髑髏 6


「どうやってだよ?!」

「とにかくやってみろ。何か出来ること」


「良し」


ボティスが儂に「狐に」と言い

狐身となった儂を抱き上げる。


「行くのかよ、ビリー!」

「待てよ、ブラック!」


浅黄が薙刀を手に共に参り

桃太が心経を始める。


「まず黒炎だ」と 前を向かされ

「放射」と言われ、黒炎を放射する。


「オレもやるぜ!」と 朋樹が炎の尾長鳥を飛ばし

ルカが風で巻く。浅黄が跳んですねを払う。

だが 何もならぬであった。


「ダメだ」

「良し、退却」


ふむ、決断が早いのう。


くるりと振り向いて、カフェに戻ろうとした時に

背後でビュウと風が唸り、儂らと朋樹の間に

黒刃の切っ先が刺さった。


「おいおい... 」


地面から黒刃が抜ける前に

「走れ!」と言われ、カフェまで退却する。


「榊、浅黄。狐火を」と シェムハザに言われ

狐火を出すが「大量に」と言われ

浅黄も儂も くらりとしながら無数に出した。


「よし、行くぞ」と 呪を唱え、息を吹くと

無数の狐火が ギュンと飛び、髑髏の肋骨や頭蓋の内部へ入る。狐火が あのような速度で飛ぶとは...


指を鳴らすと 狐火が弾け、カッとなかから光った。


「どうだ?」


腕を組んだシェムハザが、甘い匂いを漂わせ

きらきらと輝いて申したが

髑髏は驚いた様子は あったものの

ビュウと黒刃を振り上げ、また 一歩、ガシャリと

歩を進める。


「ダメだ!」「効いてねぇ!」


シェムハザが指を鳴らすと、河川敷の小石が

ふわりと無数に浮いた。

また指を鳴らすと、それらは見えぬ程の速度で

一斉に髑髏を撃った。


「おっ?」「意外と... 」


髑髏は ズウンと音を立てて腰を着き、首を振っておる。


「打撃系が効くのか?」

「だが先程、脚を打っても効かぬであった」

「いや、あいつからしたらさぁ

一人でコツンてやっても... って感じなんじゃね?」


ルカの言葉に 浅黄がムッとするが、仕方あるまいと 儂も思う。

相手は あのようである故、コツンとやるくらいでは効かぬであろう。


「桃太、結界内で心経唱えて 効くのか?」


朋樹に聞かれ、桃太が ハとする。


「なんだよ、しっかりしろよグリーン!」

「ぼんやりしておるのう」


ほほ と儂も笑うと

「何? 榊、お前も火炎放射は効かぬであったではないか」と、八つ当たり気味に言うて

銀縁眼鏡を くいと上げる。


「何?」と、儂は ボティスの腕から降りたが

有事である故、桃太は ふいと結界を出て

また心経を唱え出した。


すると、立ち上がろうとしておった髑髏が

頭蓋の眼を桃太に向ける。


「一つ、眼球があるな」


ボティスが冷めた珈琲を口にしながら言うが

ふむ。歌川殿の作画に忠実であるのう...


「なら、眼が弱点... ?」


泰河が言うと、何故か ジェイドに焦りが見えた。


「まさか。そんな分かりやすいことはないだろう?」


「おまえさぁ、祈りくらいしてきたら?

聖水 撒く?」


「いや、多分 効かないと思うんだ。

信徒の念じゃないだろうし。おいで、アンバー」


ジェイドは、くるりと踵を返し

「まだ お菓子があったね。ココアを買いに行こう」と、カフェに入って行った。


「じゃあ、ボティス。

心経に怯んでいる内に、軍 呼んだら?

守護天使軍... とか... 」


何か迷い気味に朋樹が言うと、ボティスは

「守護天使共は 軍単位で呼ぶと目立ち過ぎる。

軍か... 」と 髑髏に眼をやる。


「呼ぶのか? でも、かっこいいのに... 」


アコが言うと、ボティスもシェムハザも

ちぃと焦った顔になった。


「とにかくだ。打撃やシンキョウが効くということは分かった。

俺としては、ここは もう少し対策を練って

対決に臨みたいと思うが、どうだ?」


「えー、じゃあ ドクロどうすんの?

