19


夜は すぐにやってきた。

明け方から寝りゃ、それも当然だが。


あれから、オレらは 帰るのもだるくなり

ジェイドの家の客間で雑魚寝した。


起きてから やっと、一度帰って

それぞれシャワーやら飯やら済ませて

また教会に戻ってきたのだが...


「おい ブロンド、来い」


ボティスが ジェイドを呼ぶ。


軽く ため息をつきながら、ジェイドが

ボティスが座る教会の 一番後ろの席に行くと

「これを持て」と、古い紙を 二枚渡す。


「邪視避けなら作った」と

ジェイドがきびすを返そうとすると

「見せてみろ」と、ボティスが言う。


ジェイドが 渋々、邪視避けの護符を出して見せると「それじゃ効かん」と

ボティスが 人差し指を くいっと上に上げた。


途端に ジェイドの護符がちりちりと燃え

教会の前の方で、朋樹の

「熱っ!」という怒った声がする。


「呪符に センスがない」と 笑うボティスから

ジェイドは「... 借りておく」と 真顔のまま古紙を受け取ると、一枚を 朋樹に渡しに行く。


オレが驚いたのは、教会に着いてすぐ

ジェイドが ルカに

ハーゲンティたちを呼ばせたことだ。


「協力してくれ。頼む」


ジェイドは頭を下げた。

「... 今回に限るが」と 付け加えてはいたが。


「互いに だ。こちらにも今後 利になる」

ハーゲンティは そう答え

「お前等では 手に負えんし

我等の手にも余る。いいだろう」と

ボティスも答えた。


何のための信仰心か、と ルカに問われて

ジェイドは アリエルの心を優先させたようだ。



「混血、何か見つかったか?」


ボティスは 次に オレに言った。


「あー?」


オレは ボティスに、アリエルの痕跡を探せと言われ、教会中を探している。

「お前も探せ」と言われて、朋樹も探しているが。


だから、溶けちまったって言ったじゃねぇかよ。

何もねぇよ。


そう言おうとした時

長椅子の下に何か光るものがあった。


拾ってみると、一房のブロンドの髪で

少しゾッとした。


これは、信徒のか?


ボティスが座っている長椅子... 左列の 一番後ろから、中央の通路を挟んだ 右列の 一番後ろの長椅子の下にあった。


なんで、結んだりしてないのに

バラバラにならずに 一房で落ちてるんだ?


ジェイドの髪は、艶消しのブロンドだし

これは違う。プラチナブロンド って感じだ。


染めたものでなく、元々の色だろう。

一本 一本が 細くつややかで

やけにキレイなところが、またなんか怖い。


「おっ、持って来い」


ボティスに呼ばれ、髪を持って行く。


長い角と牙。

ライトブラウンのショートへアの下の 両耳に並んだピアスは 昨日とは違うもので、よく見ると

昨日と同じ黒だが ベストやスーツも違う。

格好に気を使うタイプらしい。


髪と同じ色の眉の下の眼は赤く

切れ長で つり上がっている。

榊に似てんな... もっと鋭くした感じだ。


「よし、ブロンドに渡しとけ」


「は? なんで?」


呪いの髪だから だろうか?


「アリエルの髪だ。天までの道が出来る」


ん?


「アリエルは 黒髪だぜ。昨日見ただろ?」と

オレが言うと


「本来のだ。

黒髪のあれは、この国に堕ちた姿だ」と

ほら、持ってけ って風に

手で シッシッとオレを払った。


手の中の髪を もう 一度見ると

さっきまでと違い、胸が少し熱くなる。


教会に入れてたのか...


ジェイドに渡すと、おごそかに両手で受け取り

その髪を磔のキリスト像の下に そっと置き

膝をついて、祈り始めた。


ちらっと、ボティスを見てみたが

祈りに何の反応もない。


教会の左側にある通用口から、ルカとハーゲンティが入ってきた。

前神父の書庫から本を借りてきたようだ。


「趣味が良い!」と

ハーゲンティは 前神父を褒めていた。


「持っておけ」


朋樹に 古い聖書を渡している。

ジェイドのサポートをしろ、ってことか?

ハーゲンティは 普通に聖書を手に持てるんだな。

それだけ強い ってことなんだろうか?


「昨夜、サリエルに目をつけられた。

今後も手離すな。それは お前を護る」


そういうことか。

なんか、いいヤツだよな。


いや、こういう考えが危ないのか?

オレたぶん、すぐ騙されるな...


「混血、お前など騙さん」


長椅子で脚を組んで ふんぞり返っている

ボティスが言う。


「利がないからな」


なんか、嬉しくないぜ。


「人の考え、勝手に読むなよ」


「お前こそ垂れ流すな」


くそ...

これ以上言っても、勝てん気がする。


だいたい、混血混血ってなんだよ...


「何? 知らんのか?

そんなはずは... 」


ボティスが片方の眉を上げた。


ん?


そういや 昔、榊や玄翁も言ってたな

他の血がどうとか...


「ボティス、そろそろ出る。

ルカと泰河も来い」


... 今、ハーゲンティって

オレとボティスの話、止めたよな?


ハーゲンティを見るが、深紅の頬や眼にかかる黒髪のせいで 表情は わからない。


ボティスが イスから立ち上がり

ぐっと伸びをして教会の扉に歩を進める。


ハーゲンティは、ジェイドと朋樹に眼をやり

「我等以外の魔が来たら、何であっても祓え。

惑わされるな」と言い、ふたりが頷くと

「終わらせる」と 宣言して外へ出た。

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