第3話 菜緒花の絵

「菜緒花ー!」

 俺はいつものようにドアの前で叫ぶ。

 するとすぐにドアが開いた。

「今日も変な夢、見たか?」

 俺と菜緒花は、ドアの近くに座る。

「久しぶりに見なかったよ。あんた、こんなに毎日もここに来て、よく飽きないね。」

「まあ、することないし。」

 本来は今、高校に行って勉強をしなければならないのだが。

「お前もさ、普段何してるんだよ。」

「んー。絵を描いてるかな。見る?」

 菜緒花は立ち上がって、ドアを開けて中に入る。

 少し経つと、菜緒花は何枚かの紙を持って戻ってきた。

「じゃーん!上手いでしょ?」

 描かれていたのは机や椅子、本、棚、食器など、ほとんど家具だった。

 その中にところどころ、男の人の絵が描いてあった。

「これ誰?」

 俺は男の人が笑っている絵を菜緒花に見せた。

「ああ、それ私のお父さん。」

 絵の中の男は、髭やしわが多く、老けている。

「これ本当にお前の親父か?地底人なのにお前絵は上手いんだな。」

 俺は菜緒花に絵が描かれた紙を渡した。

「ちょっと、地底人は余計でしょ。あたしはただの人間です。」

「分かった、分かった。んじゃ俺帰るわ。また明日来るから。」

 俺は立ち上がり、家に帰るため歩き出す。

「じゃあねー。」

 背後で、ドアの閉まる音がした。

 まだ夜まで、時間がある。

 何をしようかと考えながら、家に帰った。


 家でゲームをしていると、父が帰って来た。

「直人、最近学校はどうなんだ?」

「急にどうしたんだよ。普通に楽しいけど。」

 親には俺が不登校だということを秘密にしている。

「今日、仕事の帰りにお前のクラスの担任に会ってな。最近学校に来てませんが、何かありましたか?だってよ。直人、もしかして俺や母さんに嘘ついて、本当は学校に行ってないんじゃないのか?そうだろ?」

 俺は、ゲームをやっている手を止めた。

 高校に行かないで、毎日遊んでるだなんて、言えない。

「……ちゃんと、行ってるよ。」

 だから俺は、嘘をついた。

 父はその後、何も言わずにリビングの方へ行ってしまった。

 俺はゲームをする気がなくなり、ベッドに寝そべる。

 久しぶりに学校に行こうかな……と思った。

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