「生まれて喋った、って 何だよ。

酒呑童子しゅてんどうじとか 仏陀ぶっだかよ」


「けど おばさん、本気で言ってたよな」


カフェから、召喚部屋の方に戻ってきた。


闇おばさんと 一緒に、カフェを出た朋樹に

姿をあらわしたシェムハザが英語で話しかけて

偶然 会った友達風に 闇おばさんから救出する。

闇おばさんは『続きの お話はうちでどうかしら?』とか、困ったことを言い出していたからだ。


「じゃあ、明後日のセミナーで」と

今度は シェムハザに見惚れ出した おばさんに言って、朋樹と 英語しか喋れないていのシェムハザは

早口の英語で 闇おばさんをけむに巻き

タクシーに乗って、スマホに『召喚部屋』って送って来た。


召喚部屋のソファーで、シェムハザに取り寄せてもらったコーヒーとかクッキーとか摘まみながら

ハティも喚んで、今の話をする。


猫かまくらごとバスに乗せていた アンバー繭は

そのままテーブルに乗ってるし。

「セミナーが終わるまで 榊に預けておけ」って

言われてるけど。


「喋った って言ってもさ、生まれて すぐじゃなさそうだったよな。

今は、生後半年くらい とか言ってたじゃねぇか」


「もし 転生だとすると、奈落とは時期が違うね。

この間だし」


泰河と ジェイドが話してて、朋樹が

「転生だとしてもだ。現在にばかり転生すると

仮定すりゃ そうだけど

肉体があるオレらと、“時間” が違うなら

過去に転生しても おかしくないぜ。

ちょっとズレたとかな」って

難しくなりそうなことを言い出す。


「そうか、魂が肉体とは違って不滅だとすると

ニーチェの永劫回帰に沿わせるとしたら

超人的な意思によれば... 」とか、ジェイドも

ますますになってきて

「そうだ。時間というのは 一本の紐じゃあない。

三世は重なり、同時に在るのだからな」とか

ボティスまでノッてきちまって、あげくハティが

「予測というものは、未来の情報を受け取ることで、いくつかの重なった状態を為す」って

量子もつれ? とか なんとかの話まで出してきた。


「こういったものは分野を分けて考えるのではなく、聖書のように総合して見て考えることだ。

魂が血肉を得た場合に、魂を “情報” として捉えるのであれば... 」とか、シェムハザが言った辺りで

「クライシは 赤ちゃんに転生したってことー?」って、過去現在の話から、強引に話を戻してみた。

だって、オレと泰河は 話 わかんねーしー。

とにかく 過去に転生する可能性もあるだろ って 話らしいけど、それだけでいいしさぁ。


“邪魔すんなよ” って 眼で見られたけど

「いや、そもそもクライシの話じゃん!」って

誰にともなく言ったら

「セミナーまで、あと 二日あるだろ」

「退屈だったのか?」

「だが、最初から説明するのは 手間だな」

「いや残念だが、説明したところで... 」

「もう良い。ワイン」って言うし。


グラス出すと、泰河がコルク抜いて

ハティたちに ワイン注ぎながら

「で、喋る赤ちゃんがクライシだってことか?」って 泰河も聞く。


闇おばさんが 朋樹に話した内容によると

闇おばさんの妹の赤ちゃんが

突然、ヨハネの黙示録らしきことを語り出したらしい。赤ちゃんが黙示録は ビビるよなー。


で、語ったあとに『私は印の天使だ』って言って

『クライシと呼べ』って。

ここから、おばさんの姪がクライシ様になった。


朋樹が『姪子めいごさんは、それから 毎日24時間

ずっとクライシ様なんですか?』って 聞くと

クライシの時間は短くて、大抵の時間は 普通の赤ちゃんらしい。良かったし。

だって、オムツとかしてるだろうしさぁ。

換える方も換えづらいじゃん。


『クライシ様に祈り、クライシ様に選ばれることで、救いの印が付くのです。

もうすでに、救われた者もいます。

次世界じせかいを約束された者です。

セミナーで ご紹介することになるでしょう』と

闇おばさんは、満面の笑みだった。


『訪れる不幸のことを思うと、怖いでしょうね。

ですが 大丈夫です。私たちには、クライシ様が ついているのですから』って 言ってたけど

まあ、目の前で自分の姪っ子が語ったんだし

信じちまうのは、わからなくもないよな。

赤ちゃんが黙示録 って時点で、もう奇跡だしさぁ。


『クライシ様は、あなたにも救いの印を付けられたんですか?』って 朋樹が聞くと

『私共 伝導者には、まだまだ たくさんの人に

この事を伝え、救いに導く使命があります。

人々を導いた後に、印をたまわることになっています』ってことだ。


じゃあ救いの印は、人を勧誘する間は付けられない ってことだよな?

だから、そりゃもちろん

“印を付けるとまゆになる... つまり寄生” って

推測中なんだぜ。


「だから “黒蟲の蔵石” とは、まだ はっきりとはしてないだろ? セミナーで見るまではな。

それとだ。転生という可能性も考慮はするが、その赤子が蔵石だった場合、第一に疑うことは 何だ?」


「えっ、どういうことだよー?」


今、転生の話してたじゃん。


「僕は “もし” 転生だとしたら、と 言ったんだ。

まず疑うことがあるじゃないか」って

ジェイドも言うけど、何だよ?


「憑依だ!」


オレの隣で泰河が言うと

「そう。まず それだよな」って 朋樹が答える。

あっ...  そっかぁ...


