スノーホワイト 3


ドワーフ達って働き者。


起きた時はうるさいくらいだったのに

ひとりになると静か過ぎる感じ。

たまに外から、ニイのくしゃみは聞こえるけど。


カーテンのない木枠の窓は、縦に長くて

上の方だけ丸い形になってる。


その窓ガラスの向こうに黒い人影が見えて

びくっとした。


あっ、お母さんだ。

悪い魔女っぽく黒いフードを被った横顔は

高い鼻だけが見える。


でもちょっと高すぎる。

トップは8センチくらいありそう。

どうも、上からカポって付けてるみたい。


お母さん魔女は、ちょっと窓開けてって

指と口パクでジェスチャーした。


「····娘さん、おいしい林檎はいかが?」


これって、やっぱり

もらわなくちゃいけないんだよね?


「まあ、おいしそう」


ふふふ····って 含み笑いするお母さんの前で

林檎をかじって、ぱたんと倒れた。




********




「ステキね!初めての作品だと思えない!」


スクールで判定が終わったから、帰りの車で課題で作ったバッグをヒスイに見せた。


はあ····頑張った。すごい達成感。


ボルドーのレザーを使って作った小さなハンドバッグは、留め具の代わりにターコイズが付いたコンチョを使ったから、カジュアルで普段使いって感じ。


でも、スクールからはA判定をもらえて

すごく嬉しかった。


「コンチョがかわいい。

コインじゃないんだ。めずらしいね」


「うん。昔、ニイにもらったの。

留学した時のアリゾナのお土産で」


一点モノなんだぜ、ってニイは言ってけど

その時は私、小学生だったし

水色の石付きのシルバーのボタンなんて

ちっとも嬉しくなかった。


部屋の机の奥から出てきたから

なにかに使えるかもって思って持ってきたけど、正解だったみたい。

バッグのいいアクセントになってくれたし。


「でももう明日帰っちゃうなんて

二週間て早いね。

冬くらいに、私が日本に行こうかな····」


「本当?! 来てきて!!」


ヒスイはニコって笑う。

明日帰ることが、少し寂しくなくなった。



「リンドウが持って帰るお土産を選ぼう」って、車を駐車場に停めた。


雑貨屋さんとかバールが並んだ通りを歩きながら、二週間なんて本当にあっという間だって思う。高校を卒業したら、また来たいな。


鞄だけじゃなく靴も作りたかったけど

二週間のコースだと、鞄か靴かのどっちかを選ばなきゃいけなかった。

一ヵ月のコースなら両方受講できたみたい。残念。


ヒスイに一緒に選んでもらって

マユにはピアス、ミサキにはブレスレット。

ニイとお父さんにはバイクの鍵用のキーホルダーにした。


「ジェイドは何がいいかな?

神父さんだから、アクセサリーとかは

つけられないよね?」


「そうだね。身体はタトゥだらけだけど」


「え?」


「あれ? 知らなかった?

あいつ、今のリンドウくらいの時は悪ガキだったからね」


ヒスイは肩をすくめるけど、全然想像つかない····

ジェイドには、お引っ越し祝いも兼ねて

直火用のコーヒーポットにした。


お母さんからは、お土産のリクエストされてて

イタリアのお菓子とか調味料だとかが、細かくいっぱい書いてあるメモを預かってた。


「リンドウ、疲れてるね」


「ん?少しね。でも大丈夫よ」


実は、課題のバッグの提出が間に合いそうになかったから、スクールから持ち帰って

ここ二~三日は夜中も頑張ってた。


「叔母さんのお土産のメモ、貸して。

私が買って来てあげる。

リンドウはバールで休んでなよ」


また、大丈夫よって言ったけど

ヒスイがダメって譲らなかった。


バールで白ブドウのソーダを飲んでたら

あくびが出て、まぶたが閉じそうになる。


もしかしてこれ、ちょっとアルコール入ってたのかな····? またあくびが出た。




********




「····眠っているだけのようだね。

ただ、目覚めるかどうかは今後の経過次第になる」


「ああ?! それでも医者なのかよ?

