皇帝が ハティと帰った後、まだ鍋 食ったりして

外は寒ぃし、蝗探しに出る気になれず

召喚部屋で だらだらして、そのまま寝た。


今は寝起き。順番にシャワーの時間。

コーヒー飲んで、アコが買って来てくれたパン食って、昼からまた蝗だし。



寝る前... 深夜は、“また明日の夜に” って シェムハザが帰ると、泰河と眼ぇ合わせて

またハティも喚んで

「べリアルに聞いたんだけどさぁ... 」って

アリエルやサリエルの話をした。


「あいつが、アリエルを?」

「我等の堕天後の話かもしれんが... 」


ハティもボティスも驚いてた ってことは

サリエルがアリエルを想ってたのは、誰も知らなかったことなんだろう って思う。


最初は、眉をしかめていたジェイドや朋樹も

話が進むにつれ、切なそうな表情に変わってた。


「ハティは、べリアルに聞いてなかったのか?」と、泰河が聞くと

「“話がある” とは言われていたが、地界へ戻っても どちらかが忙しく、まだ話をする時間が取れていなかった」ようだ。

「まだ惑星の秘密開示と観測も途中だ」


「それぞれ、自軍のことや 他の悪魔等との付き合いもあるからな。

ハティやべリアルは、皇帝と そう変わらん」


「ふうん。おまえって、本 読んでるだけなのかと思ってたぜー」

「あと、謎生物 造ったりさ」


オレと泰河が言うと、ハティは

「蝶馬は誕生した」って、満足気に言った。

羽生えた馬らしい。まったくさぁ。

「馬の姿で生まれるが、羽化により羽を持つ。

生殖機能も兼ね揃えている。新種だ」


「ペガサスがいるのに」

「翼の方が良くないか?」


ジェイドや朋樹も意見したら、ハティは

「手乗りサイズだ」って答えてて

ジェイドが 一気に色めき立ったけど

「サリエルをそそのかしたってのは?」と

ボティスが話を戻した。


半身のウリエル... っていうのが、一番しっくりは くるよな。

サリエルは、他の天使との付き合いも少なかったらしいし。

仲良くなっても、堕天させることになったら つらいしな。


サンダルフォンの場合だったとしたら

サンダルフォン本人じゃなく、他の天使を使って

唆してそうだ。


ウリエルは、サンダルフォンもキュべレを起こそうとしてることは知らなかったみたいだけど

サンダルフォンの方は、サリエルが成り代わって棄てた、ファシエルの姿をした身体 を使ってる。


“わざわいだ” と、黙示録を記憶させて

一の山に落とした。

サンダルフォンは、ウリエルやサリエルの動きも

監視してる ってことだろう。


「ん? じゃあさぁ、サンダルフォンは

サリエルがべリアルのとこにいる ってことは

分かってんのかな?」


「エデンの管理管轄は、元々 天の楽園がある第四天マコノムだ。

アダムとエバが エデンを去った後に封鎖された。

その後は、楽園配属の幾人かの上級天使や

元々エデンに所縁ゆかりがある天使でなければ

エデンを覗くことも出来ん。

天使に必要な場所ではないからだ」


ボティスの説明に

「エデンを覗くとすれば、楽園マコノムからか

地上からとなる。

エデンは、天でも楽園以外とは繋がりがない。

ウリエルは、元はエデンの門番だった者だ。

サリエルを連れ、地上からエデンに侵入していたものと考えられるが

サンダルフォンには、エデンを覗くことも不可能だ。エデンのゲートも開けん。

よって、サリエルの行方も分からず

ウリエルの負傷の原因も知らぬとも考えられる」と、ハティが補足した。


ウリエルは、隠府ハデスへ向かう罪人を焼く時に

負傷することは めずらしくないらしい。


「また、ウリエルが話せる状態となっても

“エデンでミカエルに刺された” とは言わん。

理由を問われることになるからな」


「それなら、ザドキエルは?」と

ジェイドが聞くと


「あいつは元々、エデンの生命デーツの木の守護者だ。

サンダルフォンに隠れて、レナ以外の預言者を

地上に降ろす時には もう、エデンを利用しようと 計画してたんだろ」と、ボティスがピアスを弾いた。


「シェムハザに話は?

人間の方のアリエルは、サンダルフォンにも狙われる恐れがあるんじゃないのか?」


朋樹が言うと、ハティとボティスは眼を合わせて

少し考えたけど

「城の備えは、これ以上とない程に万全だ。

皇帝が魂を持って シェムハザの城を訪れ、婚姻を祝ったことで、地界にもアリエルの話は知れ渡っている。

アリエルに手を出すような悪魔は、その場で即刻処刑される。恐れて城には、誰も近付かん」


「天使対策にしてもだ。

城には、ミカエルですら立ち入れなかった。

城の教会も、人間側からの祈りは天に届くが

もう天使からは 覗けんようにしてある」と

話さない方向でいくらしい。

下手に心配させたりもしたくないもんな。


「だが、アリエルに 加護は必要だろう」

「外出時が心配だよな」 

「一応 僕のロザリオは渡してあるけど

悪魔にしか効果はないしね」

「シェムハザが付きっきりでも、天使が来たらなぁ... 」

「ゾイがいるけど、上級が相手だとキツいよな」


しばらく、アリエルの加護について話し合って

結局「城の外でミカエルに頼む」ってことに

落ち着く。それ以上は ないっぽい。


「ミカエルの加護ならば、天使にも効く」

「アコに ミカエルを連れて行かせて

“妻を紹介しろ” と言わせるか... 」


話し合ってる間に、ソファーで あくびが出た。

ベッドで寝ねーと... って思いながら

重たくなった瞼が落ちるのに抵抗してたけど

頭の中も ふんわりしてくる。


リラ、天で目覚めたのかな?

