23


「推測した通り、レトロウイルスだ」


ハティが戻ってきた。解析 早ぇよなー。


「蚕になった者と、ウスバアゲハになった者

どちらも同じウイルスに感染しているが

転座の際に紛れる箇所に違いがあった。

これにより、塩基配列も差異が生じ

蚕か ウスバアゲハかの どちらかに分かれる」


転座のモザイク。“ANBCDE” ってやつだ。

別の遺伝子のNが組み込まれてるところが

ABCDNE みたいに、違う場所になってたりするってことだろう。


「今のところ、病気の域ではあるが

ウイルスが変異し続け、生殖機能を兼ね揃えた個体が出現し、集団に広がれば、これは進化だ。

新しい種の誕生となる」


あれ? ハティ楽しそうじゃね?

しかも “集団に広がれば” って。


「キュべレの目覚めのために 魂集めを目的としているのなら、そうなる前に淘汰されるだろ。

機能が戻ったとしても、交配は出来ん と推測されるがな」


ボティスが呆れがちに言うと、ハティは笑った。


「生物モデルとして欲しいのだろう」って

シェムハザが言ったら

「いや、遺伝子の解析は済んだ」って 答えやがった。 たぶん、地界で作る気だ。悪魔だよなー。


「感染方法は わかったのか?」


「おそらく、空気感染ではなく

急速に伝染していくものでもない... と いった程度だ。

人々を勧誘する魔女が “印はまだ賜っていない” と言ったことから、選別した特定の者に 個別に感染させられる と考えられる」


人を選んで、ウイルスを混入 出来る ってことか...

接触感染ってことかな?


けど 勧誘してたおばさん... 魔女は、相手に触れてない。

“のろわれろ” って言って、オメガ... 蚕の印のスイッチを押しただけだ。


“祈ることで 印を... ” って 言ってたし

勧誘に乗って 入信すれば、アルファのウスバアゲハなんだろうけど、セミナーに参加した人は、まだ繭になってない。

印のスイッチと、感染... 繭になる条件は違う ってことか。印は アルファかオメガの選別みたいだ。


クライシ本人が ウイルスを混入するとしたら

セミナーに出た人も、入信を断った人も

おばさんや他のヤツに 勧誘される “以前” に

クライシに会った ってことになるよな?

そうじゃないと、カフェで 印のスイッチは押せないしさぁ。


でも、クライシに会った って

あの赤ちゃんに会った ってこと?


普通に過ごしてて、なかなか赤ちゃんには会わねーけどな...

赤ちゃん抱いた人とか、ベビーカーの人とかと

すれ違うことは あるけどさぁ。


「キャンプファイヤーが したいんだ」


アコ...


「おまえ、施設キャンプでやる基本的なこと

全部したいんだな」

「キャンプファイヤーなんかするのか?」


あぶって食うために、マシュマロも買って来たんだぞ」


「それ、海外の子供とかが やってるやつだろ?」

「スイーツであるよな。焼きマシュマロ」

「クリスマスに、暖炉の火で炙るんだ。

うちには 暖炉はなかったけど」


「いいだろ? 浅黄も “やろう” って言ったんだ」


浅黄?


「浅黄は、火が苦手である故。狐火は出すのだがのう」って、榊も 浅黄が火が苦手な理由はわからないらしい。

まぁ 単純に、火って怖いよなー。


ボティスが 浅黄を見たけど

「構わぬ。楽しくある故」って 笑って

「じゃあ、薪を取りに行こう!」って言うアコと

宿泊施設の方に歩いて行く。


オレらも 手伝って運んで、それっぽく山にする。


「じゃあ... 」って、朋樹が式鬼 出そうとしたら

「やめろよ!」って アコが止めた。


「まず、木の葉に火を点けるんだろ?」とか

言い出す。

炎の式鬼鳥で点けるのは 違うみたいだ。


「じゃあ、枯れ葉 集めて来いよ」って言ったら

「それは やってくれ」とか言う。おぉーい...


