劉裕論39 明末 王夫之 8
創業君主には生まれ故郷からずっと付き従う部下がいる。また亡命をなした君主には旧来の土地より付き従った配下がいる。こういった旧来の配下に対する思いやりの心、様々な取り決めに例外をもたらす。それ自体が悪いことでもあるまい。しかしこれら例外が、往々にして天下に害をなすものである。故郷に残された墳墓を擲ち、亡命先の地で仮の戸籍を得、頼れるものが自分の力のみである、と言う状況は、確かに同情にも値しよう。人々を法律で縛る、時には征役でもって懲らしめる、これらもやむなきことである。しかし例外の存在が、これらの強制力を阻害する。
こうして君主のもとに古くより付き従っていた者たちは富貴を獲得し、安全を確保し、広大な屋敷や土地を手に入れ、従僕や側妾を囲い込む。人民は王のための人民、土地は王のための土地であるべきであろうに。しかも彼らは賦役より逃れ、自らの富の余禄を姻戚らにまで及ぼし、役職ばかり高い地位に就くものの、仕事はまるでしようともしない。不肖の親類を官職にねじ込み、王よりの覚えめでたくし、私的な利益をむさぼり、なお飽き足るとことを知らずにいる。その上で新たに開拓した土地では住民に重い労役を課し、その上で彼らの繁栄の資源は残さない。ふつう君主や大臣といった立場のものは土地を預けられたら、己が資源を投じて土地の発展を図り、あるいは守るべきであろうに、彼らはそのすべてを己の財産を増やすことにしか当て込もうとせぬのだ。
考えてもみれば、かの
これらは国が損害を受けるだけではない。移り住んだ先で横暴な振る舞いをなせば、彼ら自身とていつまで栄華を保ち得るのだろうか?
さて、では
開刱之君,則有鄉裏從龍之士;播遷之主,則有舊都扈蹕之人;念故舊以敦仁厚者所必不能遺也。然而以傷治理為天下害,亦在此焉。夫其捐棄墳墓、僑居客土以依我,亦足念也;而即束以法制,概以征役,則亦不忍也,而抑不能。然以此席富貴、圖晏安、斥田宅、畜仆妾、人王人、土王土,而蕩佚於賦役之外;河潤及於姻亞,登仕版則處先,從國政則處後,不肖之子弟,倚閥閱,營私利,無有厭足;而新邑士民獨受重役,而礙其進取之途。夫君若臣既托跡其地,恃其財力以相給衛,乃視為新附而屈抑之以役於豪貴。則以光武之明,而南陽不可問之語,已為天下所不平;又甚則劉焉私東州之眾,以離西川之人心而速叛;豈徒國受其敗,彼僑客者之榮利,又惡足以保邪?西人之子,隨平王而東遷者也,譚大夫致怨於酒漿佩璲,而東諸侯皆叛。驕逸者之不可長,誠君天下者所宜斟酌而務得其平也。晉東渡而有僑立之州郡,選舉偏而賦役減,垂及安帝之世,已屢易世,勿能革也。江東所以不為晉用,而視其君如胡越,外莫能經中原,內不能捍篡賊,誠有以離其心也。劉裕舉桓溫之法,省流寓郡縣而申士斷,然且格而不能盡行。其始無以節之,後欲更之,難矣。
開刱の君には、則ち鄉裏より寵に從うの士有り。播遷の主には、則ち舊都より扈蹕せる人有り。故舊を念いて以て仁厚を敦くする者の必ず遺るる能わざる所なり。然り而れど以て治理を傷り天下の害を為すも、亦た此に在りたらん。夫れ其の墳墓を捐棄し、客土に僑居し以て我に依るも、亦た念うに足るなり。而して即ち束ぬるに法制を以てし、概すに征役を以てするは、則ち亦た忍ばざるなり、而して抑そも然る能わず、此を以て富貴に席り、晏安を圖り、田宅を斥き、仆妾を畜う。人は王が人にして、土は王が土なるに、賦役の外に蕩佚し、河潤は姻亞に及び、仕版に登るは則ち先に處り、國政に從うに則ち後に處り、不肖の子弟を閥閱に倚せ、私利を營み、厭足を有す無く、而して新邑の士民は獨り重役を受け、而して其の進取の途を礙ぐ。夫れ君、若しくは臣の既に跡を其の地に托し、其の財力に恃みて以て相い給衛し、乃ち視て新附と為すも、而して之を屈抑し、以て豪貴に役ず。則ち光武の明を以てするも、而して「南陽は問うべからず」の語、已に天下の平らかざる所為る。又た甚しきは則ち劉焉の東州の眾を私し、以て西川の人心を離し、而して速やかに叛ず。豈に徒たに國は其敗の受くるのみならんや? 彼の僑客なる者の榮利も又た惡んぞ以て保つに足らんや? 西人の子は平王に隨いて東遷せる者なれば、譚の大夫は怨みを酒漿佩璲に致し、而して東の諸侯は皆な叛ず。驕逸なる者の長ずべからざるは、誠に天下に君たる者の宜しく斟酌し而して其の平を得るを務むべき所なり。晉は東渡し、而して僑立の州郡を有す。選舉は偏り而して賦役は減じ、安帝の世に垂及し、已に屢しば世を易うれど、革む能う勿りたるなり。江東の晉の用と為らずして、其の君を視ること胡越が如く、外に能く中原を經る莫く、內に篡賊を捍ず能わざるの所以、誠に以て其の心の離れたる有ればなり。劉裕は桓溫の法を舉し、流寓の郡縣を省きて士斷を申せど、然して且つ格し、盡く行う能わず。其の始めに以て之を節する無くらば、後に之を更ぜんと欲せど難かしかりき。
(安帝17)
不平等が招くクソな事態の禍根が長々と続いた、とするわけですが、さて、これは「劉裕が地元の人間を特別扱いした」のか、それとも「地元の家門たちからの圧力を受けた」のか、どちらなんでしょうね。正直このへんって今まで読んできた中ではいまいち判然としなかったんだよなぁ。
そういううかつに確定できないものを「こうに違いない!」と断言してしまうのは、今の時代の歴史学的あれこれからすれば「ちょ待てよ」になるわけですが、うーん。似たようなことが王夫之の時代にもあったりしたのかな。他の論ではわりといろんな時代の例が取り沙汰されてるけど、ここに出てこないのは、ううむ、どう判じたものか。まぁ「不平等が招くものはクソ」で良さそうではあります。
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