劉裕論3  李延寿・魏収・蕭方等

魏収ぎしゅう「魏書」

魏書97で桓玄かんげん馮跋ふうばつ(北燕の建立者)、劉裕をひとところにまとめ、ことあるごとに誹謗を加えながらその来歴を語っている。ここで劉裕については「劉交りゅうこうの子孫と自称しているのだが、人々は元々の姓はこうだったのではないかと噂している」と出所不明のゴシップを紹介。これを史論と合わせて読むと、項という姓に野蛮な南人という属性を付与しているのが見える。



編纂者は思う。桓玄は南土にはびこり、馮跋、劉裕は政権の空白に乗じた。


それにしても、その凶暴な資質を剥き出しとし、迷妄の限りを尽くし、天下の笑いものとなるよう振る舞うのは、東夷とうい人のサガなのだろうか?




蕭方等しょうほうとう「三十国春秋」

南朝梁なんちょうりょうの皇族。侯景こうけいの乱に巻き込まれ、滅びゆく南朝国家を見届けつつ、戦死した。ここで言う三十国には三国志さんごくし以降の国もカウントされており、「残っていれば」魏晋南北朝時代最古の総括書となった。ほぼ散逸し、いくつかの逸文が残るのみであるため、全体の思想を伺うのは難しい。



さても神蛇や龍は奥深くに潜み、魚や貝はその周囲を平然と泳ぎ回るものである。それを龍や神蛇が気にかけようか。


歴史を紐解くに、かん劉邦りゅうほう様は雍齒ようしを殺したいほど憎んでいたが、その功績は抜群であったので、情を殺し、功績をたたえた。


魏の曹操そうそう様は、若き折に梁鵠りょうこくより正当な評価を得てはいなかったが、貴顕となられた後、梁鵠の筆才を愛し、重用された。


地位の低い頃に嫌いであったからと、貴顕となってなおもその嫌悪を引きずってしまっても良いものであろうか。


さて劉裕様は、もと桓玄の配下たる王謐おういつを公の地位につけ、刁逵ちょうきを族滅させた。


確かに劉裕様は刁逵に多額の借金を抱えさせられ、その負債を王謐に助けてもらっている。そのなさりようは酬恩報怨とこそ呼ぶべきであろうが、どうにも狭量には過ぎまいか。




李延寿りえんじゅ「南史」

南北朝時代を総括した歴史書「南史」「北史」を、もととうの対抗勢力に仕えていた父より引き継ぎ、完成させた。晋書編纂にも携わったとあり、「南北朝時代」を総括した最初期の人物と言える。南史にある武帝論は概ね沈約しんやくの内容を引いているが、そこに下記のオリジナル論説を加えている。



劉裕りゅうゆう様は五十才頃、ようやく幼い後継者が育ちつつある、という状況であった。その教育方針は甘やかしであり、厳しさをもって接することはなかった。


結果、劉義符りゅうぎふ様は易きに流れる性状となり、それを臣下が諌めるも聞く耳を持たず、何かを望めば思い通りとなり、苦難を乗り越える体験もなかった。


このような性状のお方に危機、破滅が訪れるのは当然であり、その結末は起こるべくして起こったと言えよう。なんとも悲しきことか!




史臣曰:桓玄侏張,馮、劉乃厥。疑窮凶極迷,為天下笑,其夷、楚之常性乎?

史臣曰く:桓玄は侏張し、馮、劉は乃ち厥す。疑うらく、凶を窮め迷を極み、天下の笑為るは、其れ夷、楚の常性なるか? と。

(魏書97)


蕭方等曰:「夫蛟龍潛伏,魚蝦褻之,是以漢高赦雍齒,魏武免梁鵠。安可以布衣之嫌,而成萬乘之隙哉!今王謐為公,刁逵亡族,酬恩報怨,何其狹哉!」

蕭方等は曰く:「夫れ蛟龍は潛伏し、魚蝦は之に褻す,是を以て漢高は雍齒を赦し、魏武は梁鵠を免す。安んぞ布衣の嫌を以て、萬乘の隙を成すべかんか! 今王謐を公と為し、刁逵が族を亡ぼしたるは、恩に酬い怨に報うも、何ぞ其れ狹なるか!」

(三十国春秋)


論曰:武皇將涉知命,弱嗣方育,顧有慈顏,前無嚴訓。少帝體易染之質,稟可下之姿,外物莫犯其心,所欲必從其志,嶮縱非學而能,危亡不期而集,其至顛沛,非不幸也。悲哉!

論じて曰く:武皇の將に知命に涉らんとせるに、弱嗣の方に育たんとし、顧るに慈顏を有し、前に嚴訓無し。少帝の體は易染の質にして、稟ぜるに可下の姿なれば、外物に其の心を犯せる莫く、欲せる所は必ず其の志に從い、嶮縱なるは學ぶに非ざるして能わば、危亡は期せずして集い、其の顛沛に至れるは不幸に非ざるなり。悲しきかな!

(南史1)



南史はやや距離を置いた論。劉裕の失敗は後継者教育にあったとする。確かに劉義符、蔡廓にまで問題外って言われてたし、本当に問題外だったんでしょうねえ。


魏書の方は、なんつーかまぁ、差別意識満々で素敵☆ ポリコレは死んだ(そもそも存在してません)

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