早く目覚めるといいけど...


また あの音だ。


一定のリズムで寄せて返す。


星空。空気は澄んでて、白い息が見える。


海と砂の境で、座り込んだ腰や脚を洗う

うたかたの波が 小さく弾ける音。


がたがたと、骨まで震えるくらいだったのに

もう 寒くない。


閉じた瞼に 光が差した。

開かないけど、明るいことが分かる。


遠くから讃美歌が聞こえる。

明るい瞼の裏に、小さな頃に通った

教会のステンドグラスが映った。天使さま


“どうか” と、くちびるが動く。どうか...



「おい」


いてっ... ぉおう?!」


気付いたら、ゴールドの眼が覗き込んでたけど

かなりの至近距離で、真面目なツラだ。

ソファーから身体を起こすに起こせねーし。


「ん? オレ寝てたぁ?」


オレの眼を見て、ボティスが身体を引く。


「... あれ?」


えー、なんだよ その真顔。ハティまでさぁ。


「ルカ。おまえ また、“天使さま” っつったぜ... 」


「うわ、マジかよ?!」


焦って、ソファーの背凭れから身体を起こすと

「“どうか” って、祈っていたみたいだ」と

ジェイドが 心配そうなツラになって言って

朋樹が「夢か?」って聞いた。


「んん? ... んー、たぶん。

また星空で 海だったような気がする」


「視るぜ」って言うから、頷いたけど

しばらくオレを見ていた朋樹は「ダメだ」って

首を横に振る。


「星空しか視えねぇぜ。見た夢、忘れてやがる」


ボティスの逆隣から突然、泰河がオレの手を

はしっと握った。


「ううわっ! おまえ、何?!」


ビビって 泰河 見たら、涼しげな眼で じっとオレの眼を見る。


泰河は、手を離して 手首を見せた。

白い焔の模様。左の手だ。


「... あっ! やっぱ海だ!すっげぇ寒かった!」


また泰河の眼ぇ見て、思い出した!


朋樹が じっとオレを見つめ

「ハティ」と、顔色を変えて呼ぶ。


「なんか、讃美歌とか聞こえ出して... 」


「もう寝ろ」って、ボティスが言って

ハティが下に向けた手のひらを下ろすと

暗くなって...


気付いたら、さっき。

召喚部屋のベッドで目が覚めたんだよなぁ。


泰河が まだ寝てたんだけど、寝室 出たら

もうボティスはシャワー上がって来てて

ジェイドがシャワー中だった。


「よう」って、朋樹がコーヒー淹れに立って

ついでに泰河も起こしに行く。


「パン買って来たぞ。サンドイッチもある」


アコが、ソファーに座るように自分の隣を示すから、そこに座って

とりあえず テーブルの炭酸水 開けて飲んだけど

寝起きだからか、頭が ぼんやりした。


玉子とハムのサンドイッチ食ってたら

寝癖で髪 跳ねさせた泰河が、あくびしながら

向かいのボティスの隣に座る。


「もう昼近くか。

今日は、朝の通勤蝗は探せなかったな」


通勤イナゴなぁ... って思いながら、トマトのサンドイッチ取る 泰河 見て

「あれ? 昨日さぁ、夢の話してたよな?」って

聞いたら、ボティスが

「そうだな。うたた寝しやがったからな。

薄目 開けて 白眼 剥いてやがった」って

ケラケラ笑った。


「うるせーし!」


朋樹が、オレと泰河のコーヒーをテーブルに置くと、ジェイドがシャワーから戻って来て

入れ換わりに 朋樹がシャワーに行く。


「オレさぁ、昨日、夢 思い出したよな?」


ジェイドに聞いてみたら

「寝惚けてたんじゃないか?」とか返ってきて

「“夢を思い出した夢” 見たんじゃねぇの?」って

泰河が コーヒー飲んで、ひとりで

「熱っ!」って カップに怒ってやがる。


「昨日 早速、皇帝に喚ばれたんだ。

退屈だって言うから、地界のボティスの城に招待して、ボティスのクローゼット部屋の服 見学して

マンガ本を勧めてみた。日本のやつ。

リビングで、紅茶 飲みながら 一緒に読んでたら

皇帝の方が 自分の配下に喚ばれた」


アコが隣で喋り出して

なんとなく、オレの夢の話は流れた。


思い出したはずの夢は、やっぱり忘れてて

まあ いいか... って思いながら

ベーコンとチーズが乗ったパンも食う。


「そうだ、蝗キャラメル。

軍の奴等にも何人かに食わせたけど

六山の長と、他の何人かにも食わせて来たぞ。

検査が終わった黒蝗で、パイモンが作ったから」


「あっ、そうなんだ」

「蝗探し、楽になるよな」「助かるね」


「榊は?」と、ボティスが聞くと

「もちろん食った。桃太と露も」ってことだ。

そりゃ榊は食うよなぁ。


「霊獣たちは、本当は キャラメルじゃなくても

食べれるみたいなんだ。

露なんか食いづらそうだったから、他の猫に食って貰うときは、脚だけ取ることにする」


うーん...  見た目的には キャラメルでコートしたやつを食って欲しいけどな...


朋樹が上がって来たから、交代して

オレもシャワーしに行く。


寒いし、たまには風呂 浸かりてーんだけど

いっつも深夜まで喋ってたり仕事してたりで

順番に朝シャワー多いし

のんびり浸かる暇は ねーんだよなぁ。


服 脱いで、シャワー出すと

白い湯気が立ち上って

何故か少し、胸が軋んだ。

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