スノーホワイト 2


中庭には、季節を無視した色とりどりの花が

とにかくたくさん咲いてる。


青い小鳥や黄色い蝶々が飛んでたりして

とってもメルヘンな様子。


試しに、人差し指を優雅に顔の前に出して

「ことりさん、いらっしゃい」をしてみたら

本当に青い小鳥が指にとまった。


やだ かわいい····


「竜胆」


ジェイドの声がして振り向くと

やっぱりジェイドだったけど

チロリアンハットなんて被って、ベロアのベストなんて着てる。

猟銃なんて肩に掛けてて、もろに狩人。


「僕と森へ行こう」


え···· すごい警戒させる誘い文句

ジェイドじゃなかったら絶対行かない。


馬の背中に乗って、あっという間に森の奥に着いたけど


「竜胆、逃げるんだ」

馬から降りてジェイドが言った。


「どうして?」

わかってはいるけど、一応聞いてみる。


「叔母さんは僕に、森で竜胆を殺すように言った。だけど僕にはとても出来ない。

叔母さんには悪魔が憑いている」


「えっ? 何そのシナリオ」


「竜胆、僕はエクソシストだ。叔母さんは僕がなんとかする。とにかく今は逃げてくれ」


新しくない?

そういうリメイクの映画とかがあるのかな?


チロリアンハットにくっついてる羽根を揺らして、ジェイドは馬で帰っちゃったし

仕方ないから、森の中をお散歩してみる。


湖が見えたから、そのほとりに座って

水面に自分の姿を映してみた。


髪は長いままだけど、赤いリボンをしてて

白い襟がついた、ふんわりした半袖のドレスは紺色。でも、長いスカートは黄色。

うん もうそのまんまって感じ。


また歩こうかと思ったけど、なんだか疲れちゃった。夢なのに疲れるなんて変なの。


湖のほとりに横になって、そのまま眠った。




********




「リンドウ、今日はどうだった?」


サマースクールからの帰り道

車を運転しながら、ヒスイが笑顔で聞く。


「バッグの型紙を採ったの。

三日かかったけど、やっと出来て嬉しい」


わかっていたけど、授業は全部イタリア語。

小さい時からヒスイやジェイドに、電話やネットで習っていたおかげで少し話せるけど

授業にはついて行くのが必死って感じ。


でも、楽しい。

明日はレザーの下処理をして、型紙を置いて裁断する予定になってる。


ヒスイはニコニコして、裁断する時のコツを教えてくれる。

ヒスイがお姉ちゃんだったら良かったのに。

従姉妹だけど、本当のお姉ちゃんてこと。


ヒスイはジェイドとよく似てるけど

頬や額は女性らしいラインをしてる。


アッシュブロンドの髪は色が変わることもあるし、長くなったり短くしてたり。

今は、顎のラインまでのしゅっとしたショートへア。シルバーのアイメイク。

ボルドーの口紅がかっこいいけど

私が真似したら、おかしなことになりそう。


「恋人とはどうなの? うまくいってる?」


突然の質問にどきっとする。


「うん、まあ···· うん」


「暑いし、ジェラート食べて帰ろうか?」


バールに着くと、私はグレープ、ヒスイは洋梨のジェラートを選んで

小さなテーブルでヒスイと向かい合う。


「リンドウの彼って今、19だっけ?

