劉裕論54 明末 李卓吾

李卓吾りたくご(明末)

この人の名前が微妙に記憶に引っかかってるのは、確か諸子百家の注釈系でこの人の手によるものがあったからだと思う。ゴリゴリの陽明学ようめいがく者なのだそう。陽明学っていまいち把握してないんだよなー。ともあれ先鋭化した「儒」思想の流れの先にいる人で、そう言う視点から劉裕りゅうゆう評を読めるといいんでしょう。




卓吾先生は仰っている。


劉裕は占いの言葉を信じて司馬昌明=孝武帝を殺し、恭帝を立て、しかも傅亮を派遣して禅譲をそそのかさせた。ここで恭帝は欣然と筆を執り、言っている。「晉はすでに、長らく天下の主たりえてはいなかった。ひとえに劉裕殿のおかげで延命していたに過ぎぬ。ならばこの禅譲も、大人しく受け入れようというものだ」そうして玉座より瑯邪王のための屋敷に退いた。


劉裕の功績、威徳は確かなものであり、国内のものがみな劉裕に帰服して久しかった。一方で晋の権威は衰弱に衰弱を極め、建康北東に僑置された琅邪郡の一角のみがその所領でしかなかった。ならば漢の献帝のごとくその生を全うさせたところで、どこに障害があっただろうか?どうしてあえて兵を踏み込ませ、殺害までする必要があっただろうか? 司馬懿によって晋にもたらされた害毒の報いと言ってしまえば、確かにそれまでである。しかし、劉裕ほどのものであればこの害毒の連鎖を断ち切ることができたのではないか? だと言うのに、罪なき二人の君主を殺害してしまった。そうして自らのもとに害毒を招き入れてしまったのだ。


このため劉裕の息子、劉義符りゅうぎふは即位して間もなく傅亮に殺されている。その後の子孫らもお互いに殺し合い、まともに宗家を残せてもいない。その末に蕭道成しょうどうせいによる簒奪を受けているわけである。ここにいたり、害毒が巡り巡ったのだと言うしかあるまい。




李温陵集卷之十三

卷之十四 读史一

https://ctext.org/wiki.pl?if=gb&chapter=185874&remap=gb


卓吾子曰:劉裕以讖故弒昌明,立恭帝,又遣傅亮諷帝禪位,帝訢然書詔曰:晉氏已久失之,重為劉公所延,今日之事,本所甘心。遂遜于瑯邪第伕。裕之功德巍巍,四海皈心久矣。晉氏衰弱已極,即以瑯邪一區處之,如漢獻故事,亦自無患,何必更使兵人逾垣而入弒之也?雖司馬懿之毒必發,虐必報,然為裕者亦可省此毒手矣。連弒二無罪之君,以自種毒,故裕子義符即位未幾,復為傅亮所弒,子孫繼立,自相屠夷,無遺孑者,而蕭道成遂勒兵而入,毒亦遂發矣。


卓吾子曰く:劉裕は讖故を以て昌明を弒し、恭帝を立て、又た傅亮を遣りて帝に禪位を諷じ、帝は訢然として詔を書きて曰く:晉氏は已に久しく之を失せど、重に劉公に延ぶらる所為れば、今日の事、本より心に甘んぜる所なり、と。遂に瑯邪第に遜きたる。裕の功德は巍巍にして、四海の皈心は久しかりき。晉氏の衰弱は已に極まり、即ち瑯邪の一區を以て之を處し、漢獻が故事の如くせば、亦た自ら患無かりきに、何ぞ必ずしも更に兵人をして垣を逾え入りて之を弒さるや? 司馬懿の毒の必ずや發せると雖ど、虐には必ずや報いあらん。然して裕為らば亦た此の毒手を省くべからん。連ねて二なる無罪の君を弒し、以て自ら毒を種く、故に裕が子の義符は即位し未だ幾ばくもなく、復た傅亮に弒さる所為る。子孫の繼いで立つも、自ら相い屠夷し孑んどの者遺る無く、而して蕭道成の遂に兵を勒し入りて、毒は亦た遂に發したるなり。




悲報:劉裕様孝武帝まで殺害されてた。


しかし猫も杓子も劉裕を圧倒的権力者として語りたがりますが、その前提、疑ったほうがいいんじゃないですかねぇ?


正直これだけ晋が皇帝の値段ガタ落ちにさせてんのに、劉裕が皇帝になったからって易易と値段が刷新されるはずねーでしょう、という気がするのですよね。唐宋明で皇帝の値段がまた跳ね上がってるから、その感覚でこいつらしゃべくってんだろ、と。


自分は、これも何度も書いてますが「晋帝を殺しておかないと危ういくらい劉宋政権の権威は脆弱だった」と考えてます。だからこそ徐羨之や傅亮なんぞがあっさり劉義符を殺せちゃったんじゃ、って。っつーかマジで徐羨之空気やね!?


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