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「仁成くんが、“もうすぐ着くはず” ってさぁ」


四の山 降りて、教会にいる。

榊とボティスは、六山会議のために キャンプ場に残ってるけど。

降りたのは、オレら四人と 露ミカエル。


昨日の夜は、月夜見キミサマやら

べリアルやパイモン呼んでの 話し合いの間、

オレらは、また焚き火 起こして

コーヒー 淹れたりとかして、タルトとか食って。


星座盤とか見て、星座探しもしてたんだけど

ミカエルは、一切 解説とかしなかった。

「天使に充てられてる星もあるけど、悪魔に充てられてる星もあるぜ」くらいで 終わっちまってさぁ。


「星の話より 天使らしいことしてやるよ」って

背中の翼から、羽根を ぶち って むしって... ここで、 もうすでに天使らしくねーよ って思ったんだけど

「絵を描こうぜ」って、オレらに羽根を渡した。


「星を繋いで描くんだ。エデンに飾る」


羽根の先には 何もないし、どうやって? って

思ってたら、ミカエルが 空に羽根を向けて

星同士を線で繋ぐように動かした。


「大樹。善悪の樹。イチジクの方な」


割と上手くて、そっちの方にも驚いたけど

星を繋いで描いた大樹は、青白や赤、繋いだ星の色で大樹になった。

それが 地面から少し浮いて、目の前にある。


「お前等も描いてみろよ」って 言われて

「オレ、絵とか描けねぇよ」って

泰河が、犬か馬か わかんねーよーなヤツ描いた。

「牛?」って 聞かれて「琉地!」って 答えてて

マジで ビビったぜ。 


「ルチって何だよ?」って言うし、琉地 呼んだら

「コヨーテか!」って 大喜びして

もー、そっからは アンバーと琉地と大はしゃぎ。

泰河もミカエルも、早くも お絵描き終了。


オレは、リラとオレを描いた。

リラの背中には 簡単な翼も。


「えっ? おまえ、すごくねぇ?

絵なのに 何か、まんまじゃねぇか」


マドレーヌ食いに戻って来た泰河が、青白や赤の星色の オレとリラを見て言った。

ちゃんと、オレとリラ って 分かったみたいだ。

まあ、美術は そこそこだったからなー。


ミカエルが、ブロンド睫毛の下の碧眼を

星絵のオレとリラに向けて、視線を下ろすと

二人は、大樹の下に立った。

牛か馬みてーな 琉地も 一緒に。


焚き火の火と、星絵 見ながら

くだらねー話ばっかしてて、あくび出たら

「火の番してやるから、テントで横になれよ」って、ミカエルが言う。


テントで、毛布にくるまって

アンバーは 泰河が、胸の上に乗せて寝る。


開けっ放しの入口から

焚き火の向こうに、星絵が見えて


こっちに背を向けて、焚き火の前に座ってる

琉地と ミカエルの背中の翼を見ると 涙が滲んだ。


自分たちで 何とか... とか、出来ねーことばっか

起こったりするけど

久々に、安心感があったりとかして。


護られてる気がした。

ガキの頃、意識もせずに そうだった時みたいに。


熟睡して起きたら、焚き火は消えてて

星絵は、ミカエルがエデンに飾って来てて

『人が来ると困るからな』って、露ミカエルになってた。


『琉地は、エデンに入れたぜ?』とか 言うから

かなり ビビった。

ミカエルがゲート 開いたら、普通について来たらしい。

これからは、五の山とフランスだけじゃなく

エデンにも行くんだろうな...


