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「映画がいい」って言うから 映画見て

飯は「隣がいい」って言うから

テーブル席で、並んで食う。


「楽しい」

「おう」


にこにこしやがってよー。

あんまり見ねーどこ っかな。


「あとね、嬉しい」

「おう」


くそう。オレ照れねぇし!

食うんだぜ とりあえず。


「食べるの、早いね」

「おまえが遅いんじゃね?」

「じゃあ、がんばって食べるね」

「いや、ゆっくり食えよ」


言うこととかさぁ、返答が いちいち

かわ...  いや なんでもない。


「おいしいね」

「かわいいな、おまえ」


あっ 言っちまった。


フリーズしてやがるけど

オレ、なんか ヤバくね?


「嬉しい... 」


ヤバい。かわいいぜ、こいつ。


飯 食ったし「飲み行くー?」って聞いたら

酒 飲めねーって言う。

ついでに、炭酸 飲めねーし

コーヒーはブラック飲めねー。

何 飲んで生きてんだよ、こいつは。


「おまえ、酒 飲めねぇと

仕事キツくね?」


「大丈夫。同席とか、私 あんまりないし

お酒のグラスにも、“口 付けるだけでいい” って」


ふうん。触られねぇし、営業禁止だし

バイトしやすいかもしれんよなー。

店ん中の子も、プロダンサー志望か

普通の子のバイト って感じした。

けど、下着なんだよなー。

もしリンがバイトしたら許さんよなー。絶対。


とりあえず店 出て「じゃ カフェ?」つったら

「ちょっと 歩きたい。いい?」とか言うから

ま、歩く。けど あんまり良くない。

誰が っていうか、何が見てるか わからんしな。


電車まだあるし、今 帰すのもなぁ...


「河川敷 散歩するー?」って、タクシー乗る。

バイクで良く来るとこ。

店 入りたくなったら、カフェあるし。

ボティスが人間になった時に 一緒に飯食ったんだよな。 胡蝶と富士夫を、ちょっと想う。


「手、繋いじゃ ダメ?」


「おまえ、それ こだわるよなー」


「うん... 」


で、手ぇ小せぇし。指 細い。

まぁ、でも だいたい こんなもんか。

笑ってやがるしよ。


「かわいいよな」


また言ったぜ オレ。やばくね?

クチが先に出るんよなぁ。


けど、こっからは気を引き締めるべきだな。


「どんな映画すき?」「古いやつ」

「音楽は?」「古いやつ」とか話して

河の方に降りる。犬の散歩してる人とか

走ってる人とか ちらほら。


泰河と朋樹、もう仕事 終わったかもな。

ジェイドは榊に話か、榊が里に帰ってるか。

もうそろそろ、シェムハザ来る時間だよな。


河のすぐそばまで歩いたことに

川音で気付いた。呆けてたぜ ちょっと。


「おまえ、サンダルだし

あんまり歩くと 疲れるんじゃね?

帰りもタクで送るし、そろそろ... 」


「あのね、すき なんだけど」


「知ってるけどな。だから、話したじゃねーか」


「うん... 」


「また 店 行くしよー」


なかなかいい客だよな、オレ。

今 “なかなか” って考えたよな。


まぁ、彼氏ボティス戻ったら

もう店にも行かねーんだけど。

いや、シェムハザは

“あと 二度程” って言ってたよなー。

100ずつとか、次は たぶん 背中 痛くなるしよ。


「... なって」


「は?」


ちょっと黙ってると思ったら

謎発言なんだぜ。


立ち止まるし、顔見る。

街灯 遠いし、あんまり見えねーんだけど。


「すきに、なって」


それ、頼むことなのかよ。ちょっと笑う。


「なんだ おまえ」


見上げてきたしさぁ

眼ぇ見たら、急に ガッて なんかが上がってきた。


手ぇ離して、両肩掴んで しゃがませて

草の丈高いし。隠れてキスする。

頭 しんどそうだし、うなじに 片手 回して支えて。


「... よし。帰るか、送るぜー」


引っ張り起こして、膝についた草 はたいてやる。子供かよって感じだよなぁ。こいつ。




********




「だから、謝ったって言ってんだろー?」


「ちゃんと謝ったのかよ、って 聞いてんだよ」


泰河、なんか ムッとしてやがる。

リラ送って、そのままジェイドん家。


榊は、ジェイドの聖書の話を教会で聞いて

今は 一度、浅黄と里に帰ってて

泰河と朋樹は、“口裂け女が 三人出た” って

ボティス臭する仕事を終えて来たらしい。

あいつ、指輪 欲しいんだろうな。


もうシェムハザも来てて、ワイン飲んでるとこ。

今日は泰河が、オレの隣の床にいる。


「恋の話か?」と、シェムハザが グラス傾ける。

相変わらずの男性美にクラクラするぜー。


「そう。こいつ、女の子 泣かしてさ」

「泣かしてねぇし! ボティスだしよー」


泰河とオレが話したら、がちゃがちゃするから

ジェイドと朋樹が軽く説明してるし。

何の話だよ? いらんくね?


