13


「また、なんかわかんねぇ話だよなー」


「な。つまんねぇよな」


公園近くの自販の前で、炭酸とか飲む。

昼間は まだ暑いんだよなぁ。


榊とリラは、ベンチに座って話してて

一応、東屋みてぇに屋根あるとこにいるけど

これから仕事なら、汗かいてたら悪いかなとか

思う。


「おまえさ、あの子 どうすんだよ?」とか

泰河が聞く。


「何が? どうもしねーし」


「けど、天のヤツに見えねぇって

ちょっと注意しとかねぇとだろ」


そうかもなぁ...

けど、店に行くってくらいしか

注意する方法もねーし

ちょくちょくシェムハザが行ってくれんのが

一番いいんだよなー。


そう言ってみたら

「あの子、おまえ好きだろ」って返ってくるし

オレは、こないだリラに 公園で話したことを

泰河にも話すことになるしよー。

あぶねーし、余裕ねーし、って。


「それだよなぁ... 」って、泰河は ため息つく。

「コイとかどころじゃねぇもんな。

このまま出会わねぇに限るよな」


「泰河、おまえ

セミロングの子はどうなんだよ?

シュリちゃんだっけ?」


「かわいいけど、ツレなら おもしろいんじゃねぇの? ツレでも危ねぇけど」


ふうん。普通の顔だ。

まったく意識せず って感じか。


「沙耶ちゃんのことがあってからさ

もう、なんか怖ぇんだよな」


そう。それなんだよな。

沙耶さんは、近くにいる ってだけなのに

黒蟲にやられたし。

沙耶さんの霊視力狙いでもあったんだろうけど。


「榊くらい、自衛が出来るなら まだな...

里にいれば安全だし」


「そうだよなぁ。

朋樹もヒスイで良かったよな。遠いし」


「けどさ、最初は そんなことまで

考えてなかったみたいなんだよな。

逆に、遠いのが気になるとこだったみたいでさ。

やっぱり近くより会いづれぇし。

けど 沙耶さんのことと、榊の潜入のことがあってからは、今の状態で良かった って思うみたいだぜ。近くにいたら、仕事どころじゃねぇしさ」


榊も蟲入れられて潜入したしな。

ボティスも近くにいて、月夜見の加護もあったのに。ボティスは呪力と引き換えに護ったけど

オレらじゃ どうしたってムリだ。


「だいたいオレら、彼氏ボティスいるもんなー」

「金かかるしな」って、話しに落ち着いて

人数分の飲み物 買って 公園に戻る。


あいつら まだ、天使がどーの って話してるし。

ゾイは ちょっと嬉しそうだ。


「飲めよー」って 缶 渡し終わったら

急に、榊 引っ張って 立たせて

抱き締めたりすることになった。ボティスだ。


榊も「むっ」とは言ったけど

もうオレも榊も、ボティスだって わかってるから

かなり余裕ある。


「おっ」「彼氏ボティスか」って

見てる方も、もう放ったらかしだし

オレらも「来やがったなー」「ふむ」って。


榊って小っちぇから、頭が 胸んとこなんだよな。

今、喜んでるの わかる。


... あ。


なんか ちょっと、ボティスが見えた。


白い机みたいなやつの前に座って

大量の皮紙にサインしてたみたいだ。仕事か?


右手にペン持ったままだけど

左手を、自分の天衣の胸に宛ててやがる。

榊の頭の位置だ。


「見えた?」って、榊に聞いたら

「ふむ... 会いたくある... 」とか言うしよー。


急に会いたくなったり、いとおしくなったり

するもんだよなぁ。

今 あいつが、そうなったんだろうし。


まだ暑い間に、帰って来ねぇかな。

夏の匂いが すっかりなくなっちまう前にさぁ。


「そうだな。会いてぇな」って答えたら

腕が解けて、榊が オレを見上げて笑った。


「なんだよー、もう終わっちまったぜー。

オレ もっと抱っこしてたかったのにさぁ」


「何を言うておるのじゃ」って言いながら

榊は、自分の胸に 左手 宛ててみてる。

かわいいよなぁ。


「今、ボティス見えてさぁ」って

泰河に話そうとしたら、泰河は “あっ” て顔で

ベンチの方見てて、リラが泣いてた。



「違うんだよ、リラちゃん。

今のは、ルカじゃなくてな

バラキエルが ルカに降りたんだ」


「そう、榊と離れてるから。

僕や朋樹だと、主や日本神の加護が強い。

仕えてるからね。泰河には、何も憑かないんだ。

だからルカなんだよ」


朋樹とジェイドが慰めようとしてるけど

これ、必要あるのかよ?