「釣りに行くぞ!」って、アコが はりきって

釣り道具 借りて来てて

朝まで話してた ボティスとかジェイドたちは

まだ寝てて、オレらが 川釣りに付き合わされる。


ニジマスとか オイカワとか釣りまくって

二匹だけ ヤマメが釣れた。

やってたら楽しくなってきて、あっという間に

昼を越えたけどー。


火で 釣った魚 炙ってたら、朋樹たちも起きて来て

露に食わせる間、ミカエルは 一回 露から抜けて

エデンのアーチの境に座って 魚 食ってて

アーチの向こうには、飾られた星絵が見えた。


で、バスで纏まって降りて

ジェイドん家で シャワーとか済ませて

教会で、ユースケくんと ご両親、その親戚の人たちの到着を待ってるとこ。


今日は、“教会で信徒の方の相談を聞くから” って

説明して、ヒロヤくんの勉強会も休み。

助祭の本山くんも帰宅して、教会に居るのは

オレらだけ。


『ガブリエルがいるのに、俺 いないぜ?』


教会のステンドグラスを見て、露ミカエルが

ムッとして言う。


「この教会のガラスは、ほとんどが

ジェズの生涯についてのものだからね」


神父服スータン 着た ジェイドが説明するけど

納得はしてねーっぽい。


『ルシフェルが、赤い竜になって天に攻め込んで来た時、奈落送りにしてやったんだぜ?

あいつ、一本角にたてがみまで付けてやがって

一気に第六天ゼブルまで昇って来た』


ゼブルって、第六天かぁ...

“竜殺しのミカエル” って 異名もあるもんなー。


それで皇帝は、奈落に千年 繋がれたらしい。

その間の地界は、べリアルとアザゼル、ハティで

なんとか治めてた って、ボティスが言ってた。

遠い眼してやがったし、よっぽど大変だったんだろうなぁ...

皇帝不在だと、すぐ混乱 起こるらしーしさぁ。


「けど、結構 昇られたんじゃん」


『うん、ちょっと油断してたな。

第六天ゼブルで会議してたから、気付くの遅れたし』


ミカエルって、会議に出たりするんだ。


「そんな絵を飾ったら、物騒になるじゃないか。

第一、サタンの絵を飾る教会はない」


露ミカエルは、ちぇーって感じだけど

確かに そーだよなぁ。


「でも、ミカエル知らない人って いないくらい

有名なんだし、別に いいんじゃねぇの?」って

朋樹が言ったら

『絵を描いてもらうのが好きなんだ』って

ぼそって言った。


「えっ? 意外とナルシストじゃねぇか」


泰河が言ったら

『そうなるかな?』って、首を傾げる。


『“人が見た俺” を 見るのが好きなんだ。

“俺が見る俺” とは、違うだろ?

どんな風な奴か わかるから。

人間が撮った地上や、人間と動物の写真も好きだぜ。そいつの眼を通した 地上が見える。

そいつの見方ごと見えるだろ?』


「いいものばっかりじゃねぇだろ?」って

朋樹が聞くと、露ミカエルは

『うん、そうだな』って 頷いて

『それでも、世界は素晴らしいだろ? 隅々まで』と、眼を細めて言った。


誰も なんにも話せなくなってた内に

「教会に着いたら、喚べと言ったはずだが」って

シェムハザが顕れた。


朝、ジェイドと朋樹が言われてたけど

寝ぼけてて 忘れてたらしい。


「ん? お前たち、どうした?」


「ミカエルが、“世界は素晴らしい”、と... 」


ジェイドが 声を詰まらせる。

どうして いつも、こうなるんだろう?


シェムハザは、すぐに わかったみたいで

「“言葉は光” だな」って、眩しい顔で笑った。


「絵はさぁ、オレが描くよ」って言ったら

『絵の具でだぜ?』って

露ミカエルが、オレに飛び付く。

「オレも描くよ」って 泰河が言うと

『お前は、クレヨンでいい』って 前足で指した。


「着いたようだな」と、シェムハザが

輝く姿を オレら以外には見えなくすると

ジェイドと朋樹が 通路を歩き、教会の 両開きの扉を開けに行く。


オレと泰河は、後ろの方の長椅子に座って

ウイルスに感染していると思われる ユースケくんの親戚の人たちと、ご両親も観察する。

露ミカエルも オレらといる。


「ようこそ。はじめまして。

司祭のヴィタリーニです」って、ジェイドが

全員と握手して

「助手の雨宮です」って 紹介された 朋樹も

「はじめまして」と 握手した。何の助手だよ?


