第15話部員③
「そっか」と口角を上げ古義の頭を軽く叩いて、再び視線を部員の方へ。
ここの部員は個性も強いが仲間意識も高い。古義のような真っ直ぐな性格は、どちらかと言えば好ましいモノだろう。
案の定、並ぶ顔にはそれぞれ古義の今後を期待するような好奇の色が見て取れる。それはきっと、自分にも。
「じゃあ最後、小鳥遊!」
「はいはーい! って、ボクもう既にかずちゃんとは仲良しだけどね」
「そうそう、気になってたのよー。 アキちゃんだって会うの二回目でしょ? それにしては随分とナカヨシじゃない?」
「それはねー、ヒミツ!」
「まさかオマエ、ソイツんとこ行ってたんじゃねーだろーな?」
「えっ!? やだなーそんなまさか!! ね、ねー? かずちゃん?」
(この人ウソ下手だなーっ!!?)
詰め寄る風雅と宮坂に慌てた様子で同意を求めてきた小鳥遊に古義も一応「っす」と頷くが、明らかな動揺は自ら肯定しているようなモノだ。
案の定、明崎に「小鳥遊、後で話しがある」とニコリと笑みを向けられて、半べそをかきながら「ごめんなさい」と古義の影に隠れる。
「まーでもそのかいあって古義が来たんだろ!? なら今回はファインプレーだな!」
「全然ファインプレーじゃないって。直接勧誘に行くのは禁止されてるんだから……」
ガハハと大口で笑いながら親指を立てた岩動に、明崎は額を抑えながら「どうかバレませんように」と呟く。
成る程。つまりこれはワリと本気の秘密事だったのだと理解した古義も、この事は黙っていようと固く心に誓う。
止まってしまった流れを再び戻したのは高崎。「ほら、小鳥遊。自己紹介」と呆れたように促され、小鳥遊が「そうだった」と鳥の子色の髪を揺らす。
「下の名前はアキだよ。ポディションはセカンド! 一緒に頑張ろうね! かずちゃん!」
「あの、その呼び方は決定すか」
「うん! けってー! あ、ボクの事もアッキーって呼んでいいよ!」
「いや、それはいいっす」
明るい笑顔で差し出された掌に古義もつられて手を出せば、がっちりと握りしめられ勢い良く上下にブンブンと振られる。
腕力も強かったが握力もかなり強い。華奢に見える身体のドコにこんな力があるのか。
「ったいっす、小鳥遊センパイ!」
「わーごめんっ! またやっちゃった!!」
また、という事は常習犯なのだろう。開放された赤くなった右手を涙目で擦りながら「いえ……」と零した古義に、「甘やかすんじゃねーぞ古義」と宮坂が即座に返す。
「何回言ったってこのザマなんだ。後輩からもイヤがられりゃ多少はマシになんじゃねーの?」
「ヒドい! 冷たいよちーちゃん!」
「テメェがいつまで経っても加減を覚えねぇからだろ!? こっちは毎度毎度イテェ思いしてんだよっ!」
「アタシは別に平気よ?」
「だよねー?」
「バケモンと一緒にすんじゃねぇ!」
「まっ、失礼ね! 根性足んないんじゃないの?」
「あぁ!? ケンカ売ってんのかテメェ!?」
(なんかまた始まってしまった……)
目の前で飛び交う怒号にどうしよう、と戸惑いながら明崎を見遣ると、「後はよろしくな」と高崎に片手を上げ「じゃあ行くか」と古義に笑みを向け校舎を指差す。
あ、無視なんだ。歩き出した明崎を追いかけて、古義もその場からそっと離れる。
「うっさいだろ? いっつもあんな感じでさー」
「あ、でも仲は良いんだ仲は」と苦笑する明崎に、古義はソロリと元いた後方を見遣る。
小さな輪になり言い合いを続ける三人に高丘が割り行って制止しているようだ。岩動は腰に手を当て相変わらずニコニコと楽しそうに見守っている。
その、奥。移動式のネットで遮られた先で、黙々と投球を続けている蒼海。フォームの確認なのだろうか、セットポディションからぐるりと腕を回すのではなく、横を向いた状態で腕を回し、一球一球丁寧にネットへと放っている。
ふ、と。気がついた古義は視線を動かし、部員を数える。
(……やっぱり)
自分を除いて七人。最低でも九人いなければ、チームとして成り立たない。
「これで全員ですか?」
蒼海の口ぶりからするに、試合には出ていたのだろう。という事は足りない分は、他チームから借りていたのだろうか。
見上げた明崎は「いや、」と短く答え、ニカリと歯を見せる。
「あと二人、だな。三年生と、古義と同じ一年生」
「一年!?」
拾った単語に古義が目を輝かせ、歓喜の声を上げる。まさか、同じ学年のヤツがいたとは。
先輩達は皆いい人のようだが、やはり同学年の存在は格別に心強い。
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