泰河、おまえも何もしてねぇじゃん」


む... 考えてみると ボティスも何もしておらぬ。

した風ではあったが、儂が黒炎放射したのみじゃ。


「いや あいつ、武器 持ってんだぞ?

オレ、素手で触るしか方法ねぇのに

そこまで近付く気にならねぇよ。潰される」


「けどおまえ、陀羅尼だけじゃなくて

心経もいけたよな?」


ふむ、何故 唱えぬであろう?


「桃太が やってるし... 」


「同じ人間の方が、言葉は届こうものの」


儂が言うと

「だって、ガシャドクロだぜ?!

もう少しさ、何て言うか... 」などと言うた。

むう。そのような理由であったか。


「うん。そうだよなぁ」と、ルカが あっさり流れ

「まあ... なんだ。まだ何も害は ないしな」と

朋樹が言うた。


「初出なんだろ?」と ボティスが言い

「道路を歩くところを見たいものだ」と

シェムハザが きらりと輝いた。

ジェイドも同様の理由であろうのう。


「うむ。格好良くはある... 」


浅黄までじゃ。


「桃太、もう止めろよ」


アコが桃太に、両腕を開きながら

さとすように近付く。


「今日は あいつのバースディじゃないか」


「むっ...  バースディ、と?」


桃太はアコを振り向くと、また髑髏に向き

銀縁を くいと上げ、哀愁などまで漂わせ

戻って参った。良いのであろうか?


カフェから戻ったジェイドの顔にも

安堵が見える。


「立ち上がったぞ」


髑髏は大きな骨体で立ち上がり

ビュウと黒刃を振るった。


「むっ... 」


危険があるように見えるのであるが

「おお... 」

「クールだ... 」と、皆 眼を輝かせておる。


ガシャ... ガシャリ... と音を響かせ歩み出し

河川敷から道路へ出た。


「追うぞ」と、シェムハザとアコが消え

ルカと泰河がバイクに乗ると、儂等はバスに乗り込む。


「動作は ゆっくりだけど、歩幅あるよな」

「まあ、見失いはしないけどね」


運転するジェイドと助手席の朋樹が言い

浅黄とボティスが「眼であれば効こうか?」

「さぁな。だが、何とか制御する方法があればだ。あいつは かなりの戦力となる」

「むっ、考えることが違うのう... 」と

良からぬ相談に盛り上がっておる。


「それは、相談所の戦力にも?」

「もちろんだが、シェムハザも同じことを考えているはずだ。あれを見逃すような男じゃあない」


シアンのことを考えれば、有り得るであろうのう。ましゅまろの何かにも喜んでおったと聞く。


「使役なら、シェムハザの方が得意なんじゃないか?」


朋樹が心配そうに振り向いて聞く。


「でも あれは、この国のものだ。

シンキョウが唱えられなければ制御が難しいんじゃないのか? 朋樹の大祓は?」


髑髏とバイクに追い付き、のろのろと車を進ませながら、ジェイドか言うが

「ああ... 心経ならな、“念なんかに囚われても

それに実体ねぇんだし、意味はないんだぜ”... って

ソフトに自ら気づかせる方向なんだけど

祓いだと、禊いじまうからな」などと答えた。


隊員として挑み、攻撃はしてみても

滅してしまうのは惜しくあったようじゃのう。


「うむ。心経ならば、俺も榊も唱えられる」


浅黄...


