12


翌日。


四人で昼飯食いに、沙耶さんの店行く。


一回 沙耶さんがキレちまってから

バラバラに行ったりして自粛してたんだけど

一日中 みんなで入り浸ったりしなけりゃ

怒らせないっぽい。

まぁ、ちょっと ひどかったもんなぁ。

トイレ行く時まで気にしてたし。


けど、行かなきゃ行かないで

沙耶さんの方から

『ご飯、ちゃんと食べてるの?』って

連絡くれたりとかする。オレら、沙耶さん すきー。姉ちゃん出来たみてぇ。


また “じょしかい” って言って

榊と浅黄もいたし

「オレら 飯 食うから、退け」って

カウンターの後ろのテーブルに行かせたら

「ぬう、何じゃ!」って怒ってやがる。

すっかり大丈夫みたいだ。


で、こないだ買った 土産 渡したら

すげぇ喜んでさぁ

「ボティスが戻りし時に着たら どうであろう?」

とか、言ったりして。もう。かわいくね?

めずらしくジェイドが「狐に」って言って

抱っこしてやがった。


浅黄も「良いのか?!」って、すぐ着てて。

普段、黒ばっか着てるから

グレーにしてみたんだよな。キレイ目シャツ。

何 着ても 似合いやがるんだぜ。


カウンターに並んで、たぶん 榊リクエストの

魚の煮付け食って、コーヒー もらってる時に

沙耶さんとゾイにも 土産 渡したら

驚いてたけど、喜んでくれてさぁ。


「私まで?」って、ゾイが言うけど

考えてみりゃ、ゾイが 一番 必要なはずだ。


「おまえ、今まで どうしてたの?」って聞いたら

「朋樹がくれた」って言う。


「ああ、もう着ねぇやつな」とか

朋樹は やたら何でもない顔して言ってるけど

“何も突っ込むなよ” って感じだ。

今日 着てるのもブランドもんだし

キレイ目なカッコしてんな って、思ってはいたけど、ごっそりあげてたみたいだ。


「一応、オレの式鬼だしな」って

誰にも何も言われてねぇのに、言い訳して

泰河が隣で ニヤケてやがる。


「だけど、本当は

女性らしい格好がしたいんじゃないのか?」って

オレらが聞きづらいことを

狐おんぶしたジェイドが、神父っぽい顔で聞く。

たまに神父スイッチ入るんだよなー。


「どうかなぁ... 元は女性だけど

身体に準じてきた気がする」って言うし

ちょっと 顔 見ちまう。


沙耶さんと、暮らしてたよな... ?

朋樹も微妙な顔になったぜ。


沙耶さんは

「まあ、かわいい! ありがとう!」って

オリーブのワンピースと紺のバッグ 見てて

特に、ゾイの変化は 気にしてなく見える。


「これを選んでくれた子って... 」と

沙耶さんは、オレと泰河を見た。


「ああ、それなんだけどさぁ」って

いきさつ話してたら、榊も ふむふむって

ジェイドの頭に、揃えた前足 乗せて 話 聞いてて

はたっと話しやめた。


ボティス召喚したって、言えなくね... ?


そしたらさぁ「知っておる」って言うし。


「なんで?!」って 聞いたら

「沙耶夏が霊視にて視た」って 言っててさぁ。


「だが、儂は戻るまで待つ。

帰ると約束した故」って、狐で嬉しそうにしてやがんの。信じきってるんだよな。

「仕事の話などであろう?

待つ間に、想いが募るのも良い」ってさ。

オレが抱っこしたぜ、もう。


「あ、それでさ。服選んでくれた子の 一人が

天使には見えない女の子なんだよ。

ゾイ、おまえ会ってみてくれよ」って

榊に感心気味だった 朋樹が言うと

「でも... 」って、ゾイが 沙耶さんを見る。


「いってらっしゃいよ」って 沙耶さんは笑うけど

ゾイの方が、沙耶さんが心配っぽい。


「マルコ」って、ジェイドが呼んで

浅黄も「俺もおる故」って言ったら

「じゃあ、行ってくるね」って

ゾイが カウンターから出てきた。


そしたら、榊が「儂も行こう」って言うし。


「待ってるわね」って、沙耶さんが笑う。

オレらが店に 一日いるのは疲れるみたいなんだけど、こいつらは いいみたいなんだよなー。

何かが違うっぽいぜー。




********




昨日、カジノから帰る時に

コンパクト... リラを、ゾイに会わせるか って

話になってたから

『一回 飯 食ったカフェに来いよ。15時』って

呼んでおいた。


『オレら 彼氏ボティスの指輪、取置きしてくるから』って

泰河と朋樹、ゾイとも離れて

ジェイドと榊と、カフェに入る。


かわいらしいカフェに

オレらが ぞろぞろ入るのもな... ってなって

こないだの公園に連れて来いって言うし

リラは奥のテーブルにいて、手ぇ振って来たから

オレらも座って、榊のパフェ取って

オレとジェイドは アイスコーヒー。


「また会えて 嬉しい」とか笑ってるけど

リラの隣に座った榊が、じっと見てる。


「ふむ。リラとやら、儂は 榊と申す」って

握手して。

まあ、ちょっと 面食らうよなー。儂 だしさぁ。

パフェ届いても、食いながら やたら見てるし。


「榊」って、ジェイドに言われて

やっと「むっ? ふむ、すまぬ」って

見るのやめて、パフェに集中し出したけど

ちらっとオレを見た。


「“リラ” って、漢字あるの?」って

ジェイドが穏やかに聞く。


リラって、ライラックの花だよな?

フランス語で リラ。英語で ライラック。


「ううん。カタカナ。

おばあちゃんが、フランスだから」


ふうん。クォーターかぁ。


オレらが コーヒー飲むより早く

パフェ食い終わった榊が

「少しで良い故」と、ジェイドのコーヒー飲んで

リラに「何やら、海の香がするのう」とか

謎の言葉を言う。


「儂は、初めて海に行ったものであるが

最初の海の香に似ておる。はて?」って

首 傾げ出した。


リラは、なんか女の子がつけそーな

甘い匂いの香水つけてるし

オレとジェイドは、はぁ? って感じ。


リラ自身も「実家は海に近いけど... 」って

戸惑って見える。


「おまえ、ちょっと嗅がせろよ」って

テーブル乗り出したら

「えっ、なんか やだぁ」って壁に逃げるしよー。


わかんねぇし、まぁいいか って

カフェ出て 公園に向かうことにした。



なんか今日、人 多いから

ジェイドが榊と手を繋いで歩く。

こういう店多い通りだと、たまに榊って

フラフラ店に入ったりして はぐれちまうし。


「また話などの時間はあろうか?」って

ジェイド見上げて聞く榊に


「もちろん。恋人のピアスバカは、今

天使だからね。もう少し耐性をつけておこう」とか、なんか優しい顔して言う。


「... 榊さんて、バラキエルの恋人なの?」って

リラが小声で聞くから「そ」って答えたら

「うん、きれいな人だもんね」って言って

「おお? ん、まぁな」ってなっちまったぜ。


きれい...  うん、榊は美人だけど

なんかこう、オレらん中では違うんだよなぁ。


で、なんか見てるし「ん?」って聞いたら

「手、繋いじゃダメ?」とか聞くから

「だめー」って言ってやったぜー。


「きらい?」とか聞くしさぁ。

「だから、そうじゃねーって」って答えても

ボブ頭で俯くしよー。


榊が振り向いて、にやって笑って

「儂とは繋ぐこともあろうに、何故?」とか

聞いてきやがってさぁ。


「おまえは、オレらの彼氏の女だし。

あいつも おまえも、みんなのものなんだぜ」


「ルカよ。リラを女と意識しておろうか?」


うわっ! 聞いた?!

こいつ、こないだまで

自分が全くわかってなかったくせに

生意気じゃね?!


