泰河もシャワー上がると、バスと泰河の車に分かれて、また蝗探しだし。


今日から六山の霊獣たちも手伝ってくれるし

ボティスと榊、ジェイドが 大通りや市街地で

朋樹と桃太、アコが ビジネス街。

オレと泰河と浅黄が、市街地の南側の住宅街。

霊獣たちが 各山の麓と市街地の北側に分かれた。


オレらは、泰河の車で移動。


「寒いしさぁ、あんまり人 歩いてないよなぁ」

「コンビニとかスーパー巡りするか?」

「うむ。会社や学校が終わるまでであれば

そう 人とも すれ違わぬであろうしのう」


けどコンビニにも 大して人はいなかったし、スーパーも混んでねーし。昼飯時も越えたしな。


「平日の昼間だもんな」

「晴れてはおるが、冷えるしのう」

「次のコンビニで コーヒー買おうぜ」


また別のコンビニの駐車場に車 停めて

三人で店内に入る。


「こういった店は、何処どこ

売ってある物も似ておるのう」


黒いニットのキャスケットを被った浅黄が

お菓子の棚をふらふら見て回って、ふと立ち止まった。子供向けの棚の前。


「おっ、なんか気になるものあったー?」

「あったらカゴに入れろよ」


浅黄が手に取ったのは、お菓子じゃなくミニカーだった。コンビニ限定商品みたいなやつ。

しかもワーゲンバス。

カラーは、ジェイドのバスの水色と白じゃなく

オレンジと白だけど、これもかわいいし。


「入れろよ」って、泰河がカゴを出すと

「良いのか?」って 嬉しそうな顔をする。

何故か、銀狐姿の浅黄を彷彿とした。


「食したことがない」って言うグミとかガムとか

クッキーとかを買って、後はカップのコーヒー。


車に戻って、さっき助手席だったオレは、今度は後部座席。車の運転を覚えたい浅黄が前に乗る。

「公園巡り?」「河川敷?」って 話して

河川敷に向かうことにする。


河川敷に平行する真っ直ぐな道に出ると

「運転してみるか?」と、泰河が言う。

浅黄は、少し緊張したように見えたけど

「うむ」って、嬉しそうに頷いた。


運転席と助手席を交代すると、泰河が助手席から何か言う前に、何年も乗ってるヤツかのように

スムーズに車を走らせ始めた。


「おお?!」

「もう運転したことあったのか?!」


「いや、今 初めてじゃ。これは 楽しくあるのう」


何でもすぐ出来るタイプっぽいよなぁ。


「ちょっと この辺り、一周してみる?」

「横断歩道じゃなくても、道 渡ろうとする人いるから気をつけてな。子供より、おじいちゃん おばあちゃんとかに多いからさ」


「うむ」と、適当なとこで右折する。

「上手い上手い」「冷静だもんなー」って

安心して乗ってたら、すっと歩道に寄せて車を停め、運転席の窓を全開にしながら

「蝗じゃ」と言い、銀狐に戻って窓から跳んだ。


「うおお!」「すげぇ!」


浅黄は、走る車のルーフを 飛び石みたいに跳んで向こう側に渡り、人化けすると

歩道を歩く主婦っぽい人の背から 蝗を取った。

主婦っぽい人は、何も気付いていない。


アコを喚び、今 取った蝗を渡している。


また銀毛混じりの黒狐になると、今度は この車のルーフまで 大きく跳んで、とん と乗り、するりと運転席に戻って 人化けした。


「すげーじゃん、浅黄!」

「この距離で蝗に気付くのもな... 」


「また黒であったが。

アコが “今日は まだ少ない” と 言うておった」


ニコッと笑って、窓を閉めようとした時

ルーフに軽い物が乗った音がした。


「ん?」「鳥?」って言ってたら

上から ずるーっと、フロントガラスに白く小さい腹が張り付いて出てきた。肉球はピンクだ。


「露さん?」「いや... 」


逆さに張り付いた三毛猫は、車内を恨みがましく

碧眼で覗き込んだ。


『お前等って、俺を喚ばないよな』


ミカエルだし。


「いや、ミカエルが忙しいかと思ってさぁ」

「まぁ 乗れよ。蝗探ししてたんだ」


露ミカエルは、一度ボンネットに降りると

運転席の空いた窓から入り込み

浅黄の膝を横断し、運転席と助手席の間から

碧眼を細めて オレを睨んでやがる。


「... んん?」

『お前等、ルシフェルと 何か食ってたな』


うん、鍋かぁ...


「見てたのかよ?」

「降りて来たら良かったじゃねぇか」


露ミカエルは、キッと泰河に顔を向け

『あんなとこに降りれるかよ!』と

二つ尾を下に打ち付けた。


『降りようとはしてたんだぜ? 喚ばれないから!

