別れ
「こっちですよ」
クリスはローズに告げた。探していた声を見つけたのだ。ベルベットはどこにいるのかと、心の中で聞いたのだ。そうすると返事があった。こちらだよ、と。それは若い女性のような声で同時に少年のようであり、また思慮深い老人のようでもあった。ローズが驚いてクリスを見上げ、そしてクリスはローズの手を取ると、先に立って歩き出した。
「植物たちが言ってます。こっちだって」
二人が歩くと不思議なことに、彼らを取り巻いていた植物たちは静かに道を開けた。ローズが驚いた表情をしている。
「なんだか案内されているみたい」
「みたいじゃなくて、そうなんですよ。彼らはベルベットの居場所を知っていて、そして僕らに教えてくれてるんです」
クリスは自信に満ちた足取りで歩き出した。やがて行く先に光が見えてきた。二人はその光へと次第に近づいていった。
――――
気づけば、完全に光の中にいた。そしてクリスは非常に奇妙な気持ちになり、また同時に面白くも思った。そこは見たことのある世界だった。さっきまで二人がいた庭で、二人はまた同じ場所に戻ってきたのだ。
「――ベルベットは……」
ローズが戸惑った声を出した。クリスは少し先にある一本の大きな木に目を止めた。ベルベットの卵は木の根元で見つけたと、祖父は言っていた。あれがそうなのではないかな――いや、確かにあの木がそうなのだ、とクリスは思った。そこで木へと歩いていった。ローズもついてくる。
クリスが思った通りだった。そこにはベルベットがいた。木の根元、柔らかな草の上に、ベルベットはいた。くるりと丸くなって、眠っていた。ローズが喜びの声をあげた。
「ベルベット! こんなところにいたのね。さあ、一緒に帰りましょう」
けれどもベルベットは起きなかった。深く眠っているようだった。顔はとても穏やかだ。幸せな夢を見ているような。ローズが近づいて、そっとベルベットに触れた。
「ベルベット? どうしたの、ほら……」
その時、まばゆい光がベルベットの身体から放たれた。ローズは驚いて、ベルベットから離れた。クリスもまたびっくりしてそれを見つめた。最初は光の塊だけがあり、何が起きたかわからなかった。けれども少しずつ、その光の中から何かが姿を現し始めた。「ベルベット――」クリスの隣で、ローズが呆然と呟いている。クリスは言葉もなかった。光の中から出てきたもの、それは、竜だった。それもベルベットのような毛に覆われた竜ではなく、うろこに覆われた竜だったのだ。
うろこは白銀で、光輝いていた。目は琥珀色で、二人を優しく見つめていた。ずいぶんと大きくなったが、これはベルベットだ、とクリスは思った。つまり、ついにその日を迎えたのだ。竜は消える寸前にその姿を変えると。ベルベットにもついにその日がやってきたのだ。本来は祖父が死んだときにそうなるべきだった。けれどもどういうわけか、延長の時間を与えられ、そしてそれもついにつきようとしているのだ。
「――ベルベット、ほら……一緒に帰りましょうよ」
ローズがベルベットに呼びかけている。けれどもそれが叶わぬことを、クリスは知っていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます