第4話 はじめてストリップにいったこと(福岡県北九州市 小倉A級)

*前回のあらすじ*

 隠れホモ・リーマン(当時)の太郎のチ○ポは水族館のカマイルカのはず……

 しかし青ジャンパー兄貴の捕ゲイ・ラッシュで、ドス黒マッコウクジラに急成長じゃい!!

 そこにオジサンドイッチがえっちなスクラムを組んできてん……


***


 小倉名画座を後にした我々に、いきなり(ホントに門を曲がって直ぐ!)新たな刺客が現れた。

 その建物をどう表現すれば良いのだろう……『この世の中の怪しさといかがわしさの全てをかき集めても、その建物には敵わないのではないか』そう思う程だ。

 二階建ての雑居ビルの壁という壁に、女性達のセクシーなビラが所狭しと貼られており、分かりやすいところに上映スケジュールと思しき時間割が掲示されている。

 その雑居ビルの前に立っていた客寄せのアニキに声を掛けられる。

 小倉の有名なセクシー・スポット「小倉A級」、いわゆるストリップ劇場である。

 この中で写真の女性達のセクシーなビラが露わになっているのである。

 入場料は五千円と書いてある。


 正直に言うと、そのとき俺は乗り気ではなかった。……失礼な話、ストリップっておばちゃんばっか出てきて、客も酔っ払いとかみたいのだけなんでしょ?そんな場末感も悪くないけどそれに五千円は払えないよね……そんな事を思った。

 加えて太郎は現在傷心の身。つい先ほど調査捕ゲイされかけたというダメージは測り知れない。


 戦略的な転身。

 それを考えた。

 振り返る。

 太郎が客引きのアニキに料金を四千円まで値切っている最中だった。

「もうちょっとなんとかなりませんかね……」

 太郎がアニキそんな事を言っている。

 先程トイレで襲われかけた心理的ダメージなどまるで無かったかのような勇猛果敢な振る舞いだ。

 俺は太郎に生えているであろう無数の剛毛(『心臓に毛が生えている』という慣用句があるが、今回の場合太郎に生えているのは明らかに恥毛だ)を幻視しつつ、もう後には引けぬ、と、ストリップ劇場に入った。


 受付のお爺ちゃんに四千円を払い、奥へ進むと、煙草の匂いが染み付いた階段が見えて来る。どうやら「「「カーニヴァル」」」は二階で催されているらしい。そこに至る階段の壁にも、一面にストリップ嬢のポスターが貼られており、踊り場にはいかにも常連といったオジサン達が煙草をくゆらせながら雑談に興じている。

 そうした何気ない一コマに、いい知れぬ文化の醸成を感じる。

 もうきっと何十年もの永きに渡り、この踊り場はこの踊り場のまま、数多の益荒男達を迎え入れて来たのだろうし、如何にも映画の名傍役といった風情で煙草をふかすオジサン達も、一日や二日で出来る絵では決してない。

 そんな事を思いながら、踊り場で煙草一本分の時間を流し、俺と太郎は二階へと歩を進めた。


 扉を開け、レンタルビデオ店の十八禁コーナーを彷彿とさせるビニルのカーテンを潜ると、いきなり爆音が耳に飛び込んで来た。会場は中央に達磨型のステージがある部屋であり、なかなか広い。その達磨型のステージの上では、今まさしくストリップ嬢がショーを行っている真っ最中である。

 当然の如く満員。

 休日とはいえ昼の一時にこれだけの客が集まっているのか……と呆気にとられる。

 座る場所が無いのは意外であったが、反面、期待は嫌が応にも盛り上がる。

 俺と太郎は席の後方で勃ち見と決め込んだ。


 ステージでは、黒いボンテージに身を包んだ美女が、鎖を持って踊っている。

 側の台座には骸骨(……本物?)が置いてあり、美女はその骸骨と鎖をアクセントにしながら艶かしく踊り、観客の視線を一心に集めている。

 時折、美女のセクシーなビラビラが露わになる。


 俺と太郎は後方の勃ち見客と共に、美女の踊りを観察した。

 美女が達磨型のステージの、観客にほど近い側に移動し、しゃがむ。

 そして、おもむろに両足をYの字に開き、ぱっくり赤貝を会場に披露した。

 同時、鳴り響く拍手!

