たけし!あんた店番をサボってこんなところで暴力治療して!!
ちびまるフォイ
暴力依存症の方は当クリニックまで
「剛田さーーん。どうぞーー」
クリニックに通された少年は本気で悩んでいる顔をしていた。
「剛田さん、今日はどうされましたか?」
「実はつい暴力をふるってしまうことになやんでいて……」
「なるほど、自分の暴力性を治療したいわけですね」
「昔はよかったんです。ガキ大将たる自分の大事な要素として受け止められました。
今は暴力に否定的な風潮があるので、暴力は使えない。
……でも、つい手が出てしまうんです」
「当医院、暴力クリニックはそんな悩みを持った人を助けていますよ。
先日もケンシロウという方やグラップラーさんも治療されました」
「本当ですか!」
「根気よく治療していきましょう。
これはイライラを鎮める薬です。飲めばきれいな剛田さんになれるでしょう」
医者から処方された薬を持って、剛田はクリニックを去っていった。
数日後、剛田氏の暴力事件により医者はすぐに呼びつけた。
「剛田さん! どうして暴力を振るったんですか!
薬の効果はなかったんですか!?」
「いいえ、薬の効果はありました。母ちゃんに店番で叱られても
全然イライラしないし、メガネをかけたアイツを見てもイライラしません」
「だったらどうして暴力を……」
「俺にはもう暴力しかないんです!! だから仕方なかったんです!」
「なにがあったのか話してください」
「実は……薬の効果で暴力を振るうシーンはすっかりなくなりました。
と同時に、劇場版をはじめ毎週の自分の活躍の場も失われたんです。
ガキ大将(笑)という肩書だけが残って辛いんです!!」
「そんなことが……!!」
医者がなおも詳しく患者の話を聞いてみると、状況は複雑だった。
これまで暴力で蹂躙していたことに慣れていたのは自分だけではない。
周りの環境も剛田氏の暴力に頼り切っていた事実があった。
剛田氏が暴力でおもちゃを取り上げるから、話が進む。
剛田氏が暴力で仲間を守るから、劇場版では褒めちぎられる。
すべての起点となる暴力が失われた今、存在意義そのものが脅かされているという。
「先生! 俺にはやっぱり暴力しかないんです!!
相手を傷つけないような暴力ならツッコミとして判断されるはずです!!」
「剛田さん! 暴力中毒に負けないでください!
ほんのちょっぴりの誘惑に負けてしまうと、今後も暴力に依存し続けますよ!」
「だったらどうすればいいんですか!?」
「暴力を徹底的に排除するしかありません!」
医者はクリニックの奥に患者を通した。
極秘裏に研究されていた暴力封印の強制ギプスが収められていた。
「これは……!」
「見たところ、あなたは暴力の誘惑に今にも負けそうになっている。
でもこれをつけていれば、もうあなたの体から暴力が発生することはありません」
「これをつければ……」
「ええ、あなたのキャラクター性の大きな転換期となるのは間違いありません。
でもこれまでの暴力キャラの殻を破るチャンスでもあります」
「俺は……俺はガキ大将だ! こんなのにおびえてたまるか!!」
剛田氏は強制ギプスを体に付けた。
服の上からもわかるほど、体がひとまわり大きくなった。
「あと、ちなみに副産物としてこれをつけると大リーグボールが投げられるようになります」
「その情報入りますか?」
医者はこれで一安心と胸をなでおろした。
その後、剛田氏は暴力事件でワイドショーをにぎわせた。
医者は強制ギプスを外したのかと慌てて剛田氏の下へ向かった。
「剛田さん!! いったいどうしたんですか!! ギプスは!?」
「ああ、先生。もちろんつけていますよ。
それにこれは自分では脱げないようになってるじゃないですか」
「だったらどうして暴力を振るえたんですか!?」
「先生、信じてください。俺は暴力なんて振るっていません」
剛田氏の訴えに医者はうんうんとうなづいた。
「ええ、わかっています。わかっていますとも。
あなたは暴力をけしてふるっていない。誤解されているだけです」
「先生……!」
「話してください。いったい何があったんですか?」
「ついムカッと来たときメガネの奴に
"ウジ虫ヒモクソメガネ"となじったあとで
SNSに悪口を書き込みまくっただけです!!」
「言葉の暴力!!」
医者は剛田氏に愛の鉄拳を放った。
たけし!あんた店番をサボってこんなところで暴力治療して!! ちびまるフォイ @firestorage
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