同じ高校で出会ったんだよね?」


「うん、そうだよ。部活の時にね」



神谷 颯介先輩は、男子テニス部だった。


私は中学の時と同じダンス部に入ったんだけど、高校で部活を始めた最初の頃

二年生や三年生の男子の先輩たちが、あちこちに集団でうろうろしてて。

それは、どうも新入生の女子を見て回ってるみたいだった。


先輩もその中の一人。

よく、ラケットとかテニスボール持ったまま

何人かでうろうろ見に来てた。


ダンス部が練習してると、先輩たちは周りで真似して踊っちゃったりもして。

顧問の先生に追い出されてたりもしてた。


先輩は、私には目立って見えた。いつも。


でも、いいかげん練習の妨げになるからってことで、うろうろしてる先輩たちが、もう

どの部からも見学禁止を言い渡された時に

先輩は、練習してる私のところに来て

『好きになったみたいだ』って言った。


顔がすごく熱くなったけど、私は頷いた。

嬉しかった。

その時に、私も先輩が好きだったんだって気づいた。



スプーンでジェラートを掬うけど

そのまま指を動かせない。


「なんかね、先輩は離れてる大学に行っちゃって。バイトが忙しいみたいで」


ヒスイがシルバーのアイメイクの中の、きれいな薄いブラウンの眼で、私の眼を見る。

鳥の翼を彷彿とする。


「ニイがね、オンナ出来たんじゃないか

とか、言うから····」


やだ 泣きたくないのに。

焦って眼をそらす。


「出来てないよ」


ドキッとして、ヒスイに向き直る。

ヒスイの言い方が先輩に似てたから。


「ルカがコドモなだけよ」


ヒスイは、洋梨のジェラートをボルドーのくちびるに運んで、にこっと笑った。


「溶けちゃうよ」って言われて

私も掬ったままだったスプーンを口に運ぶ。


溶けてきたグレープのジェラートは、爽やかで甘くて、でもまだちゃんと冷たくて

少し切なかった。




********




「どうなんだよ?! リンの様子はよ!」

「まだ寝てるなぁ····ふあーあ。

あー、オレもあくび止まんねぇ」


ぱち と、眼を開けたら

木の天井が見えた。


「あっ、リン起きたぁ! やったぁ!」

「よかったぁ····でもなんか照れちゃーう」


マユ、ミサキ···· 何その格好。


マユはピンクのベストにピンクのスカート。

ミサキはオレンジ。


あ、ドワーフなのね。

また夢なんだ。


マユはハッピー、しあわせさんで

ミサキはバッシュフル、恥ずかしがり屋さんみたい。


「あっ、起きたのか?」


やだ、ニイもいる。黄色だし。

でも膝上のショートパンツって何なの?


おこりんぼうかな?って思ってたら

「ひっ····くしゃあっ!」って、派手にくしゃみして、マユとミサキに

「やめてくださいよー」って言われてる。

花粉症のスニージーね。


「ちょっと失礼」


あっ、病院の先生まで···· 先生は抹茶色。

私の脈をとったり、瞳孔をチェックしてる。

そのままドク、お医者さんなのね。


「起きてんじゃねーかよ!

さっきまだ寝てるって言ってただろ?!」


赤い服だけど、誰この人?

グランピー、おこりんぼうみたい。


「うるせぇな 泰河ぁ。

おまえのせいで起きたんじゃね?

····ふぃっ くしゃん、ちきしょー」


グランピー、タイガっていうんだ。

ニイの友達かな?


「まあ、起きて元気なら良くね?

ふぁ あ····オレが眠たいわ」


この人は紺色。スリーピー、眠り屋さんみたいだけど、しゅっとしててカッコいい。


「朋樹、少し寝とく?」


あっ、またジェイド。配役不足なのかな?


あのカッコいい人はトモキっていうのね。

ジェイドは、ブラウンだけど····


「とぼけてんじゃねーよ、ジェイド。

リンが起きたら飯の仕度だろ? 

ふぃっ····くしょん! あー、鼻水すげーよオイ」


ドーピー····のんびりでおとぼけさんがジェイドなのね。なんとなく納得。


「オラ朋樹!!狩りに行くぞ!起きろ!」

「眠てぇ····適当に式打って捕るかな」


タイガさんとトモキくんは

「ハイホー、ハイホー」って歌いながら小屋を出た。


「私も果物やキノコを取って来よう。

ビタミンやミネラルも摂取しなければ」


ドク、先生も聴診器をつけたまま外に出る。


「ひっ くし。うわ、半端に出やがった

スッキリしねー。

オレ、薪割りしてくるわ」


ニイが裏に回ると、ジェイドが


「僕はパンを焼いてこようかな。

二人でリンのお世話をお願いするよ」って

キッチンに入って行った。


「リン、やっと起きたね!

三日も寝てたんだよ? はい、お水」


「とりあえず着替えちゃう?

なぜか同じドレスがいっぱいあるし」


マユとミサキが、かいがいしくお世話してくれる。私は渡されるままにお水飲んだり

着てたドレスとまったく同じドレスに着替えたり。


「····いうかさぁ、眠り屋さんのトモキくん。

かっこいいよね? やだ恥ずかしい」


「タイガくんも怒りんぼうじゃなかったらねー。

寝てる以外は怒ってるから。あはっ」


ベッドのシーツを換えてくれながら

ドワーフになっても相変わらずな二人に

なんかホッとする。


「あ、洗濯しなくっちゃ。なんかしあわせ。

ちょっと井戸のポンプのとこ行ってくるね」


「私も照れちゃうけどアイロンかけなくちゃ。

リン、一人で大丈夫? 恥ずかしい?」


なんか、会話があやしくなってきてるなぁ····


「大丈夫だよ」って言ったら

「すぐ戻るねー、あははっ」

「やだ、顔が赤くなっちゃった」って

役に忠実な感じだけど、なにか間違いながら

二人は小屋を出た。

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