「あいつ、別にさぁ

憑いたり降りたりしてないんだぜー。

“感覚だけ借りる” って言ってたしよー」


「ルカ」って 泰河に 小突かれる。


「なんだよ? 別に、オレの女でも何でもないのに

泣かれたってさぁ。知らねーし」


「黙られよ!」


ええっ? 榊が怒るのかよ?


「おまえ、抱っこされてて怒るのかよ?」


「むっ... 」


榊は、ふいっと リラの方に向き直って

人化けを解いた。

泣くの止まって、すげぇ驚いてるし。


「すまぬ、リラよ。お前の気持ちを知っておるのに、傷付けることとなった。

儂は狐じゃ。この姿でおれば まだ良かったものを。だがルカも、あのように儂に腕を巻きたい訳ではないのじゃ。

ボティスがルカの身を借りておるだけでのう」


「そう。オレらも知ってるんだ。

バラキエルには、もう控えるように言っておくよ」


「ルカと榊の間には、本当に何もないんだ」


オレを無視して

なんか、リラがオレの女風に話が進む。


「ちょっとさぁ、カンチガイ増長させることは

やめねぇ?

ボティスの天使名を思い出してくれたことは感謝してるし、天使に見えねぇのは気になるけど

それだけなんだしさぁ。

いちいちこんなことしてたらさぁ、ジェイドとか朋樹とか どうなるんだよ?

オレ別に、そいつに気も何もねぇって... 」


ちゃんと言っておこうとしてたら

「ルカ ちょっと来い」って

泰河に 肩に腕回されて その場から離されるしさぁ。


「おまえ、言い過ぎだろ。

相手は おまえのこと、好きなんだぜ」


「だから余計、言っとかないとだろ?」


「言い方ってあるだろ。

好きじゃなきゃ、泣かしていいのかよ?」


「オレ、泣かしてなくね?!」


「けど、傷ついてるのに 上塗りするこたねぇだろ。実際、榊とは 何もねぇじゃねぇか。

それにさ、ジェイドも朋樹も

好きって言ってくれる子、わざわざ泣かしたりしねぇよ」


「えっ、泰河なのに 正しい気ぃするんだけどー」


「だろ? “言い過ぎて ごめん” って謝れよ。

店の子 泣かしたって言ったら

たぶん、シェムハザにキレられるしさ」


それはマズイよなぁ...

スーツ仕立てて、ついてきてくれてんだし。


「じゃ、オレ謝るぜー」って、ベンチ戻ったら

リラは 結構 落ち着いてて

朋樹が「仕事入った」って言う。


「おう、オレ言い過ぎたし、ごめんな。

で、仕事って? あれ? ゾイはー?」って

謝ってから聞いたのに

ジェイドに「おまえ、ふざけてるのか?」って

キレられるし。


「ゾイは先に 沙耶ちゃんの店に帰った。

仕事は、オレと泰河で足りるから

ジェイドは榊と戻ってくれ。

ルカ。おまえは、リラちゃんと話してから帰って来いな。ジェイドん家だ」


「はあ? アシねぇんだけど!」


バス、仕事で使うから

ジェイドと榊も電車だしな」


朋樹が てきぱき言って

オレ、置いてかれたんだよなぁ。



しょーがねぇし、ベンチ座ったら

「... 怒ってる?」とか 怖々 聞いてくる。


「怒ってねーしぃ。おまえ、仕事じゃねぇの?」


「今日、日曜日だから」


休みか。カジノもかな?

だったら、日曜は召喚 出来ねぇよなー。


「あのね」って言うから

なんだよ って見る。


「泣いたりとか、するつもり なかったんだけど

なんか、泣いちゃってて...

ルカくん、榊さんのこと

すごく優しく抱っこしてたから

好き なんだな、って... 」


で、「ごめんね」とか言うしよー。


「だから あれは、バラキエルなんだよ。

オレの抱っこじゃねぇのー。

オレ、あんな抱っこしねぇし」


あいつさぁ、マジで 榊 好きなんだよな。

すげぇ大切なのわかる。腕で。


もう、リラも黙ってるし

「マジで ごめんな。言い過ぎたし」って謝って

「行くか」って、ベンチ立つ。


「あっ、うん... 」


泣く前に渡した飲み物、まだ開けずに持ってんだよな。炭酸だし、ぬるいだろ もう。


「飲まねーの?」って言ったら

「買ってもらったから」とかだしさぁ。

なんだよ こいつは。


「それ買ったの、泰河だぜ」って

缶 取り上げて、一気飲みしてやったぜ。ぬるい。


公園の入り口のゴミ入れに、缶 棄てて

「で、おまえさぁ、どこ行きたいんだよ?

映画? カラオケ?」って聞いたら

やっと笑いやがったぜ。

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