23


バイクで、ボティスと オレん家戻ったら

「狭いが、いい家じゃないか」って

シェムハザも来た。

たぶん、オレらを心配してるんだろうけど。


「ベッドは 一つか。不便だ」


だってオレ、普段ひとりだしよー。


「書斎は、ハティの部屋だと聞く」


まぁ最近、半分くらいは

ひとり暮らしじゃない か...


「ディル、シングルベッド二台とソファーを」


「ええっ?! 嘘だろ?!」


部屋はベッドで埋められた。ぎっちぎちだ。


「ひたすら狭いが、これはこれでいい。

ベッドは 三台 並べよう」


指を鳴らして、部屋の奥のベッドスペースに

無理に 二台のベッドを並べると

テーブルの前に 二人掛けソファーも配置する。


「ディル、着替えとアリエル」


「ああん?!」


「嘘だ」


シェムハザは楽しそうだ。


テーブルに、オレらのワインを用意すると

「さて、俺はシャワーでも浴びよう」って

着替えを持って、浴室へ向かった。


ボティスは、ソファーに座るし

言われる前に グラスにワインを注ぐ。


そしたら ワイン飲みながら

「会議は、俺は行かん」とか言うし。

なんでだよ...


「おまえさぁ、こんな時に

わがまま言うなよなー」


亥神、死んだんだぜ?

ボティスも ひとりにしとけねーしよー。


「榊も来るんだろ?」


耳のピアス触りながら言うけど

そりゃ来るだろ。


「なんで いきなり、榊を避けるんだよ?

おまえ、榊 好きなんだろ?」


「榊は多分、俺が呪力を失ったことを 気にする」


あー...  まあ、そりゃあなぁ...


「おまえ自身は気にしてねーのかよ?」


「お前等と同等になるとは。残念だ」


「うわっ、腹立つぜ」


「だが人間は、悪魔より優位だ。

天から見ればな」


「へー だから何だよ。

榊には、おまえが うまいこと言って

気にさせなきゃいーじゃん。

おまえ、クチうまいしさぁ」


でも、ボティスは黙るし。

なんだよもう めんどくせーなぁ。


オレも黙ってやったら

「俺は 女を、口先で誤魔化さん」とか言うし。


もう知らねー、オレ寝よー って思ったら


「ディル、水を」って、シェムハザが戻ってきた。

ディル、大変だよなー。


バスローブでも着てくるのか と思ったら

白いシャツに紺のスウェットだ。普通じゃん。

こんな格好でも眩しいのは 解せんけど。


「榊とやらの話か」って、オレの隣に座って

小麦色のウェーブの髪をタオルで拭く。


「彼女は美しい。心根も美しいことだろう。

明日は “気にするな” と、普通に言えばいい。

それしかないだろう?」


「そーだよ。おまえが榊を避ける方が

余計に 気にすると思うぜ」


ボティスは むっつり黙ったまま ワイン飲んでる。

牙ないと 若く見えるよなー。

いや、何千歳とかなんだろうけどさぁ。


「... あっ!」


「なんだ、ルカ?」


シェムハザが グリーンの眼を向けて

ボティスは “うるせーな” って眼で オレを見た。


「おまえ、魔人まびとじゃん!」


ボティスに言うと、ボティスとシェムハザは

顔を見合わせた。


「確かにそうだ」


「だが、俺は混血ではない。

堕天使系統の悪魔で、人間になっただけだ」


すげー 経歴。


「けど 何か、共通項みたいの無いのかよ?」


「ないな。泰河と白尾もないだろう」


なんだよ、その並びは。


顔に出てたみたいで

「獣人だろ。獣と人の混血」って言う。


「でも、白尾は転生前が 狐と人の混血だけど

泰河は食っただけじゃん」


「だが どういう訳か、混ざっている。

普通は消化して終わりだ。または死ぬか。

獣側の特性なのか、俺が呪力を奪われたように

泰河が 獣から何かを奪ったということも

考えられるがな」


そうだよなー。

何か食って、血肉が造られたって

普通 混血には ならねーよなぁ。

ちょっと変わってるよな、あいつ。


「泰河のことは、まだ わからないことが多いが

ボティス、お前はアリエルと似ている」


似てねーし! オレが眼ぇ剥くと

「転生に於いての話だ」と

ボティスが しらっと言った。


ああ、そういう似てる、な。焦ったぜ。

アリエルの堕天が特殊だった ってことか。


天使のアリエルは、天から大人の姿のまま

地上に堕天した。


天使部分の霊性と、人間部分の霊性に分けて

天使部分は天に帰って

人間部分は、肉体も伴って

シェムハザの奥さんとして 地上にいる。


今のボティスは

悪魔の呪力を抜いた人間 ってことか...