なんか適当じゃねー? ふぁっ くしゅん!」


「ドクター、かじった林檎が落ちていた」


「どれ、調べてみよう」


そうだわ、私

お母さん魔女の林檎を食べたんだった。


また眠ってるみたいだけど

周りの会話は聞こえる。


「リーンー、起きてよう。ちっともハッピーじゃないしー」

「私も恥ずかしくなくなったし。リンが寝てるとつまんない」


マユとミサキが素に戻っちゃってる。


「····よう、ジェイド。

おまえ悪魔がどうとかって言ってなかったか? ひっ くしゅっ」


「叔母さんに憑いているようなんだ」


「何?母さんに?

ひっ····ぶふぉ うわ、不発した」


「だけど僕は、狩人を解雇された。

森で竜胆を逃がしたのがバレたからね。

祓うには、城に戻る必要がある。

ルカ、鼻水を拭いた方がいい」


ああ、そういうことなんだ。

それでドワーフになったのね。

でも、狩人って雇われだったんだ····


ニイが鼻をかむ音の合間に

「ハイホー」って歌が近づいてくる。

おこりんぼうと眠り屋さんが帰ってきたみたい。


ドアがバーンって開く音がして

「動物いねーから魚釣ったぞコラ!」って

おこりんぼうのタイガくんの声。


「ふあーあ····

ついでに怪しいおばさん捕まえたぜ」って

眠り屋さんのトモキくんの声がしたけど

まさか····


「あっ、リンのママ!」

「おばさん、ぐるぐる巻きにされてる!

ちょっとヒドくない?!」


お母さん、捕まっちゃったんだ。


「うるせーな、おまえら黙ってろ!

綿花で巻いてあるから痛くねーんだよ!

あっ、またリン寝てんじゃねーか!

おい!どういうことだよ!?」


怒ってるタイガくんに、お医者さんが説明してる。


「母さん、どうしたんだよ?

なんなんだよ、その鼻」


「不自然だよな、鼻見て捕まえたんだよ。

眠気さめてきたぜ」


「ルカ、朋樹、下がって。

僕がなんとかする。

聖父と聖子と聖霊のみ名のもとに告ぐ····」


えっ、なんか違うお話になってきてない?


「うふふ····ジェイド。

あなたが叔母さんが勝てると思って?」


あ、お母さん喋った。


「五つまでは泣き虫さんだったわね」


「くっ····」


「おい、ジェイド! 詠唱しろよ!

母さんの鼻を戻してくれ!」


「ルカ、むちゃ言うなよ。わかってやれ。

とは言え、大祓詞が効くとも思えんよな····

さてどうするか····」


「ふん。どけよ、おまえら。

掴めるヤツならオレが相手だ」


やだ、タイガくん

なんか物騒なこと言ってるし。


隣からはマユとミサキの声がする。


「····どうする? 行く?」

「うん····せーの!」


ダダッと、ふたりが走る音と

「おい、おまえら!」「やめろ!」って

止める声····


「えいっ!」

マユが言うと、なんかポコって音がした。

「やったぁ!」ってミサキが喜んでる。


「母さん、鼻が····」

「取れたぜ」

「やるじゃねーか、おまえら」

「僕もまだまだみたいだ」


「あら? 私、何してたのかしら?」


「普段の母さんだ····」


「叔母さん、何でもないんだ。

僕が城まで送るよ」


なんだかとってもくだらないけど

お母さんはジェイドと小屋を出たみたい。


「····林檎の検査結果が出た。

君たちも薄々気づいていただろうね。

想像通りだよ」


「王子、か····」


「待てよ! それってまさか···」


「落ち着けよ、ルカ。

このまま妹を寝かせておく気か?」


外から、パカラッパカラッて

馬が走る音が近づいてくる。


「ミサキ、窓見て 窓!」

「白馬じゃーん」


小屋のドアが開いた音がして

夢でもどきっとする。


「こんにちは。隣国の王子です。

旅の途中で迷ってしまって····」


先輩の声がした。

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