幼い姉妹たち

 手短に昨日のことを話した。事故、確かに多少のすれ違いが引き金にはなったが、まあ事故のようなものだろう。ジェンキンズは静かに話を聞いていた。


「――でも全然大したことはないんです。ほんのかすり傷で。でも夫人が大げさに包帯を巻いてくれて」

「大したことないならよかったな」


 ジェンキンズは短く言いまた作業に戻った。雨のせいもあり、小屋の中は薄暗い。古くて小さな小屋だった。あまり掃除もされていない。窓は汚れたままで雨の日の庭がぼんやりとその向こうに見える。


 小屋には大きなテーブルと棚があり、棚には様々な道具や肥料や薬が雑然と置かれていた。植木鉢がいくつも転がっている。二人は木の椅子に腰かけているが、その椅子も古い。


「――昔はよくお嬢さんがたが来ていたもんだ」


 突然、ジェンキンズが言った。クリスは顔を上げた。


「ここに、ですか」

「そうだな。ここにも来たし、庭で仕事をしているとちょこちょことこちらの行く先についてきたんだ」


 クリスはその光景を思い浮かべた。いくらか年若いジェンキンズじいさんがいて。そしてその後を三人の女の子たちが付いて歩く……。どのくらいの年だったのか、まだ10歳前後くらいだろうか。ジェンキンズじいさんの声がまた聞こえた。


「三人そろって、ころころと似たような愛らしい女の子たちで――。愉快な子たちだったね。みんなお喋りで口々になんだかんだと言ってこちらが口をはさむ隙がなかったなあ」


 そういえば、三人そろって一緒にいるところをあまり見たことがないな、とクリスは思った。屋敷内ではもちろん一緒なのだろうが、クリス自身がそんなに頻繁に屋敷に行かない。また、そろって庭にいるところも、クリスは見たことがなかった。


「最近は来ないなあ」


 ジェンキンズじいさんが小さく言った。「しかしまあそれが、成長というものなのかもしれんな」


 いつまでも無邪気にこちらに懐いてくれるわけではなくて、年を取ればやがて離れていく、そのようなことをジェンキンズじいさんは言いたいのだろう、と思った。少し寂しいのかもしれない、と思った。しかし上の二人はともかく、ローズはまた庭に顔を出すようになっていた。クリスと親しくなったからだ。けれども……最近は来ていない。これからはヴェイン先生の授業にきちんと顔を出すようだし、来る回数は減ってしまうのかもしれない。やはり、寂しい……のではあるが、仕方がないことでもある。


 クリスはふと、祖父のことを思い出した。祖父が庭師のときは、イライザが祖父の元を訪れていたのだ。一度夢に見たことがある。黒い髪のイライザ。祖父が花を贈っていた。ローズが言うように、現実の光景を夢に見たのかはどうかはわからないが、印象的な夢だった。今と同じようにベルベットがいて。


 ベルベットは部屋の隅でくつろいでいた。隅には藁などを敷き詰めて、ベルベットの寝床にしている。ベルベットは丸くなって目を細めていた。眠るつもりらしい。確かに単調な雨の音は眠気を誘う。


 部屋は再び静かになっていた。歳月でゆがんだ椅子に座って、クリスは作業を続けたのだった。

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