「もう、してるしてるー。

オレの女とかカンチガイされたら

狙われたりすんじゃねー?」って言ったら

「むっ! 儂が共に歩く!」って

ジェイドの手離して、オレとリラの間入ってさぁ

リラの手、繋ぎやがんの。

榊でもオレらと 一緒と思うけど

まあ言わないどく。


「リラよ。お前は、ルカを好いておろうか?」


「えっ? あの、かっこいいなぁって... 」


笑い堪えてるジェイドの隣に並ぶ。

榊、いきなり恋達者な姉さん風だし

かなわんよなぁ。まったくよー。


「ふむ。儂は、他人ひとの事ならば わかるのだが

最近まで、好ましく想うておる自身の心すら

わからぬであった。

今は会えぬが、恋しくあるのがわかるのじゃ。

お前は、自身を わかっておるのじゃのう。

素晴らしきことよ」


かわいくね? って、ジェイドと眼が合う。

素直なだけかよ。もっと かなわんよなぁ...


公園に着く頃には、女子 二人

すっかり仲良くなってるしさぁ。

泰河たちは、入ってすぐのベンチのとこ いたけど

榊とリラが手ぇ繋いでても

特に疑問はないっぽい。榊だし って感じ。


「よう」とか言って、近づいたら

「かわいい人だね。こんにちは」って

ゾイが言った。


しっかりリラの方見てるし、見えてるな...


「どういうことだ?」


「身体が悪魔だからか?

朋樹の血も混ざってるだろ?」


「天にいる天使には見えない、ってことも

考えられる」


オレらが、答え出ないこと話してたら

ゾイが「私は、天使の能力が残っていても

天にはもう、天使とは見なされていない」って

言った。


「サリエルが成り代わった “ファシエル” が

堕天したから。天使としては存在していない」


「あのさぁ、じゃあ あの時

ファシエルは、二人いた ってことー?」って

ちょっと口 挟んでみる。


ゾイになった ファシエルと

サリエルが成り代わった ファシエル。


「いいや。ゾイになった時点で

私... ファシエル自身は存在しない。

知ってるだろうけど、ゾイ... 悪魔の身体と

結びついたからね。受肉したんだ。

でも、天には まだ籍がある。留守扱いだね。

籍がある内に、サリエルが成り代わった。

堕天してやっと、籍がないものとされる。

今はもうファシエルには、天に籍はない。

上級天使だと 固有の能力があるから

能力と名は、天に残るよ。

私は下級天使だったから、何も残ってない」


ふうん、なるほどなぁ。

半分くらい わかったぜー。


流されない朋樹が、話を元に戻す。


「そうか。じゃあ、天使かどうか じゃなくて

“天に 天使と見なされるヤツ” には

リラちゃんは見えない ってことか」


うん。オレも泰河も

だから何なんだよ って感じ。


「それは何故か、って考えれば

答えに近づいていくだろ?

実際は天使だとしても、堕天扱いなら別ってことだし、人間や悪魔にも普通に見える。

もし、糸引いてるヤツがいたとしたら

“天に隠している” ってことにならないか?」


そっかぁ。

けどなんで、人を天から隠すんだろ?


「天の者がやっている恐れが高いね。

人間は守護対象なのに、それを天に隠すなんて

許されることではないけど

悪魔や人間が、これをするのは難しいと思う。

バラキエルやアリエルに見えないのなら

簡単な天使避けじゃないってことになる。

“何故か” っていう、理由はわからないけどね」


ゾイって、朋樹とかジェイドの話に

ついてけるんだよなぁ。

元天使だし、当たり前かもだけど。


「すげぇね、おまえ」って、ゾイに言ったら

「ハティと学習して “考えるのは大切” って

言われたから」って、なんか嬉しそうだけど

オレは、肉じゃがのことには触れないんだぜ。


「けど、シェムハザの城なら

教会以外は天使も覗けねぇよな?」って

泰河が言うと

「あれは、結界みたいなもんだ」って

朋樹に あっさり返された。


「リラちゃんは、天の天使にのみ限定して

隠されてる。

結界とも神隠しとも違う ってことだろう」


ジェイドも言って、朋樹もゾイも頷くけど

オレも泰河も あんまりわかんねーから

もう、大人しくしとくことにするし

ちょっと 二人で、自販 行くことにした。



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