“天に天使と見なされてるヤツには

リラは見えない” って話は、もうしたらしいけど

シェムハザにも、それは何故か ってのは

わからないみたいだった。


「... ほう。榊にまで気を使わせたのか」


ソファーの隣に座る朋樹にワイン注がれながら

シェムハザがグリーンの眼をオレに向ける。


「けど それさぁ、オレ 悪くなくね?」


オレだってワイン がぶ飲みするし。

なんでまた責められんだよ。


「フォロー次第では、罪だな」


隣からジェイドが言うし。

アッシュブロンドの髪の下の 薄いブラウンの眼で

“話してみろ” って 言ってるしさぁ。


「ちゃんと “悪かった” って言って

映画 行って、飯 食ったし。

で、酒飲めねーって言うから、河川敷 散歩して

あっ! オレ、ちゅーしちまったんだけど!

結構 本気のやつ!」


「ああん?!」って 泰河が隣で、眉をしかめる。


「やっぱ、やべーかなぁ?」


「で、今ここにいるのか?」とか 朋樹が聞く。


「いるじゃん。見りゃわかるだろ?

おまえの目の前だぜ 朋樹ぃ!

河川敷から タクで送って来た。

もうあんまり、喋らんかったしよー」


「へぇ。オレ、止まらんかったけどな。

じゃあ、恋とかじゃねぇのかもな」とか

また朋樹が言って

「朋樹。おまえの話は、後でゆっくり

僕が聞いてやるよ」とか

ジェイドに言われてやがんの。兄貴はキツいよなー。


「どうすんだよ、おまえ」って 泰河が言うけど

別に、どうもしねーし。


「遊んじまって いい子じゃねぇぜ」って

気を取り直した 朋樹も言うけど

オレ別に、どうかなる気も遊ぶ気もないんだぜ。


「それなら何故、挨拶程度で済まないキスをするんだ? 僕らは それを聞いてるんだ。

彼女は 真面目そうな子だし

“天使に見えない” ってことでも、また会うこともある子なんだ」とか、ジェイドが聞くし。


「いや なんかさぁ、すげぇかわいかったんだよー。うん、やばかったし。“つい” かな」


「おまえ、いつまで そんなんなんだよ?

つい とかで済むのって、ハタチそこそこだろ。

“付き合えねぇ” って話して、それかよ?」


泰河は 気にいらねぇみたいだけどさぁ

あるじゃん、こういうの。

まあ、相手は見るべきだ とは

オレも思うけどー。 けど、別にさぁ

“オレのこと好きだから 好きにしてやれ” とか

思った訳じゃないしさぁ。

かわいかったんだよ、マジで。


その辺りを説明してみたら

「惚れかけてるじゃないか」とか

ジェイドが あっさり言う。


ん? そうなるのか?


「えっ? マジで? だめじゃね?」


「だから、なんでキスとかしたんだよ って

話してんだろ」


あ そっかぁ そうだよなー...


「何故 ダメなんだ?」とか

黙って 話 聞いてた シェムハザが聞く。


「オレら、シェムハザとかボティスじゃねーし。

沙耶さんのこととか、榊のこととかあったじゃん。アリエルだって狙われたしさぁ」


「一緒にいたら、狙われるだろ?

護る自身とかねぇよ。

自分が死にかけたりするんだぜ?」


オレと泰河が言うと、シェムハザは

「ああ、そういうことか」って

もう完璧に整ったくちびるを緩ませる。


「まったく かわいい奴等だ。

アリエルは、お前達も護ったじゃないか。

沙耶夏とやらや 榊も、皆で助けた。

これからもだ。

護りたい者が増えるのが 何故いけない?

今 俺は、妻と子供達を

ディルや城の者に 任せて来ている。

ボティスは、榊を お前達に預けている。

朋樹には恋人がいるだろう?」


シェムハザに言われて、朋樹が頷く。


「ヒスイと会った時は、まだキュべレ云々の話はなかったし、オレは 遠距離に自信なかった。

ま、ちゃんと好きになった子と 付き合ったこともなかったから、余計に不安が先行したしな。

遠距離の方が狙われにくいから、今は良かったと思うけど、それは結果論だよな。

もし近くにいても、オレは別れんぜ。

おまえら使っても護るしな」


朋樹の話聞いて、ジェイドが

満足気な顔になってやがる。


「また、妻が狙われることがあったら

お前達は、協力を拒むのか?」


「いや、そんな訳ねぇじゃん」

「死ぬ気で護るぜ。出来ることも増えた」


「ならば、心を止めようとなどするな。

人の人生など短い。味気無く生きてどうする?

愛すること以上のものなど無い。

お前達には俺がいる。

ボティスやマルコ、あのハティもだ」


「護るから信用しろ」とか言うし

穏やかなグリーンの眼は本気だ。


泰河も、グラスのワイン見つめながら頷くけど

オレ、やっぱり何か自信ないんだぜ。







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