「ちょっと、でもマジかよー!

赤ちゃんに憑依ってさぁ、祓いづらくね?」


また言ったら「だからだろう」って

シェムハザが言う。


「なかなか近寄れん。赤子を誘拐する訳にも

いかんからな。保身のためだろう。

また、大人より神秘性が出る」


えー、汚ぇよなぁ...


「どうするんだよ?」


「まず見る ということになる。

喋るのも嘘で、単なる赤子か

喋るのであれば、憑依か 転生か。

繭が偽物か本物か。本物なら寄生の方法もだ」


憑依か転生かは、シェムハザか朋樹が視れば わかるんだよな。

肉体が人間のものなら、何か憑いてるかどうかが

わかるから。

オレも眼とか見れば、ある程度は わかるんだけどー。

あ、ゾイの時みたいに 天使が憑くと わからないんだけどさぁ。

天使は 人間や悪魔より上位の存在だから、魂も隠してしまえるらしい。


「その後、やり方も考えることになるだろ。

とにかくセミナーで見てからだ」


「そういうことだ。

お前たちは、カウンターで飲んでいたら どうだ?

さっきの転生についての話だが... 」


うわっ、オレと泰河 はぶかれたぜ!




********




省かれて部屋のカウンターとかで飲むかよ! って

二人で出てやったんだぜ。


もう、言われる前に

『なんかあったら呼ぶし!』『ゾイをな!』って

言ってやったぜー!


「どこ行くー?」

「別に、遊ぶ気はしねぇよなぁ」


そー。そんな飲みたくもねーしさぁ。


バイクも置いて来たし

とりあえず 二人で ふらふら歩く。


召喚部屋は、駅近くの賑やかな場所にあるんだけど、夜すること っていってもさぁ、時間も時間だし、クラブとかバーで飲む、カラオケ、ゲーセン

今はカジノもあるけど、負けに行くよーなもんだしよー。 まだ行くのも つれぇしな。


「最近、仕事も暇だもんな」

「な。クライシ様調査が仕事 ってや 仕事なんだけどさぁ」


「結構 肌寒くなってきたよなー」

「もう昼も 軽い上着いるしな」って どうでもいいこと話しながら、コンビニでカップのコーヒー買って、大通りを外れて 路地に入る。


静かだし

「おまえさぁ、シュリちゃん どうなんだよ?」って 聞いてみたら、泰河は、コーヒーカップと逆の指を 顎ヒゲにやって

「また それかよ。だから、いい子なんじゃねぇの? ツレなら おもしろい って言ってんだろ」って

答えた。


「あのさ、オレも ジェイドもさぁ

リラのこと思い出したじゃん」


「... おう」


「でさ、シュリちゃんも思い出したんなら

おまえが その話とか、聞いてやってくんねーかな とか 思ったんだけどー」


ずっと歩いてるのも何だし、通りかかった公園に入る。夜遅い時間に 車の通り少ないとこで喋ってると、声響くし。

男 二人で公園って何だよ って思うけどさぁ。


しかも、ここ

リラやシュリちゃんと入った公園じゃねーか...

失敗したぜ。


ベンチにはカップルとかいたし

「邪魔になるよな」って、遊歩道を歩く。

カフェとかでも良かったけど、カフェだと たぶん

こういう話はしない。


「... 一回さ、クレープ食った時は 聞いたよ。

今は、話したきゃ話すだろうしよ」


「けど、会ったりとかしてねぇじゃん」


こーやって四六時中、一緒にいるし

泰河はシュリちゃんと、連絡とかも取ってなく見える。


「こないだ、演奏 聞きに行ったじゃねぇか」


そーだけどよー。


「泰河じゃねーとさぁ、シュリちゃん

リラの話 出来ねぇじゃん。ツレだったんだから

つらい時もあると思うしさぁ」


「わかった。こっちからも連絡はしてみる... 」


オレに答えながら、泰河が立ち止まった。


「あれ、人か?」って、指差す方向

今 歩いてる遊歩道の先にある、小さい森みたいな

木々の下に、うずくまった人くらいの大きさの

何かが見え隠れする。


「人、かな... ?」


ちらちら見えるんだけど、何してんだろ?


大きさ的には、座った人だ。

なんで、人かどうか迷ったか っていうと

ぼんやり白く光って見えるからだ。

でも、霊じゃない。実体として そこにいる。


「ゾイ 喚ぶ?」

「もうちょい近付こうぜ」


なんとなく、靴音とかにも気をつけながら

遊歩道を進む。


「おい」って、泰河が

その何かがいる木の上を指差した。

白くて でかい何か。 ... 繭、か?


「じゃあ、あれって... 」


繭からかえった何か なのか?


「とにかくさ、見えるとこまで行こうぜ」


ぼんやり白く光るものには、頭や背中が分かれていなく見えた。

何かにくるまって、もぞもぞ動いてる感じだ。


そいつが見える場所に立ち止まって

泰河と眼を合わせた。


それは、羽だった。

背中から生えた蝶のような羽が、頭から身体を

包むように張り付いている。


「ゾイ、シェムハザ」


喚ぶと、二人は すぐに来た。

もぞもぞと蠢き動く それに近付いて行く。


「羽化に失敗したようだ」と、シェムハザが言い

ゾイが、膜のように張り付いている 白い羽に触れると、羽はゾイの手が触れた部分から乾燥して縮まり、破れて地面に落ちる。


後には、蝋のように白く細いミイラが残った。




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