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「ちょっと 目立ち過ぎるよな... 」


もちろん、シェムハザだ。


しゃがみ込んで、ガチャガチャ見てるだけ だけど

近くを通る人だけでなく

遠くの人も立ち止まって眺めたりしてる。

女だけじゃなく、男も もれなく ってとこが

マジで すげーと思う。


「小さなフィギュアを組み立てるようだな。

精巧だ。いくつか買おう」


「さっきも買ったじゃないか。見る度 買ってたら

キリがないだろう?」


ジェイドが呆れながら言う。


「さっきのは土産も含む。これは俺のだ。

早く札を コインに換えて来い」


シェムハザは、ジェイドに三千円渡した。

うん。早く この場を離れた方がいいな。


六山会議の前に、買い物に出てるんだけど

他に 一緒にいるのは、ボティスと泰河。


ボティスは、オレが悩んで買うよーな

いいお値段の服とかブーツをボコボコ買って

オレと泰河も釣られて買って

泰河の車のトランクは、ショップの袋で埋もれた。

今は、ふらふらしてるとこ。


ハティは地界から戻って来てなくて

朋樹とマルコシアスは、沙耶さんの病院。


沙耶さんは まだ眠っているけど

身体には、特に異常はないって診断されてる。


昨日 遅くに寝たのに、朝 割りと早く起こされて

ジェイドの家に移動した。


ボティスは着くなり、ジェイドに

『洗礼しろ』とか言って、マジで洗礼を受けた。


洗礼 受けよーが、祈ってもらおうが

ボティスは まったく何ともなくて

本当に人間になっちまったんだな って思う。



「あいつ、派手だな」


両替が済んで戻って来たジェイドを見ながら

ボティスが言う。

ジェイドは今日、シェムハザに

半袖のシャツだけにされた。


オトリ作戦だ』


シェムハザが、ボティスなら

魔人を見たらわかるかも って話をして

『ジェイドと泰河をエサに

魔人を誘き寄せる』ってことになって

『目立たねば意味がない』と

ジェイドのパーカーを脱がした。


『僕は神父だ。信徒に見られたら困る』って

だいぶモメたけど

『今日、お前を見た者の記憶は消去する』ってことで、渋々 了承してた。


「けど、あんまり意味ねぇよな。

みんな シェムハザしか見てないぜ」


泰河が、缶コーヒー開けながら言う。

そうなんだよな。

普段なら、ジェイドも かなり見られるんだけど

シェムハザがいると霞む。


スウェットでも輝いていたシェムハザは

こうやって ガチャガチャばっか回してても

やっぱり輝いてるし。


隣にジェイドも しゃがませて

カプセル取り出しては

「これはもう 三つ目だ」とか言って

「ディール」って、城に どんどんカプセルを送る。


「術で、欲しいカプセルを

排出口に回せばいいじゃないか」


「ジェイド。お前は わかっていない」


うん、そうだな。けど 回し過ぎと思うぜ。


「お前と眼が合う奴がいたら、俺に言え」


ボティスが 泰河に言う。


「シェムハザじゃなく

お前やジェイドを見ていたら、そいつは怪しい」


「あっ、そうか!

シェムハザ通り過ぎて、オレってないよな!」


オレも ボティスに感心したけど

泰河の言葉が 何か切ないぜ。


やっと目当てのカプセルが出たシェムハザが

そのカプセルだけは送らずに、手に持って来た。


「さて。そろそろ紅茶の時間だ。

テラスはあるか? 近ければ、歩いて移動する」


テラス。オープンカフェか。


ゲーセン出て、すぐ角にあるカフェの

なるべく道路に面した席を取る。


大通り沿いで、近くに交差点や歩道橋もあるし

ここなら、シェムハザも より目立つ。


「沙耶ちゃんのことも心配だけどさ

猪たち、どうしてんだろうな」


一の山の亥神が 死んで出来た、崖の結界は

まだ閉じられたままみたいだ。


「里に電話してみたけど

玄翁でも破れないらしいぜ」


「えっ...  なら

外側からは無理ってことかよ?」


それだけ強固なら、また黒蟲が来ても安心だけど

結界の中の猪たちは心配だ。


「他の山の 山神も狙われてるしな。

なんか、こうさ

動きようがないと、そわそわするよな」


「だから囮作戦なんだ。焦るな 泰河」


ガチャガチャのカプセル開けて

中身のフィギュアを組み立てながら

シェムハザが言う。

日本の某マンガのサブキャラだ。


「見ろ。細部まで素晴らしい」


手のひらに乗せたフィギュアを

全方向から眺めて 満足すると

「ディル、保管庫の棚に頼む。

さっき送った主役のカプセルは、お前にやろう」って、それも城に送った。


「だが これだけ人がいると

観察しても、見落とすおそれもある。

相手も、じっと見たりはしないだろう?」


コーヒー飲みながらジェイドが言うけど

オレも、それは思う。


そもそも今、泰河やジェイドを

見張ってないかもしれないし

見張るとしても、目立たないようにするだろうし。


「それなら、四秒ずつ やる。動くものを探せ」


「は?」

「なんだよ、シェムハザ」


シェムハザは、紅茶のカップを片手に

道路の方を見ている。

交差点の歩行者用信号が青になって

車が停車した時に、指を鳴らした。


「えっ?」


道路の向こう側から、こっちに渡るはずの人が

立ち止まったままだ。

顔は、シェムハザの方に向いている。


オレらがいるカフェ付近の人たちも

シェムハザに顔を向けたまま、立ち止まっている。


いや、カフェの店員まで...


「... 動くぞ」


急に、立ち止まってた人たちが 動き出した。


「何をしたんだ?」


ジェイドが聞くと、ボティスが

「クギヅケだよ」って 笑って答える。


「こいつは、こいつを見てた奴だけを

四秒 停止させた。

とは言っても、カナシバリなどではない。

見惚れさせたんだよ。時間が止まる程な」


「ダンタリオンの本に載っていた」と

シェムハザが言う。

「あいつは、人に愛を興させる悪魔だったからな。通常なら 一人を釘付けにする術のようだが

多数でもいけるようだ」


ボティスは

「多数に通用するのは、お前だからだろ」と

また笑って

「俺は こいつといると、時々 気絶したくなる」って言う。オレもしたいぜ。


「あまり長く釘付けにしては危険だ。

車を運転している者がいるからな。

だが少し、効果は増幅しよう」


シェムハザが呪文を唱えると

シェムハザの爽やかな甘い匂いが増幅された。


「前から気になってたんだけど、香水?」って

聞いたら「いや、俺の匂いだ」って答えるし

もう、震えるよ オレ。


「おい、これさ

もし見張ってるヤツがいたら

そいつまで釘付けにならねーの?」


泰河が焦って聞く。


「それなら、四秒経っても動かない奴だ。

俺等が移動しない限り、見張りの位置からは

動かないだろうからな」


釘付けのおそれもあるってことかよ...


「恐ろしいヤツだ」って言うジェイドに

すげぇ頷く。


「青になる」と、車が停まると指を鳴らす。


かなりの数の人が立ち止まった。

なんか異様な風景だ。


「いないな... 」


四秒経って動き出すと

今度は オレらもキョロキョロせずに、誰がどこを見るか... っていう、担当を決めることにする。


ボティスとジェイドは歩道

泰河は横断歩道、オレは店内だ。


青になって、釘付けになると

まず、こっち見てんのに動くヤツ を探す。


店の中には いない。


シェムハザ見てるヤツは

みんな、うっとりしてるだけだ。


四秒経つと、今度は動かないヤツを探す。

... 動くよなぁ。

“見惚れちゃってた” って感じで、ハッとしてる。


「... あれは?」と、ジェイドが言う。


「向かいのカフェの窓際の席、一人でいる。

さっきは泰河を見ていた」


男だ。


歳は オレらと変わらんくらい。茶髪。

黒いフレームの眼鏡。


今は、釘付けが解けたらしくて

オレらから注目されてることに驚いている。


「カフェだし、寛いでる客じゃね?」


「いや、あれだ」とボティスが立ち上がる。

男を見て、魔人だとわかったようだ。

「拘束しろ」


地の精霊を呼んで、男の足を拘束すると

異変に気づいたのか 椅子を立ち上がってるけど

そのまま立ち尽くしている。


「車を回しておけ」


泰河とシェムハザが駐車場に向かい

オレらは向かいのカフェへ向かう。


男は オレらが向かって来るのを見て

諦めたように座った。


カフェに着くと、店員に「連れがいる」と言って

男の席に行き、ジェイドが男の隣に座り

ボティスとオレは、男の向かいに座る。


ジーパンのポケットに入れている

左手の甲から落ちた、ボティスのコインが熱を持つ。こいつが一枚、コインを持ってる。


「蟲野郎じゃねぇな。胡蝶の男だ」


ボティスがニヤッと笑う。


「胡蝶を、どうした? あの狐が隠したのか?」


男は、怒りを抑えた声で言った。

知らないのか?

まだ昨日のことではあるけど...


「知りたきゃ話してやるよ。

ただし場所は、ここじゃあない。

お前が喚き出したら困るからな」


男は立ち上がるけど、まだ地の拘束で

その場からは動けない。


「妙な術を解け。お前か?」


こいつ、オレの精霊のことは知らないみたいだ。


ボティスが呪文を唱えると

男は声を詰まらせた。


「やっぱり喚くタイプらしいな。

一時的に声は奪った。両手を出せ」


男は黙ってボティスを睨んでいる。


「ジェイド、祓ってやれ」


ボティスが言うと、男はジェイドに眼を向けた。


「僕は、派手なことは好きじゃないんだけど」と

聖水を男に振り掛ける。

男は眼を剥き、ジェイドから逃れようとするが

窓とジェイドの間で ただ立ち尽くす。


「お前は逃げられん。今、ここで祓われるか

大人しく付いて来るかだ。

混血だろ? 祓われたらどうなる?

地界には入れん。悪魔の血が燃やされるか?」


男は両手をテーブルに出して、椅子に座った。

諦めたらしい。


「いいか? 妙な真似しやがったら

言葉に焼かれて悶え死ぬことになるぜ。

“言葉は光” だ。お前の隣にいる慈悲深い神父サマが、お前のために 主に祈ることになる」


ボティスは座った男を立たせると

ジェイドに、男のスマホや財布を抜かせた。


「預かっといてやる。俺のコインは返せ。

ルカ、拘束を解け。

ジェイド、お前は そいつの肩を支えてやれ」


ジェイドと男を歩かせて

ボティスは「奢ってやる」と

テーブルの会計用紙をオレに渡した。


カフェを出ると「視力もだ」と

またボティスが呪文を唱える。


カフェの前に 泰河の車が停まると

「教会でもてなしてやろう」と言って

ジェイドと男を後部座席に乗せた。




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