劉裕論36 明末 王夫之 6上

お国がまさに滅ばんとしているとき、国内にて蛮夷に迫られるよりは、と蛮夷のもとに逃げ出した者がいる。その先駆者が司馬國璠しばこくはんら兄弟である。そののちには司馬楚之しばそし司馬休之しばきゅうし姚興ようこうのもとに走り、更に後世には劉昶りゅうちょう蕭寶寅しょうほういん拓跋たくばつより王爵を与えられている。そして日々蛮族を率い南侵してきた。家を裏切り、国をなげうち、畜生とまで成り果てて人の世を覗き見る、そこまでして生きながらえようとし、あまつさえ獣の食いカスにあずかって忠や孝をうそぶくなど、どこに祖霊によって受け入れられる余地があろうか?


尊ぶべきは人君であり、親しむべきは祖父や父である。お国や父祖が失われなんとするとき、やむを得ずお国に逆らうことがあっても、そこにまだ義がないと言い切ることはできまい。しかしそれは、あくまでその忠や孝の思いが義憤として発露される場合に限り、である。例えるならばかん劉信りゅうしん劉崇りゅうすう王莽おうもうの専制を憎み、決起したがごとく。このとき王莽は一応漢の臣ではあったが、漢室を思えば討伐されるべき存在であり、故に彼らの決起は尊ばれるものとなった。


とはいえ南陽なんように散らばっていた劉氏の諸家は、静かに時を待っていた。そして時を得て動き出せば、最も功績の大きいものは皇帝にまでいたり、功績が比較的小さくとも侯爵にまで上り詰めた。もっとも彼らは王莽の首を取ることができなかったわけだが。


逆賊を討伐するだけの情勢が整っていないとしても、それですぐさま一族が滅ぼされる、だなどと言ったことがあるだろうか? 山に潜み、波打ち際にとどまり、姓名を変え、農夫や漁夫と混じり合い、その身を全うし、一族を生きながらえさせる。このような処方をとることを、どうして無道と呼ぶことが出来るだろうか?




國之將亡,懼內逼而逃之夷,自司馬國璠兄弟始。楚之、休之相繼以走歸姚興,劉昶、蕭寶寅因以受王封於拓拔氏,日導之以南侵,於家為敗類,於國為匪人,於物類為禽蟲,偷視息於人閑,恣其忿戾以僥幸,分豺虎之余食,而猶自號曰忠孝,鬼神其赦之乎?夫尊則君也,親則祖若考也,宗祏將毀,不忍臣人而去之,義也。雖然,茍其忠孝之情發為義憤,如漢劉信、劉崇蹀血以起,捐脰領而報宗祊,斯則尚矣。若其可以待時而有為,則南陽諸劉、大則帝而小則侯,仇讎之首不難斮於漸臺也。抑或勢無可為而覆族之足憂乎?山之椒,海之澨,易姓名、混耕釣、以全身而延支裔,夫豈遂無道以處此哉?


國の將に亡びなんとするや、內逼を懼れ夷に逃れ之くは、司馬國璠の兄弟より始まる。楚之、休之は相い繼ぎて以て姚興に走歸し、劉昶、蕭寶寅は因りて以て於拓拔氏より王を受け、日び之を導きて以て南侵す、家にては敗類と為し、國にては匪人と為る。物類にては禽蟲と為り、視息を人閑に偷み、其の忿戾を恣とし以て幸いを僥め、豺虎の余食を分け、而して猶お自ら號して忠孝と曰うは、鬼神は其れ之を赦さんか? 夫れ尊は則ち君なり、親は則ち祖、若しくは考なり。宗祏は將に毀たれんとし、人に臣たるを忍びずして之を去るは義なり。然りと雖ど、茍しくも其の忠孝の情は發し義憤と為り、漢の劉信・劉崇の血を蹀みて以て起ち、脰領を捐て宗祊に報ゆるが如きは、斯く則ち尚し。若し其の以て時を待ち為せる有るべきは、則ち南陽の諸劉、大は則ち帝にして小は則ち侯たり、仇讎の首を漸臺に斮る難きなるなり。抑そも或いは勢為すべく無きも、而して覆族の憂足らんか? 山の椒、海の澨、姓名を易え、耕釣に混じ、以て身を全うし支裔を延ぶる、夫れ豈に遂に道の以て此に處せる無きか?


(安帝15-1)




結論。デジコレの訓読に甘えると地獄見るわこれ。と言って自力で訓読すると泣くしなぁ。どうしたもんか。


ともあれ、王夫之おうふしの論を読んでると「この辺の行論を弾圧しなかったしん、マジ王者……」と感じずにおれません。この人の論における大テーマの一つが前節にあった「而夷夏者,義之尤嚴者也」であり、つまり清死ねクソが、のウェートが異常に重いんですよね。


この辺の内容が、後半にて爆発します。思わずそりゃねーわって噴いたよね。乞うご期待!

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