ジャスパー家の人々
祖父とベルベットが再びジャスパー家を訪れることを、クリスも願っていた。が、それは実現されることはなかった。2年ほど前、ベルベットを残して病気で死んでしまった。多くの竜がそうであるように、ベルベットもそこで死んでしまうかと思われたが、そうはならなかった。ベルベットは生き、そしてクリスに懐き、彼と行動を共にするようになったのだった。
祖父と同じような魔法の力を持ち、祖父と同じ職業に進むことを選んだクリスは、ひょんなことから、ジャスパー家で働くこととなった。というより、祖父とベルベットのことを知った庭師の一人が、ジャスパー家にクリスを推薦したのだ。祖父の願いはかなわなかった。けれども、ベルベットを故郷に、彼の卵を見つけた場所に連れていくことができる。クリスは喜んで仕事を引き受けた。
――――
小屋の片づけが住んだ後に、主人であるジャスパー一家に挨拶に行くことになった。身なりを整え、ビルについて屋敷へと向かう。祖父が世話をしていた時からずいぶん経つが、屋敷の庭は美しい。代々の庭師たちが大切に手入れしてきたのだろう。春の日差しはうららかで、鳥の声は軽やかに、ミツバチの羽音は眠たげな音を立てる。緑と色とりどりの花の中を、クリスはビルについて歩いた。
屋敷は古く、がっしりとしていた。いくつかの塔が見える。玄関を入ってホールを通って、客間へ。そこにジャスパー一家が揃っていた。
ただの庭師に対しては分不相応な歓迎かと思われた。けれども、クリスは以前ここで庭師をしていた人物の孫であり、その庭師はかのイライザと親しかったのであり、そしてその二人が見つけた珍しい竜を連れてきたのだ。ジャスパー家の人間はどうやらクリスに興味津々のようだった。
部屋にいたのは6人だった。現当主のジャスパー氏。それからその妻。ジャスパー氏は太った優しそうな人で、夫人は小柄でおしゃべりだ。そして娘が3人いた。
一番上の娘は20歳ほどでウェンディといった。濃い色の目と髪をしており、くっきりとした眉は意志が強そうだ。端正な、整った顔立ちをしている。二番目はミランダ。姉に比べると髪の色も目の色も薄く、柔らかな女性的な身体つきをしている。クリスを見てにっこりと微笑んだ。年の頃はクリスと同じで、気さくそうな雰囲気があった。
最後の末娘はローズといった。3人の中で一番美しかったが、一番とっつきづらそうに思えた。目の色は金に近い茶色だ。長いまつげが装飾のようにそれを取り囲んでいる。クリスより二つ下で16歳だった。少し小柄で目を上げてクリスを見ていた。けれどもそこにはあまり友好的な色はない。
ジャスパー家は5人。それからさらにもう一人いた。初老の女性で厳しそうな顔をしている。地味な服を着、しゃっきりと背筋を伸ばし、ジャスパー一家と共にいた。彼女は娘たちの家庭教師をしており、ヴェインという名前で、過去にはイライザの秘書をしていたという女性だった。
「叔母は独身でずっとこの屋敷に住んでいて」そう、ジャスパー氏は言った。叔母とはイライザのことだ。「ヴェイン先生も叔母と一緒にここで暮らしていたのだ。だからもう、家族の一人のようなものなのだよ」
クリスは彼ら6人に挨拶をした。ジャスパー氏はいい人そうだ。夫人もまた。ウェンディはしっかりしていて頼もしい。ミランダとは一番仲良くなれそうだ。けれども末っ子のローズはそっけない。ヴェイン先生もまた近寄りがたく思えた。
促されるままにソファに腰を下ろせば、やがて、白い茶器が運ばれてきた。優美な植物模様が描かれたティーセット一式に、皿に並べられた愛らしいお菓子たちも。「お茶にしましょう」と夫人が言った。
クリスは緊張しながら、それらを味わった。ジャスパー氏や夫人や子どもたちがクリスにあれこれと質問をして、それに答えていく。客間はこれ見よがしな煌びやかさはないが、落ち着いた高級さがあり、それはクリスが今まで知らなかった世界で、そのためますます緊張してしまうのだった。
「ベルベットは何を食べるの?」
不思議そうにミランダが聞いた。ミランダはどうやら食いしん坊らしく、さっきからせっせとお菓子を口に運んでいる。
「えっと……虫とか……」
答えてから、この場にはあまり相応しくない話題かも、とクリスは思った。この優雅なお茶会の席にあっては。「虫なの?」と、ミランダが目を丸くしている。クリスは慌てて補足した。
「いえ、でもなんでも食べます。あ、ほら、このクッキーとかも」
そう言ってクリスは自分が食べようと思っていたクッキーをベルベットに差し出した。ベルベットは二本の前足で器用にそれを捕まえて、くちばしのような口でばりばりと食べた。
「かわいいわね!」
ミランダが笑顔になった。かわいいかどうかは……クリスは不安になったが、少なくとも、飼い主のクリスにとってはベルベットはかわいい存在であった。だからそのように言われるのは嬉しい。
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