エデンから お前達 探してなっ!』


ミカエルは、天の第七天アラボトへ上がり

モレクの報告を聖子にしたらしかった。


サンダルフォンは、新曲の演奏は終えていたけど

曲についてのことを聖父や長老たちと話しているらしく、まだ第七天アラボトにいる。


聖父は、モレクが奈落から地上に出ていたことも知らない。

その場に乗り込んで話そうか とも思ったみたいだけど、そうすると

奈落からモレクの身体を出した時に手に入れた

大いなる鎖も返すことになる。


大いなる鎖は、異教神も捕えられるものだし

この先も役に立つ... と、めずらしく冷静になって

聖子に報告するにとどめたようだ。


『聖子は驚いて、“素晴らしい” って 喜んでた。

モレク崇拝が過熱する前の段階で滅したしな。

ジェイドの教会には、聖子の祝福が与えられる』


ミカエルが、オシノビで地上に降りることも引き続きフォローしてくれるようで、また奈落に行く際には “聖子の命により” って言っていいらしい。

大いなる鎖も、聖子がミカエルに預けたことにすると、口裏を合わせてきた。


『キュべレのことは、奈落を暴くより 先に

第七天アラボトの牢にいない” との証拠を掴んだ方がいいから、その辺りも何か考えるって言ってたぜ。

まだサンダルフォンがいるから、第七天アラボトの天使達には、いろいろ聞けないけどな』


更に、聖父の背後にある影の恩寵は

聖子が見張っていてくれるようだ。


第七天アラボトから降りると、第四天マコノムの楽園に戻り

アリエルやマルコにも 地上の状況を報告した。


ついでに、アリエルは 第一天シャマイン支配補佐の 一人らしいんだけど、ミカエルは第一天シャマインへ行って

支配者のガブリエルに

“最近、楽園に動物が増えたから” と

アリエルを楽園マコノム支配補佐にも任命して

楽園マコノムに借りたようだ。


第二天ラキアのラファエルのとこにも顔を出し

まだ起き上がれないウリエルに

『月と隠府ハデスから掠めた魂は、もうアレに飲ませたのか?』と、剣を突き付けて尋問したらしい。


ラファエルに止められて、散々すねて楽園マコノムに戻り

楽園マコノム配属の天使たちと遊んで、オレらに地上から喚ばれるのを待ってみた。


『喚ばれなかったから、何かあったのかもって

心配にもなったんだぜ?

エデンに降りて探してみたら、ルシフェルと... 』


楽しそうに 水炊き食ってた、と...


“もういい!” って、楽園マコノムに戻ったけど

やっぱり喚ばれないから、露子を探して降りた。


「ミカエル、怒るなよー。

すげぇ働いてきて えらいじゃん」

「喚ぼうとは思ってたんだって、マジで。

けどオレら、蝗探してるだけだったからさ」


露ミカエルは、言い訳するオレらを無視して

車を出して良いものか? って考え

説明が済むまで 待ってくれていた浅黄に

キッと顔を上げた。


『アサギ。お前、バラキエルと仲良いよな?』


「... う、うむ」


「ミカエル、やめろよー」

「いいよ浅黄。ただのヤキモチ焼きだからさ。

河川敷 行こうぜ」


オレらが 浅黄側に着いたと見ると

ますます おもしろくなくなった露ミカエルは

浅黄の膝に乗り、立ち上がって 両前足を

浅黄の胸に掛けた。無視 出来ねーし。


『お前 あれから、ミソスープ飲みに行ったのかよ?』


あっ って ツラした泰河と眼が合う。

これって、ゾイのこと 気にしてんのか?!

ああん? って眼ぇして突っ掛かる三毛猫にしか

見えねーけどさぁ。


「う... いや、行っておらぬが...

おお!そうじゃ。まだ礼を申しておらぬであった。ミカエル殿にも、大変に世話になった。

無事に里に戻れた故... 」


『お前を取り戻せたのは良かったけど

俺は何もしてないぜ?

それより お前、ファシエルが好きなのか?』


おおう?! 直接的じゃね?!

泰河の眼が輝いて、指が顎ヒゲにいく。

オレは思わず、片手で口元 覆っちまった。

もうさぁっ。きゅん てする、きゅん て!

これ言ったら、泰河 怒るけどー。


「友ではあるが、そういった心持ちではない」


浅黄が答えると、露ミカエルは

ああん?って言ってた 碧い眼を緩めた。


『うん、そうか。俺、護るって約束したから

俺がいないとこで、元に戻ったら困るからな』


浅黄の胸から前足を外し、膝に乗ったまま

毛繕いを始める露ミカエルを見て

オレらは何か、ぽかん ってなった。


なにまだ 義務感みたく言ってるんだ?

それか、これ 本当に

義務感と ごちゃ混ぜになってるってこと?

鈍感さは、榊以上じゃね... ?


浅黄が、膝の露ミカエルから

泰河に視線を移し、オレに移した。

“わかっておらぬのか?” って眼だ。


“たぶん” “そうっぽい” って軽く頷くと

浅黄は、また膝の露ミカエルに視線を移してる。


一頻り毛繕いを終えた露ミカエルが

浅黄を見上げて『なんだよ?』って言うと

浅黄は、露ミカエルの頭を撫でた。


「かわいくある」


『何っ?! 俺は露じゃないぜ?!』


露ミカエルは、背中の毛を三角に逆立てて

二つ尾まで 軽く脹らませてる。


「うむ。露さんとは 付き合いが長い故。

全く別猫であるのう」


『じゃあ、俺に かわいい って言ったのかよ?』


「うむ」


おっ。背中と 二つ尾が落ち着いてきた。


『お前、俺とも友になる?』


「うむ。嬉しくある」


『うん』


露ミカエルは、浅黄の膝の上で

くるっと前に向き直り、後足で立ち上がって

ハンドルに両前足を掛けて、すっかり機嫌が良くなった声で

『じゃあ、蝗取りに行くぞ!』って 言った。

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