「風、葉っぱ」って言ったら

白い煙が 軽い竜巻起こしながら、キャンプ場中の枯れ葉を集めやがった。すげー 量。


「むっ!」って、榊が狐に戻って 枯れ葉の山に突っ込んで行った。子供かよ。

アンバーも続いて よれよれ突っ込む。

二人共、枯れ葉に埋もれて見えなくなったし。

ここで琉地 呼んだら、榊に悪いよなぁ...

今度、教会の前でやってやるか。


「面白そうだな」って 泰河が言う。

ちょっと やりたいっぽい。

「そうですね」って 白尾が賛同して

うずうずしてやがる。なんか かわいいんだぜ。

わかってるだろうけど、ヒゲじゃなくて白尾が。


「行けばいいのに」「おう、行って来いよ」って

ジェイドと朋樹も言うけど、もじもじしてる。

榊とアンバーは、枯れ葉の山から 顔 出したり 潜ったりして、たまに 三つ尾だけ出てる。

大はしゃぎしてやがるし。


桃太が 手に印を組むと、何か呪を言った。

ちっさい竜巻が出て、白尾をつまずかせて

上に座らせると、枯れ葉の山に突っ込ませた。

うん、優しい... かな?


「おお、白尾!」って

榊が白尾に飛び付いて じゃれまくってる。


笑って見てた アコが気付いて

「ちょっと枯れ葉 分けてくれ」って

両手にいっぱい抱えて持って来た。

薪の下に 少量を置く。


「これに火を点けるんだな?」って

コンビニで買ったらしい 着火用の長細い筒ライターで 枯れ葉を焼いてるけど、うまく火が点かない。


「まだ、固形燃料があるだろう?」って

見かねた シェムハザが、燃料を持って薪の近くに行く。バーベキューしたもんな。


ボティスは軍のヤツらとワイン飲んでて

ハティは、浅黄と桃太。

狐や狸、他の霊獣のことを、すげぇ興味深い って顔で聞いてる。


「点いたぞ!」って、アコが晴れやかな顔で言う。点けたのは シェムハザだけどさぁ。


キャンプファイヤーの赤い炎が燃え立つ。

炎の先は、生き物のように うねり伸びた。

竜のヒレとか尾の先って、あんな感じなのかな...

いや、あの獣が竜に変異した時は

そうじゃなかったんだけど。


「きれいだよな。怖いけど」

「肌寒くなってきたから、暖かいしね」


やってみたら 意外に良かったんだぜ。


「枝に マシュマロを刺すんだ」って

アコが枝探し出すけど、それは やめさす。


「なんだよ、お前等。

枝くらいじゃ腹 壊さないだろ?」


「本気過ぎだろ」

「マシュマロが小さくて刺せねーよ」


仕方なく、バーベキューの串で代用して

そのままじゃ危ねーから

炙ったやつを楊枝に刺し換えて食うことで

なんとなく了承してやがる。


泰河と そのままマシュマロ食ったら 怒るしさぁ。

アコ めんどくせー。


葉っぱまみれの榊と白尾、アンバーが

焼きマシュマロ食いに来た。

風で葉っぱ払ってやったら、また はしゃいで

アンバーが軽く飛ばされる。


「気をつけろよ」って

ジェイドが アンバーを抱き上げた。

「どこも痛くしてないか?」とか 点検してるし。

過保護だよなー。


「熱っ! 火に近過ぎる。炙るどころじゃねぇぜ」

って、朋樹が怒ってやがる。


「うん、熱いな」


なんだよ アコ...


「バーベキューコンロでやるとか?」って

案 出したら

「そんなの違うじゃないか!」って

わがまま言いやがる。


「榊、狐火 出して。普通の」


ジェイドが言って

結局、狐火マシュマロになった。


「あっ、美味いな!」


表面が パリッとして、食感 変わるし!

シェムハザが またコーヒー取り寄せてくれる。


「明日は、川釣りするんだ」って

アコは笑顔だけど、明日も ここに居るのかよ?


ジーパンのすねに、なんかが掴まって

『俺も食う』って喋った。露ミカエルだ...


