯を” という法の原点。

目を突いたら、自分も突かれなければならない。


... だけど、この

“あなたがたの命の血を流すものには、

わたしは必ず 報復するであろう”... という

父の言葉。ノアたちに片寄ってる 気がする。


それを ミカエルに聞いてみると

「うん。“裏” を見に行こう」って

頭に乗せていた馬を、私に抱かせて

赤いトーガで 私を巻くと、両腕にかかえた。

顔が熱いどころか、手のひらまで汗ばむ。


「掴まれよ?」て、背に 虹色の翼を広げた。

一度 大きく羽ばたくと、周囲の景色が走り

たくさんの線のように 見えた。


気が付くと、さっきと違う大地。


川べりに草があるけど、赤土の大地。

大きな岩が ごろごろしてる。


川の近くに降りたミカエルは

「もう目覚める」と、川と地面の境を指差した。


川の水で泥濘ぬかるんだところが、うごめくように動いて

人が出てきた。


「土の人たちだ。

洪水の間は、土に溶けて眠っていたけど

水が引いたから、また目覚めた」


すごい...


「土のセツの系譜。雪の下、密林の木の根元、

別の大地でも、弟妹きょうだいの系譜が目覚める」


泥濘から、次々と 人が目覚めて

川で その身を清める。

彼らもまた、再出発のために。


川べりに咲いてた、小さな白い花の 花びらを

私の手のひらの上の蝶馬に食べさせると

「じゃあ、戻るぜ?」と 私をかか

虹の翼で羽ばたく。


「父は、ノアたちや 箱舟を出た すべてのものと

契約を立てる。これにより、もう 地上は

洪水で滅びることはなくなった。

あれが、その “契約のしるし” だ」


ミカエルの視線の先にある 雲の中には、

虹があった。


“「すなわち、わたしは雲の中に、にじを置く。

これが わたしと地との間の契約のしるしとなる。

わたしが雲を地の上に起すとき、にじは雲の中に現れる。

にじが雲の中に現れるとき、わたしはこれを見て

神が 地上にある すべて肉なるあらゆる生き物との間に立てた 永遠の契約を思いおこすであろう」”


父は 契約を、人の眼に見える形にした。

祝福したことや、滅ぼさない約束。

父自身も永遠に忘れないから、雲に虹を表す。


ノアの子供にも、妻との間に子供が出来て

ノアは ぶどう畑の農夫となった。

草原に戻った私たちは、ノアが 収穫した ぶどうで

ぶどう酒を造るのを見る。


ノアの子は、セム、ハム、ヤペテ なんだけど

9章には、“ハムはカナンの父である” って

カナンという、ハムの四男坊の名前が出てくる。


ノアは ある晩、ぶどう酒に酔って

幕屋の中で 裸で寝てた。

裸 っていうのは、恥ずべきものや 罪を表す。


「ノアは、そんな人じゃないのに」

「そうだな。だけどこれが

ノアの息子兄弟たちの 心を映し出す」


“カナンの父ハム” は、父ノアの裸を見て

他の兄弟の セムとヤペテに、父の醜態を言い触らした。

だけど、セムとヤペテは、父の裸を見ないようにしながら、父に着物を掛けて覆い隠す。


ノアが目覚めて、事の次第を知った時

息子のハムではなく、孫のカナンを呪う。


“「セムの神、主は ほむべきかな、

カナンは そのしもべとなれ。

神は ヤペテを大いならしめ、

セムの天幕に 彼を住まわせられるように。

カナンは そのしもべとなれ」”


父ノアの罪をさらすことで

その地位を狙った ハムの系図を呪う、として

ハムの末の息子の名前を出したのかもしれない。


ノアは洪水の後、なお三百五十年 生きて亡くなり

9章は終わる。


10章は、全地に広がった ノアの息子たちや

その子供たちの系図。


一応メモしておくことは、ハムの息子は、

クシ、ミツライム、プテ、カナン で、

ノアに名指しで呪われたのが、カナン。

クシの子の ニムロデが

“世の権力者となった最初の人” ってこと。


「このノアの子らの氏族が、

血統にしたがって 国々に住んでいたが、

洪水の後、これらから 地上の諸国民が分かれた。

10章は以上」... って、ミカエルも言ったし

次の章に 進もうと思う。


11章は、“全地は同じ発音、同じ言葉であった”

... から 始まる。


ニムロデが治めていた地の 一つ、シナルという地の人々は、建物を建てるのに

父が与えた 石や粘土を使わず

れんがや アスファルトを得て 使った人たち。


そして彼らは

“「さあ、町と塔とを建てて、その頂を天に届かせよう。そして われわれは名を上げて、

全地のおもてに 散るのを免れよう」”... と 結束し

自分たちを 神のように思ってしまった。


父は、“生めよ、ふえよ、地に満ちよ” と 祝福し

契約したのに。


「天まで届くことがあれば、父の座を狙い

必ず反逆をする。その後は 地上の支配だ。

父は、滅ぼさなければ ならなくなる」


父は、“「さあ、われわれは下って行って、

そこで 彼らの言葉を乱し、

互に言葉が通じないようにしよう」”...と

言葉を乱し、彼らを全地のおもてに散らしたので

町の建設は取り止めになり、

この町は “バベル” と名付けられた。


この先は、ノアの息子 セムの系図。


誰が 誰を生んで... って 続くけど

書いておくべきところは、この系図の中の

テラ って人の系図。


テラが生んだのが、アブラム、ナホル、ハラン。


ハランは ロトを生むけど

父テラより 先に死んでしまう。


アブラムは、サライという名前の妻を娶るけど

サライは、子が出来なかった。


父テラは、アブラムと その妻サライ、

ハランの子である 孫のロトを連れて

カナンの地へ行こうとするんだけど、

途中の町で暮らして、そこで生涯を終える。

これで、11章は終了。



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