「どうぞ」って 通路を歩いて、前の方の長椅子を勧めると、通路の左右に分かれて 座ってもらってる。

右側に、ユースケくんと ご両親。

左側に 親戚の人たち。

ジェイドと朋樹は、朗読台の前に丸椅子を置いて

ユースケくんたちと向き合うように座る。


「実は、セミナーには 僕も出たんです。

勧誘されて、気になったので」と、朋樹が切り出す。


シェムハザが、オレらの隣に立って

『ドリンクを出せ』って

トレイに乗った瓶入りの水とグラスを取り寄せた。うん。水が無難だよな。


「僕は大変 驚きましたが、皆さんは どうでした?

“不幸” や “次世界” が、自然なことには見えなくて

本当に怖かったです」


「どうぞ」って

オレが グラスを渡して 水を注いで回ると

ユースケくんは、何か言いたげに オレの方を見た。


ジェイドが気付いて「お手洗いかな?」とか聞いて、頷く前に「案内して差し上げて」って

ユースケくんを立たせ、オレに 連れ出させる。


「トイレは、外なんだ」とか 言いながら

『観察は しておく』ってシェムハザに言われて

教会の扉から連れて出ると、泰河も出て来た。


ユースケくんに「どうした?」って聞くと

「あの... 」と、声を震わせた。


見下ろして 話 聞くのも何だし

泰河と 三人で並んで、教会の扉前の短い階段に座る。


「オレら、何 聞いても 大丈夫だぜ」

「そ。何でも何とかするし、言ってみなよ」


ユースケくんは、オレと泰河の顔 見て

軽く喉を鳴らすと「... 見たんです」って 話し出した。


ユースケくんの話では、おそらく 親戚の人たちだけじゃなく、ユースケくんの ご両親も感染してるってことだ。


「セミナーの後、親戚の人たちが家に来て

すごく興奮もしてたんですけど

“間違っていたかもしれない” って... 」


おっ、そりゃそーだよな って、オレらは思うけど

あの洗脳ばりのセミナーに出て、それに気付くなら、結構冷静な見方が出来る人たちなんじゃないかって思う。


けど、話の先を聞いてみると

“天使が顕れてから、そう感じた” って

ことだった。ミカエルを見てから ってことだ。

その人たちも、元々は 一応 カトリックの信徒だって 言ってたもんな。


“人が、別のものになるなど... ” って

基本的なところから疑問になってきたみたいだ。


とにかく その時は、食事も まだ取ってなかったし

“近くで食べながら話そう” って、外に出た。


ファミレスに入ったけど、ユースケくんは

ご両親にも黙って オレらに相談した っていう後ろめたさもあって、なんとなく 話に入る気分になれなかったようで、一人で 隣のテーブルに座って

スマホを見たりしながら、飯 食ってたらしい。


「そしたら、“こんばんは” って ニコニコしながら

スーツのオジサンが、父さんたちのテーブルに近付いて来て... 」


そいつは、セミナーで司会をした

あのグレースーツだった。

「あとで、セミナーの動画を観てわかったんですけど... 」ってことのようだ。


そいつが、親戚の人たちを勧誘したヤツで

「今日は、いかがでしたか?

素晴らしかったでしょう?」って、ユースケくんから見ると、ご両親たちの 向こう隣のテーブルに着いたけど、ユースケくんは 他人のフリしてた。


「はあ... 」「まあ... 」って、苦笑いして

歯切れ悪い返事してる親戚の人たちを見て

ユースケくんの父親が

「申し訳ないですが、やはり 教会へ戻りたいようなので、脱退させてもらえないでしょうか?」と

代わりに言うと


「考え直された方がいいですよ?

クライシ様の印を拒否すれば どうなるか、ご覧になったでしょう?」って 穏やかに引き止め出した。


それでも「人でなくなってまで生きるのは... 」と

やんわり拒否すると

グレースーツの男に、何かが入ったらしい。


「見えたの?」


「はい。よくは見えなかったんですけど...

おれ、みえたりとかする方なんで... 」


それは、雰囲気は男のようだったみたいで

そいつが入ると、グレースーツは

ふっ と、二回 息を吹いた。


口元から、糸のような白い何かが出て

ご両親の耳から入っていった、と...

グレースーツから、そいつが出て消える。


「あれが、繭のもとだって思うんです。

直感でしか ないんですけど」って

辛そうに 眉間にシワを寄せた。









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