25


「いや待て スサノオ、こいつは こっち側だ。

説明する。お前も 何があったのか話せ」


「須佐之男様!」

「須佐之男尊、どうか剣を収められて... 」


浅黄や桃太が人化けして、膝を着いて平伏し

榊も人化けして、スサノオに歩み寄り

「異国の御使みつかいなる方、ミカエル様に御座います。月夜見様きみさまも 存じ上げられて御座います」と

天使の遺体の前に膝を着こうとすると

「良い。立て」と、遺体を越えて来た。


「通せ」って、浅黄と桃太を立たせると

ボティスに「説明しろ」と言って

バンガローに入って来て、ダイニングテーブルの

椅子に座ってる。


大人数用のテーブルには、スサノオの両隣に

榊と朋樹が座って、背後に桃太と浅黄。

向かいに ボティスとミカエル。膝に露子。

二人の後ろにアコが立つ。


インスタントだけど、ちょうど淹れてたコーヒー出すと、オレらは 少し離れて、ベッドのとこで 固まっておくことにした。


「榊、ボティスの隣じゃねぇのか... 」って

泰河が意外そうに言うと

「キミサマの弟神なんだから、仕方ないだろう。

酌する立場なんだしね」って、ジェイドが アンバーの頭を撫でながら答えてる。

仕事の話だから ってことか。


ボティスが「一の山の奈落の話は?」と

スサノオに聞くと

それは 月夜見キミサマに聞いたみたいで 知ってたから

「奈落から、黒蟲が這い出た恐れがある」って

セミナーやら憑依やら、繭とウイルスやらの話を し始めた。


「コーヒー、インスタントなんだけどー... 」

「本当なら 日本酒であるべきだろうね」

「そうだよな... アコ」


アコ呼んで、こそこそ相談してみると

「わかった」って消えて

瓶とグラスを持って、すぐ戻って来た。

でもワインだし。


「日本酒って言ったじゃないか」

「普段 飲んでないやつの方が喜ぶと思ったんだ。

玄翁や真白は喜ぶぞ」


ジェイドが そうか って顔になる。

コルク抜いて出すと、榊が スサノオに注ぎ

朋樹が ボティスとミカエルに注ぐ。


「葡萄酒か?」と 聞いて、スサノオが 一口 飲んだ。頷いて飲み干すから、また榊が注ぐ。

アコは ほら って顔してやがる。

うん、よくやった。


「機嫌 直ってきてね?」

「でも、一本じゃ足りなくないか?」

「つまみもあった方がいいんじゃね?」


また こそこそ言ってると

オレらが 呼ぶ前にアコが消えた。


ワインをケースで四本、オードブルのでかい皿を

テーブルに置く。やるなアコ。


榊の腹が鳴ると、また消えて

鶏まるまる 一個の香草焼きの皿を置く。

オードブルより ご馳走感ある気する。


ボティスの説明が止まって

「俺も食う」って ミカエルが言う。

スサノオは ちょっと笑って、榊に

「酌はいい。向こうに回って、異国神と食え」って、言ってくれてる。結構 優しいじゃん。


榊が、ボティスたち側に向かって

ミカエルが間に座らせる。


「浅黄、桃太。座れ」って、スサノオに言われて

二人もテーブルに着いた。名前、知ってるんだ。

アコが またグラス持って来て、何故か アコも

ボティスの隣に座る。


「オレら、声 掛からんくね?」

「要らねーんだろな」

「朋樹が ワイン係でいるしね。

ドアがないから寒いね」


オレらは コーヒーでも飲むかぁ って

コーヒー 淹れてたら、ボティスの説明が終わって

スサノオが話し出した。


「ツキの元へ向かおうと 海面に立った時だった」


「海面?」って、コーヒーの湯気に息 吹きながら

こそこそ聞くと

「根の国は、海の底にあるようだよ」って

ジェイドが言って、そっとアンバーを

榊の頭に乗せに行く。チキンを食わせてやりたいらしい。


「海面から月に、どうやって行くんだろうな?」


泰河が コーヒー啜りながら言ったら

「跳ぶのだ」ってスサノオが答えた。

聞こえてるんじゃん。やべ。

ジェイド さっき、ドアないから寒い っつってた。


「白い光が弾けると、アーチの門が顕れ

あの者共が、剣を持って俺を囲んだ。

それで 斬った」


うん。殺らなきゃ殺られてるもんなぁ。

なんでスサノオを... って思ってたら

「まず、この国の神から始末しようとしたみたいだな。抵抗しそうな奴を潰しておく気だろ」って

ミカエルが言う。


「天のゲートを開けて、堂々とか?」


「だって、あいつらは サリエルの配下だぜ?

サリエルは不在だけど、派手にやらせた方が サリエルのせいに出来るだろ?

こいつを狙った天使が もし生き残ってもいいように、サンダルフォンは、間に他の奴を介して めいを出してるだろうな」


キュべレが目覚める前に、抵抗勢力になり得るヤツを潰しておく ってことか...

この国を護ろうとするスサノオや月夜見キミサマを潰しておけば、後々も やりやすくなるもんな。


他の国や他神話の神を殺るなら、奈落が繋がった 一の山を拠点にして、日本ここから地上掌握... 他神話の神を潰して行く気だと思う。


今、もしスサノオが殺られてて、天と日本神側が揉めても、サリエル 一人の責任にしようとしてた ってことだろう。

元々 サリエルは、月夜見キミサマやスサノオと何度か やりあってるから、狙う理由はある って 見なされる。


「堕天していなければ、その後は こういったことを 俺が やらされていたかもしれん... ということか。守護天使の軍を使ってな」


日本神側と天が揉め出したら

ボティス... バラキエルの 地上の守護天使軍を動かす気だったのか。

天を守護するため とか 言えるもんな...

