4. 雨の日の探索

雨の日の探索

 しとしとと雨の降る休日に、クリスは突然ローズから呼び出しを受けた。ベルベットともに屋敷へと赴く。そこにはローズが待っていた。


 あの夜以来、久々にきちんと顔を合わせることになる。ローズは長い髪を下ろし、グレイのワンピースを身につけていた。地味な色だが、ローズの華やかな顔が逆に引き立つ。ローズはクリスを見て言った。


「今日は屋敷内の探索をしようと思うの」足元でじゃれるベルベットを、ローズは抱き上げた。「私は学校が休みであなたも仕事がお休みでしょう? ちょうどいいと思って。それに雨の日なのもいい」


 ローズはくるりと向きを変えて、ベルベットを抱いたまま歩き出した。クリスも後を追う。


「雨の日がよいのはどうしてなんですか?」

「なんというか……気持ちが研ぎ澄まされるというか……魔力を追いやすい気がするの」


 ここで、どうして自分とベルベットが呼び出しを受けたのか、わかってはいるが、一応確認しておきたくなった。


「あの、屋敷内の探索って、イライザさまの魔力を探るってことですよね」

「そうよ。他に何があるというの」


 素っ気なくローズは言い、先を歩いていく。


 曇天のせいで、屋敷内もいささか暗かった。古い大きな屋敷だ。廊下にかかる風景画を眺め、ひっそりと置かれた甲冑に驚き、クリスはローズの後をついていった。誰にも会わない。屋敷の大きさの割に、住んでいる人が少ないのだ。


 ふとローズが立ち止まり、ベルベットを下ろした。


「さて、ベルベット。この辺が何か怪しいのだけど……。わかる?」


 長い廊下の突き当りだ。そこはやや広い空間になっており、大きな窓の外には濡れた庭の景色が広がっている。ベルベットはきょろきょろと辺りを見回した。

ローズの言葉がわかっている……わけではなさそうだが、何かを探しているようにも見える。


 ふいに、ベルベットが動き出した。ちょこちょこと歩き、階段へと向かった。


「二階に何かあるの?」ローズが尋ねて、ベルベットを追いかける。もちろんクリスも一緒に。


 ジャスパー家の屋敷に行くことはたまにあるが、それは例えば仕事の用事があって誰か使用人に会いに行くとかであって、内部をあれこれ見て回ったことはない。一使用人の分際でそんなことはできない。そのためこうしてローズとともに、屋敷内を見て回れることは楽しかった。二階には何があるのだろうと、ちょっとドキドキしながら階段を上っていく。


 上がり切れば同じように窓があり、廊下が続いていた。ベルベットは立ち止まり、再び辺りを見回した。ローズも止まって、じっとしている。魔力を探っているのだろう。クリスも同じく止まって集中してみたが、魔力の気配など、さっぱりわからない。


「この廊下を行くと」そう言ってローズは廊下の奥を指した。「大叔母さまの部屋があるわ」

「何か……それらしいものの気配はあります?」


 わからないので聞いてみる。ローズは少し首を傾げた。


「あるような、ないような……。大叔母さまの部屋は以前捜索したことがあるの。でも何も出てこなかった。今日もそんなに……変な感じはしないけど……」


 ローズの言葉は曖昧だ。ミランダはローズの魔力が一番強いといっていた。けれどもそのローズでも捉えきれない「なにか」なのだ。


 ベルベットはどうかなと思ってクリスは小さな竜を見る。ベルベットはきょろきょろとはしているが、単に初めて来るところに珍しがっているだけのようにも見える。あんまりこいつには期待ができそうにもないけどなあ、とクリスは思った。けれどもローズはベルベットを信頼しているのだろう。


「――とりあえず、イライザさまの部屋に行ってみます?」


 クリスは提案した。ローズは頷いた。二人とそして一匹で薄暗い廊下を進んでいく。

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