地上のアリエルだ。


「赤子として人間に転生してないからな。

俺もアリエルも、天の審判を通さない

特殊転生ってことだろう。

普通は呪力を失っても、人間にはならん」


「じゃあ、おまえも

呪力を失っただけで、悪魔なんじゃねーの?」


口 挟んだら、違うって言う。


「元々悪魔のキュべレの血縁は違うが

堕天使の悪魔には、見た目の特性があり

人型になっても それは顕れる。

天からの罰みたいなものだ。

俺の場合、角と牙だった。ハティは肌の色」


「シェムハザ、ねぇじゃん」


オレが言うと、シェムハザが シャツを脱いだ。


彫刻みてーな身体してやがるけど

左胸に、なんかの記号が入ってる。


「堕天使の印だ。ディルにも背中に痣がある」


「それだけ?!」


「翼が黒い」


いや人 には翼ねーよ。

けどさぁ、印だけ って 違い過ぎじゃね?


ボティスが「ワイン」って言って

オレに注がせながら、ため息をついた。


「堕ち方にも よるんだよ。

シェムハザは、人間との婚姻だ」


「ボティスは?」


「反逆」


なんとなく納得だけど、ハティも反逆なんかな?

なんか しっくりこない。


「シェムハザの場合は、もう 一つ理由がある。

見てわかるだろ? 美だ」


なんだ その理由...


「父も愛した美しさだ。損えなかった。

シェムハザの改変は冒涜にあたる。

こいつを改変したりすれば、そいつも堕天するだろう」


むちゃくちゃじゃねーか。


「もう止せ ボティス」と

シェムハザは、自分でワインを注ぐ。


「お前は、サリエルの逆恨みも買っていた。

天にいる時から、皇帝ルシフェルが お前を気に入っていたからな」


「ルシファーじゃねぇの?」


「堕天すると 名前からも、神の光が剥奪される」


エル、っていうのが それみたいだ。

神の近くの者を表すらしくて

アリエル、サリエル、ウリエル

ミカエルとか、ラファエル、ガブリエル...

人から天使になった サンダルフォンや

メタトロンは別として

たいてい、みんな “エル” が付く。


皇帝も、ルシフェルから ルシファーに変わった。


「あんまり変わってないじゃん」


「それだけ強大な力を持つってことだ」


「ボティスやシェムハザも、エル付きの名前だったのかよ? ハティも?」


「天使の時はな。まあ、その話はいい」


「そう。とにかくボティスは、皇帝に気に入られてたために、サリエルの逆恨みで

堕天の時は 能力だけでなく、見た目も派手に改変された。人型になっても、地上で普通には暮らせないようにと」


「サリエルは どうしたって、皇帝に気に入られなかったからな。残念な奴だ。

しかもだ、俺は 蛇の悪魔になったが

皇帝は蛇好きだ」


ボティスはケラケラ笑ってる。

初めて見たぜ、こういうとこ。


「ボティスは なんで気に入られてたんだよ?」


「おもしろいから」


なんだよそれ。こいつ、もしかしたら

天使の時は、オレとか泰河と

似たような感じだったんじゃね?

いや、もしくは皇帝が...


「ついでに、シェムハザは美。ハティは賢さだ」


「そのままじゃん」


「ん?」と、シェムハザが

脱いでたシャツ着ながら立ち上がって

キッチンへ行く。


「ワイン、あるんじゃないか」


忘れてた。木箱に入れっぱなしだったワインだ。


「“氷咲”か。ジェイドの家の物と同じだ。

なかなか気に入っている。上品な味だ。

白にしよう」


シェムハザは、指でコルクを弾いて開けた。


「うちの父さんの会社のだよ」


「提携しよう。フランスで売る」


おっ、父さん 喜ぶぜ。


「少し話を戻すが... 」と、シェムハザは

ボティスとアリエルの転生の話に戻した。


「妻、人間のアリエルは

一人の中で、霊性が 二人に分かれた。

だが、天使部分の霊性が 天に戻ったにも関わらず

妻は 朧気に、天使の時の記憶を持っている」


普通、天使が地上に堕天すると

赤ちゃんで生まれて、天使だった時のことは

思い出せなくなる。


天からの使命で降りる時も、人間として地上に立つと、覚えているのは使命だけで

使命を全うして 天に戻るまでの間、自分が天使だったことは 忘れてるみたいだ。


「ボティスは、呪力のみを抜かれ

霊性は元のままだ。もちろん、記憶も」


ワイン飲みながら聞いてたら

あくび出そうになって、噛み殺す。

こいつら、元気だよなー。


「ボティスに、他の魔人と共通項がないように

妻にも 地上の他の堕天使と、共通項はない。

だが妻は、地上に堕天した者を見ると

その本人が知らなくても、堕天使だということがわかる」


おっ! ちょっと目ぇ覚めた。


「じゃあ ボティスも

魔人を見たら 分かるかも、ってこと?」


「もしかしたらな。人間に紛れた魔人の

識別が出来るかもしれん」


「それが出来たら、攻めて来んの待ってないで

こっちからも探せるじゃん!

明日、買い物ん時も 探してみようぜ!」


「陽動だ。俺も行こう」と シェムハザが言うと

ボティスは、ふん って鼻を鳴らす。


けど、ちょっと楽しそうな顔になって

「着替えを出せ。もう寝る」と

ワイン飲み干して、ソファーを立った。






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