賢いけどさぁ、汚ぇよなー。


泰河をエデンに誘い込んだのは サリエル。

キュべレを落としたのは 泰河の罪。

今の スサノオ襲撃は、サリエル。

日本神側と揉めて、守護天使軍が地上で動けば

罪には ならなくても、その責任はバラキエル。


サンダルフォンに繋がる証拠がない。


「キュべレが目覚めて、本格的に動かす時は

地界軍も... ってことだろうな。

キュべレ側に 地界がつくのは、天から見ると 何の不思議もないからな」


「手羽は手に持った方が食いやすいぜ?」って

榊とアンバー、露子と、鶏 一匹 食いながら

ミカエルが言う。


「他神話の神々と地界に、散々 潰し合いさせて

最終的に “地上を平和に収めるため”

天が キュべレ回収に動く... ということだろう。

簡単に地上掌握 出来る頃にな」


ボティスが言うと

「結局、その役は俺になるぜ?

他の奴じゃ無理だからな。天 総懸りだろうけど」って、ミカエルが軽く付け加えた。


「スサノオ、今回の件に関してだが... 」


「荒立てん。話は わかった。

だが 討ってくる者は、すべて斬る。

ツキは、黒蟲のことは 知っているのか?」


榊の手が止まって、朋樹の表情も固まる。

話してねーんだよなー...  また怒るんだろーな。


「俺は、高天原に上がる。

アマテラスに話し、他の神にも注意を促させる。

ツキには、お前等から話しておけ。

後に月に向かうが、俺から聞くより、お前等から先に話しておいた方がいい」


朋樹が、うわ... って顔したままで

榊も まだチキンの手は動いてないけど

スサノオって、意外と冷静だよな。

兄ちゃんの月夜見キミサマの性格もわかってるし。


椅子を立ったスサノオに

「遺体は どうする?」って 聞かれて

「こちらで処理する」と、ボティスが答えた。

埋葬するのかと思ったら「保管する」とか言う。


「微細な証拠でも集めておく。

今回のスサノオ襲撃の命を サリエルが出せなかったことは、べリアルが証明 出来るからな」


「土産にもらう」と、ワインの瓶を 二本持った

スサノオは、榊たちに見送られて外に出ると

グッ と 脚に力を込めて ジャンプし、空高く消えた。 マジで、移動は “跳ぶ” んだ...


「さて... 」と、ボティスが ため息をつく。

「月夜見と話すことになるが...

ハティ、シェムハザ」って、先に 二人を呼んで

オレらにテーブルを片付けさせた。


「何故、翼を背負って居る?」って、ミカエルは

シェムハザにも言われて、ハティも呆れ顔だ。


「いいだろ、聖子には “視察” って 話してきたし

アリエルが楽園をみてる」


「聖子に?」と、ハティが確認した。

ミカエルが「だから、そう言ったろ?!」って

怒ると、何か表情を緩めて

「天体観測はどうだ?」と、赤い手のひらの上に

星座盤を出した。


「天体って... 」っていう ミカエルに

「ルカらに教えてやってほしい」とか言って

シェムハザが、広場の向こう端に でかいテント設置した。いや 遠くね?!


野外用のコーヒーセット、エッグタルト、マドレーヌやクッキーの篭とかも、オレと泰河に渡す。

月夜見キミサマと話すから、ミカエルは連れ出しとけ ってことかな?


「今から、べリアルとパイモンも呼ぶ。

ジェイドも同席すること」


うん、なるほど。

バンガローにミカエルが居ると良くないよな。

ジェイドはテントに入りたかったみたいで、すげーガッカリしてる。


野外用のコーヒーセットを見たアコが

「行こう!」って 言うけど

「お前は 二山と五山に、“明日 会議” と伝えに行ってからだ」って、ボティスに言われて 渋々消えて

浅黄と桃太も、玄翁と真白に伝えるために

自分の山に戻ることになった。

山神たちにも 注意を促しとかないとだもんなー。


シェムハザが、料理やワインを取り寄せて

テーブルを埋める。

ちょっとしたパーティー並みじゃん。


「なんかさぁ、月夜見キミサマに話すだけにしたら

やたらキッチリ準備してね?」って 聞いてみたら

「だからだろ」って、朋樹が ため息をついた。


「天のこと... 日本神側から見りゃ 別界のことで

国土を奈落に繋げられて、弟神が狙われた。

この先も狙われる... って 話をするんだしな。

オマケに、黒蟲の報告はしてなかった」


「話し合い、面倒臭そうだな。行こうぜ」って

ミカエルが 先にスタスタ歩き出す。

「タルト食いたいから、珈琲 淹れろよ」


「榊、正装で扉を開け。今日は酌しろ」


ボティスが言うと「ふむ」って

“それが賢明であろう” みたいな顔で頷いて

界を開く正装になった。


シッ て、ボティスに追い立てられて

アンバー 預かって、テントの方に身体を向けると

「にゃー」って 露子も来ようとする。


ミカエルが振り向くけど

「むう、露さん」って 榊に止められて

「露、月夜見キミサマの機嫌を頼む」とか

朋樹にも言われた 露子は

「にゅー... 」って、残念そうに

とぼとぼと バンガローに戻って行った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る