(……ここで拍手をするものなのか!)

 まるで日本ではないどこかに来てしまったかのような感覚。

 これがホントの異文化交流!

 ストリップ童貞であった我々を襲う文化の波!

 ただただ、俺と太郎は手を叩くばかり……。


 一時すると、美女はステージ脇へ移動し見えなくなった。

 アナウンスが聴こえる。


「えー○○嬢でぇ、おぉ楽しみ戴きぁしたぁ。続きぁしてぇ……」

 電車の車掌を彷彿とさせる独特のイントネーションのアナウンスが響く。


 次のステージはその美女のポラロイド撮影会だった。

 一枚千円で、観客は美女に好きなポーズを注文し、美女は骸骨や鎖と一緒に写真に収まっていく(写真によっては全裸である)。

 多くの人にとってそれは休憩の時間の様な役割を担っていたが、一部のオジサンにとってはそうではない。嬢の前には四~五人からなる小さな行列が生まれ、皆思い思いに嬢にプレゼントや花を贈り、ポラロイドのシャッターを切っていた。


 後で気付いた事だが、ショーステージの展開にはある一定の法則があるようだ。

 まず最初のステージで、服を着た状態でのダンス。

 次に、半透けの服を着た状態でのダンス。

 三番目に全裸のダンス。

 四番目にポラロイド撮影。

 最後にアンコールステージ。


 そうして最後のステージが終わって少ししたら次のストリップ嬢が現れるという具合だが、その二人目のストリップ嬢に我々の目は釘付けになった。

 二人目のストリップ嬢はなんというか……ストリップ嬢っぽくない(何をもってストリップ嬢っぽいかは置いておいて)。アイドルのように可愛らしい顔立ちだ。


 前ステージの『美しい』嬢に対し、その子は『可愛い』。 

 そして始まって登場して早々、アイドルイベントの如くキレのあるダンスを踊る。

 それがやたらと似合っている。

「かわいい」

 観客の誰かがぼそりと呟いた。

 本当に口からぼろっと出た感じだ。

 確かに可愛い。

 それはストリップ嬢を見る我々にとって一種の反則カードの様な効果をもたらす。

『こんな可愛い娘の全裸を見て良いのだろうか』

 一瞬そんな事を考えてしまう。


 瞬く間に第二ステージがやってくる。

 青い半透けのドレスで譲が踊る。

 そのドレスから、嬢の二つのさくらんぼが透けて見えている。

 下衆い言い方で恐縮だが、その娘は「綺麗な体」をしていた。

 胸は大き過ぎず小さ過ぎずさくらんぼが綺麗なピンク色で、まさしく「美乳」という表現が相応しい。

 白いなだらかな丘陵にえっちな茂みは生えていない。無毛地帯である。

 それが嬢の雰囲気に合っており、不自然な感じは全くない。


 ところで、一流の職人の指が醜く曲がっていたり、ショコラティエの手のひらの体温がいつの間にか二十八度(チョコが溶ける温度だ)以下になっていたり……とかくその道を極めんとする人間の身体は、生来の状態を離れ、見ようによっては醜く見えてしまうこともある。

 ストリップ嬢やモデルというのも、それに近い性質があるのではないかと考えた。『見られ続ける事によって出来た奇形』である。現実の女性ではちょっとお目にかかれない、美し過ぎるという奇形だ。


 我々は三人目を見終えた所で劇場を後にした。

 どこか遠い国から帰ってきたような感覚で駐車場に戻り、矢鱈と高い駐車料金を払い、その後の車内では、先述の嬢が如何に美しく可愛いかったかで盛り上がった。

 太郎はしきりに『女性にこそストリップを見て欲しいと思った』と言っていた。

 その意見には賛成だが、実際言うとセクハラになるので控えている。

 当ポストでそれを謳う分はセクハラにはなるまい。女性こそストリップに行ってみてください。客席に女性は割と居ます。

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