第6話 明るい世界

 そう、それは、普通の住宅街。

 でも、菜緒花にはそれが、特別なものだった。

 たくさんの家の中で、人は住み、人は生活する。

 それが普通で、俺達はその普通な暮らしを、ずっとしてきた。

 でも、彼女は違った。

 彼女は普通の暮らしを知らず、ずっとこの家の中で生きてきた。

 俺はふと、隣で立ち尽くす菜緒花を見た。

 彼女は、泣いていた。

「今日からお前は、この世界の住人になるんだ。楽しそうだろ?」

「こんな……明るい世界……見たことない、無理だよ……。」

「大丈夫だよ。最初は知らないことしかないかもしれない。」

 多分今、菜緒花は状況がのみこめていないんだと思う。

 今全てを説明すると、混乱するだろう。今まで一緒に過ごしてきた人が赤の他人だと言われたら当然だが。

 これから警察の捜査などで忙しくなりそうだ。

 それでも俺は、何度も彼女に会いに行く。

 この世界を教えるために。

「なあ、菜緒花。俺はいつも、この世界で暮らしてる。」

 菜緒花の瞳には、涙が溜まっていた。

「俺、地底人じゃなかっただろ?」

 すると、彼女はおかしそうに笑った。

「ホント、あんたは地底人じゃなかった。悔しいけど、本当のことだもの。」

 菜緒花はまた、住宅街を見つめた。

 空には、光り輝く月。

 そして、俺の隣では。

 さっきのように涙をうかべて。

 満面の笑みをうかべる少女が立っていた。

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