劉裕論47 明末 王夫之13上


さて、めでたくも宋帝そうていしんに代わって天子となったわけであるが、この内実は、晋と比べていかなるものであったろうか。


結論から言えば、比べるまでもなく、宋のほうが優れている。そもそもも晋も義を通さぬままに簒奪をなしている。故にこそ直後には別なる不義の者にその座を狙われ、奪われているではないか。因果応報、当然のことである。


ただしそう氏は簒奪ののち、それでも天下を小康状態には落ち着けた。曹芳そうほうにせよ曹髦そうぼうにせよ、先主の業を継いで天下を治めるには過分なかったはずである。しかしながら司馬しば氏はその野心をむき出しとし、皇位強奪の謀略を推し進めた。


そんな司馬氏の天下にあっては、何が起こったか? いちどは桓玄かんげんに皇位を奪い取られたではないか。滅ぼしたはずの五斗米道ごとべいどうが復活し、建康けんこうを落とされかけたではないか。こうして脆弱になった国境守備の状況を姚興ようこう慕容徳ぼようとくにつけ込まれ、領土を奪われたではないか。そのような中における安帝あんていのリアクションは、人の死体を肉としてみるがごとくであったという。人心は晋より離れ、それを留めることもできなかった。


宋は偉大なる戦功を挙げた上で国阼を晋より譲り受けている。これは司馬氏が人の弱みにつけ込んでこぼれ落ちた天下を拾い上げたが如き振る舞いとは全く違う。聞けば論者たちはさも晋が正統の国であるかのごとく語り、宋の軍事力が天下統一に及ばなかったことを批判している。しかしながら、ただその勢いだけを推して皇道の正しきを語ることが許されようか?


「晉はしょくを平らげ天下を統一した。これは宋にはなしえなかったことである」と語る者がある。しかしながら、そもそもにして魏と呉は僭称者である。加えて晋の軍事力なぞ魏の尻馬に乗ったようなものであり、これのどこを晋の功績とできようか? むしろ晋は蜀漢を滅ぼし、りゅう氏二十代余の宗廟の祭祀を滅ぼすことで、今昔の人々を悲しませたではないか。


加えて、ひとたびこそ天下を統一はできたが、それをまともに後世に引き継ぐこともできておらぬ。このような国を捕まえて、どうして天下の雄だなどと言えるのか?




宋得天下與晉奚若?曰:視晉為愈矣,未見其劣也。魏、晉皆不義而得者也,不義而得之,不義者又起而奪之,情相若、理相報也。雖然,曹氏有國,雖非一統天下,而亦汔可小康矣。芳與髦,中主也,皆可席業以安。而司馬氏生其攘心以迫奪之,視晉之桓玄內篡、盧循中起、鮮卑羌虜攘臂相加,而安帝以行屍視肉離天下之心,則固不侔矣。宋乃以功力服人而移其宗社,非司馬氏之徒幸人弱而掇拾之也。論者升晉於正統,黜宋於分爭,將無崇勢而抑道乎?固將曰:「晉平吳、蜀一天下矣,而宋不能。」魏、吳皆僭也,而魏篡,則平吳不可以為晉功;若蜀漢之滅,固殄絕劉氏二十余世之廟食,古今所肅然而傷心者。混一不再傳而已裂,土宇之廣,又奚足以雄哉?


宋の天下を得るや晉とで奚若? 曰く:「晉を視るらば愈いよ為らん、未だ其の劣れるを見ざるなり。魏、晉は皆な不義にて得たるなれど、不義にて之を得たらば、不義なる者又た起ちて之を奪う、情は相い若くせば、理は相い報ゆるなり。雖りと然ど、曹氏に國有りて天下を一統せるに非ざると雖ど、而して亦た汔んど小康なるべし。芳と髦とは中主なるにして、皆な可業に席し以て安したるべし。而して司馬氏は其の攘心を生し以て迫りて之を奪わば、晉の桓玄の內篡、盧循の中起、鮮卑羌虜の攘臂の相い加うるも安帝の行屍視肉を以て天下の心の離るるを視たらば、而して則ち固に侔しからざらん。宋は乃ち功力を以て人を服し其の宗社を移すは、司馬氏の徒だ人の弱まるを幸いとし之を掇拾せるに非ざるなり。論者は晉を正統に升せ、宋の分爭を黜すも、將た崇勢にて道を抑うる無からんか? 固に將に曰く:「晉は吳、蜀を平らげ天下を一としたるも、宋は能わず」と。魏、吳は皆な僭なり。而して魏の篡ずるに則ち平吳は以て晉が功と為すべからず。蜀漢の滅ぶが若しきは、固より劉氏二十余世の廟食の殄絕し、古今の肅然とし傷心せる所の者ならん。混一せど再傳せずして土宇の廣きは已に裂かる。又た奚んぞ以て雄たるに足らんか?


(武帝1-1)




どうしよう、大真面目に蜀漢正統論言い出してるよこの人……本人が「魏と晋の権威を承認する形でしか皇位につけなかった」ことも無視して……


まぁいいや、すべては後半のための前振りなのです。「ぼくの大好きな劉裕様が最高! そのためにはまずストレス展開がないとね!」とばかりの話の進め方。はい、次話、王夫之さんがかっ飛ばします。ちょっと恥ずかしくなるくらい。


これ書いたとき王夫之さん、晩年だったんだよね……? マジで……?

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