「良し。観察して落とし方を考える」


「式鬼契約なら... 」と 朋樹が ぼそりと言うたが

車内ミラー越しに ボティスと眼が合い

「いや、譲る」と言い直した。


「しかし、どこへ向こうておるのか」


桃太が窓の外を見る。

髑髏は、人のおらぬ道路を ガシャリ ガシャリと

歩み続ける。


「足しか見えんのう」

「そうだな、ちょっと離れてみるか」


車を停車すると「珈琲」と言うので

ジェイドと朋樹が買いに行く。

ルカもバイクを停めており、跨がったまま

泰河から缶珈琲を受け取って開けておる。


ジェイドは、購入した缶珈琲を出して

また小銭を入れる という作業をしておるが

朋樹が 泰河とルカに何か話しており

二人は、こちらに顔を向け

「マジか?!」「了解!」と 楽しそうにあった。


「様子を見てみるか」と、バスを降りる。


ガシャリ ガシャリと歩む髑髏は

時折、何かを探すように 頭蓋を動かす。


「何探してんのかな?」

「そりゃ おまえ、人喰いだから... 」


ふむ。生きた人間であろうのう。


だが、精霊や霊、結界により

生きた人間とは行き逢わぬ。


「山 越えたら、どうするんだよ?」

「越えようとしたら、お前等が囮になれ」


さらりと言うたのう。


「バイク班かな、やっぱり」

「おう、その時は 桃の木守り棄てろよ。

邪避けしなけりゃ、髑髏は お前等に気付く」


「お? おう... 」

「けどさぁ、もし捕まったら どうなんの?

やっぱり 喰われんの?」


「恐れは高かろうのう」

「捕まってみろ」

「イヤだし」


「気になるな」と、朋樹が人形ひとがたを出し

自らの生き写しを造った。


「待て」と、ボティスが足下に魔法円を出し

足を退け、短き呪を唱えると

蒸気のような物が噴き出し、朋樹の人形に入った。


「何したんだ?」

「この辺りにいた霊や念を集めて込めた。

人の魂 一人分の誤魔化しにはなるだろう」


朋樹が人形を歩かせると、髑髏の足が止まった。


とぼとぼと歩き、髑髏を追い越した朋樹の人形に

髑髏の 一つ眼が向く。


「あっ!!」「何っ?!」


ガシャリ ぺキぺキと... 幾らかの連続音が響いた。

髑髏は人形を踏み潰した。


「うわぁ... 」「捕まるどころかさ... 」


髑髏は緩慢にしゃがみ、片膝を付け

ぐにゃりとした人形を摘まみ、頭蓋の顎を開き

中に放り込む。


うっ...


「これは... 」「うむ... 」


咀嚼しておる...


「飲み込むのか?」と

缶から口を離したボティスが言う。


飲んだ、と 思うたそれは

顎の下から落ちた。

衣類と骨の混じったミンチ肉じゃのう...


「霊や念がない。咀嚼して出すようだな」


朋樹がゲンナリとした顔でミンチの人形を消したが、皆 一様に同じような顔付きになっておった。


「まず 踏まれるな。まずくなったら

脇道に反れりゃあ、結界の外だ」


「おう... 」「わかった... 」


黒刃を携えた髑髏は、また立ち上がり

ガシャリ ガシャリと 歩き出す。


儂等もバスに戻り、バイクと髑髏の後を追う。


髑髏は、四山の麓まで近付いたが

麓のジェイドの教会は避けるように 方向を変え

結界外の道を進み出した。


「人間探しであるのう」

「結界内の街の人間の気配を感知してるんだろ」

「ぐるぐる回るってことか?」

「どうしようもなければ、山を越えるだろうな」


結界の端に着くと、また方向を変える。

河川敷に出ると、河川敷沿いの道路を歩き出し

朝まで ぐるぐると回ることとなった。


「もうすぐ明るくなるぜ。結界は このままか?」


ふむ。人里の者等には 不便があろうのう。

通れるはずの道が見当たらぬ故。

河川敷の散歩なども出来ぬ。


「そうだな。ドクロに喰わせるよりマシだろ?」


そのように話しておると、空が薄く明けてきた。


「あっ!」


ジェイドがバスを停める。

朋樹の声に前を向くと、立ち止まった髑髏が

薄れ出しておった。


そうして 空が白むと共に、薄れて消えた。











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