『炙るなら喚べよ』って

ジャンプして肩に乗ってきたけど

ボティスの軍のヤツらに、一気に緊張が走る。


「また来たのか」


『バラキエル。お前に会いに来たんじゃないし』


うん。マシュマロ食いに来たんだよな。


「大丈夫だ」って ボティスが言っても

軍のヤツらは、一緒にマシュマロ食う気には ならないらしい。猫ミカエルでも怖いみたいだ。


「街の見回りしてくる」「他の山も」って

悪魔たちが名残惜しそうに消える。

ボティスと飲めたのが嬉しかったっぽい。


「表立って 悪魔と 一緒に居られないんじゃなかったのか? 手も組めないって... 」


ちょっと心配気味に 朋樹が聞くけど

つゆに入ってりゃ、天から見えないんだぜ。

アリエルに聞いた」って、悪そうな猫顔しやがった。アリエル... なんでそんなこと教えたんだよ...


『今 アリエルが、楽園の動物たちを見て回ってるんだ。エデンにも降りてる』


ミカエルに 不在であって欲しかった っぽいな...


「繭がさぁ、30個くらい見つかってさぁ」って

何気なく言ったら

『そういう時は喚べよ!』って怒ってやがる。


「お前を喚んでも何も出来んだろ?

感染したものは、お前が触ると死ぬおそれがあるからな」


『感染?』


「そう。レトロウイルスだと判明した」


ボティスとシェムハザが言うと

『ハーゲンティ、話せ! わかりやすく!』って

肩から跳んで、ガーデンテーブルのハティに詰め寄る。

テーブルに飛び乗ると、二つ尾をハシハシと

打ち付けて、猫的に苛立ちをあらわにした。


「解りやすく... 」と、ハティが戸惑う。


「遺伝子については?」


『知ってる! 珈琲とマシュマロ!』


ジェイドが 焼きマシュマロを運んで

朋樹が 珈琲係に付いた。


「感染の方法などは まだ... 」

『お前、狐だな? 化け解けよ。

俺、狐 好きなんだ。お前 何?』


ハティに説明させながら、全然 お構い無しだぜ。


「露さん... 」って、榊が呟いて

「悪いな」って ボティスが謝る。


『銀狐だ! お前は何なんだよ?! 丸いし!』


「狸だよ。真面目に話 聞けよ」って

朋樹もミカエルに お構い無しなんだぜ。


『聞いてるぜ? 珈琲!

その勧誘の魔女、さっさと契約 解けばいいだろ?

連れて来いよ』


「クライシが憑依する赤子に近過ぎる。

我等が直接 手を出して、赤子に何かあった場合はどうするつもりだ?

一晩で出た繭の数を考えれば、魔女も その者だけではないと考えられる。

だが、クライシに使われているだけだ」


「ハティ、ちょっと怒ってるよな」

「顔に出してないけどな」って

まだ枯れ葉の山 見ながら マシュマロ食う泰河と

こそこそ話す。行きゃあいいのにさぁ。


『じゃあまず、その赤ん坊にクライシが入ってない時に、俺が加護を与える。

それでもう、赤ん坊には入れないだろ?』


おっ! そうじゃん! 冴えてる!


「感染していたら?」と、シェムハザが言う。


は... ? って、泰河と眼を合わせた。

感染て、赤ちゃんが... ?


「考えられぬことではない」って

ハティも言った。


「派手にセミナーに参加したようではないか。

クライシも当然、自己防衛の措置を取るだろう。

天使が 赤子に手を出せぬようにするには、感染させれば良い。

その内に 自らアゲハに変異すれば、勧誘にも益々効果的だろう」


「オレが、ウイルスを消したら... 」って

泰河が言うけど

「印を出さず、潜伏している間も消せりゃあいいけどな」って ボティスが言った。


「えっ? 何で?」

「どういうことだよ?」


「アルファかオメガかという印が決まってないのに、天の筆で何が出ると思うか?」


そうか...


「けど、何か出るかもしれねぇし、消せるかもしれねぇじゃねぇか」って 泰河が言うと

『感染者を探そう』って

黙ってしまっていた ミカエルが言った。


『クライシって奴の罪は、俺が量る』




















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