「世説新語」何氏語林

 世説新語に劉裕が載ってないことに発狂した劉裕キチは、遂に発狂した。(本日の語彙力が滅んだあらすじ)


 よーしオーケーまずは順を追って話そうじゃないか。まず、劉義慶、つまり劉裕の甥が編纂した世説新語。このなかには殷仲文がいる。桓玄が、王恭がいる。この三人の逸話、かなりいっぱい載ってる。劉裕と思いっきり同時代。と言うか桓玄なんぞ劉裕より年下。けど貴い方なんぞおいそれと逸話集になんぞ載せらんない。よって劉裕はいない。分かる。分かるよ。死ね。


 と言う訳で、世説新語みたいなエピソード集ほかにねえのかよ! と漁り始めた。すると辿り着いたのが「世説新語補」。明の王世貞が、劉孝標の注した劉義慶の『世説新語』と明の何良俊の『語林』とを併せて取捨刪定したものである、と言う。なるほど。これが世説新語の続編と明代までは認識されてるのね。よっしゃじゃあ探したらんかい「語林」。で、探した。本編も見っけた。


https://zh.wikisource.org/wiki/%E4%BD%95%E6%B0%8F%E8%AA%9E%E6%9E%97_(%E5%9B%9B%E5%BA%AB%E5%85%A8%E6%9B%B8%E6%9C%AC)


 四書文庫かよ!


 ネット文書なんだから大人しく横書きになってろボケ、という事で、吸い出して乱暴に編集しました。そしてカウント。世説新語1130編に対して2300編超。ワァーオ。しかも明の時代の編集だから、漢代から明近くの時代までのエピソードがもっさり。


 ひとまず差し上げます。誰かこれで遊んで。

 タブ区切りテキスト形式。なのでコピペってエクセルに貼りつけるといろいろ遊べます。たぶん。自分の分かる範囲で時代区分も入れましたんで、ちょっと遊びやすいはずです。

 →http://liuyu.up.seesaa.net/image/E4BD95E6B08FE8AA9EE69E97.txt


 とまあそんなことはさておき、この何氏語林、どんな感じなんだろうね。収録エピソードの傾向とかを、世説新語と較べてみましょう。左の数字が何氏語林、真ん中の数字が世説新語で、右端は世説新語基準で見たエピソード占有率の相違。


 

徳行 198(8.3%)- 47(4.2%) -4.1%

言語 148(6.2%)-108(9.6%)  3.4%

政事  82(3.4%)- 26(2.3%) -1.1%

文學 165(6.9%)-104(9.2%)  2.3%

言志 144(6.0%)-       -6.0%

方正 156(6.5%)- 66(5.8%) -0.7%

雅量  81(3.4%)- 42(3.7%)  0.3%

識鑒  90(3.8%)- 28(2.5%) -1.3%

賞譽 198(8.3%)-156(14%)  5.5%

品藻  87(3.6%)- 88(7.8%)  4.1%

箴規  84(3.5%)- 27(2.4%) -1.1%

棲逸  87(3.6%)- 17(1.5%) -2.1%

捷悟  16(0.7%)- 7(0.6%) -0.1%

博識  27(1.1%)-       -1.1%

豪爽  28(1.2%)- 13(1.2%)  0.0%

夙慧  32(1.3%)- 7(0.6%) -0.7%

賢媛  19(0.8%)- 32(2.8%)  2.0%

容止  44(1.8%)- 39(3.5%)  1.6%

自新  8(0.3%)- 2(0.2%) -0.2%

術鮮  38(1.6%)- 11(1.0%) -0.6%

巧藝  16(0.7%)- 14(1.2%)  0.6%

企羡  49(2.1%)- 6(0.5%) -1.5%

寵禮  53(2.2%)- 6(0.5%) -1.7%

傷逝  37(1.5%)- 19(1.7%)  0.1%

任誕  77(3.2%)- 54(4.8%)  1.6%

簡傲  63(2.6%)- 17(1.5%) -1.1%

排調 115(4.8%)- 65(5.8%)  0.9%

輕詆  76(3.2%)- 33(2.9%) -0.3%

假譎  13(0.5%)- 14(1.2%)  0.7%

黜免  21(0.9%)- 9(0.8%) -0.1%

儉嗇  3(0.1%)- 9(0.8%)  0.7%

侈汰  29(1.2%)- 12(1.1%) -0.2%

忿狷  11(0.5%)- 8(0.7%)  0.2%

讒險  10(0.4%)- 4(0.4%) -0.1%

尤悔  11(0.5%)- 17(1.5%)  1.0%

紕漏  38(1.6%)- 8(0.7%) -0.9%

惑溺  27(1.1%)- 7(0.6%) -0.5%

仇隙  8(0.3%)- 8(0.7%)  0.4%



 言語と言志の違い is 何って感じです。調べない。傾向としては褒め言葉が減って悪口が増えてる、と言う感じ。排調の数が多いなーと言う印象でしたが、比率的にはむしろ下がってた。あと棲逸の数が増えてるのはちょっと興味深いですね。


 で、劉裕キチなので、劉裕周り以外はざこっと切り捨てます。そしたら以下のようなエピソードがありました。





言語41

 殷仲文嘗勸宋武帝畜伎帝曰我不解聲仲文曰但畜自解帝曰畏解故不畜


 殷仲文が劉裕に妾囲えばよ、と言うと、劉裕「囲う意味が分からん」と返す。「囲ってみろよ、そしたらわかるから」と言う殷仲文に、改めて劉裕は返す。「分かっちまうのがこえーんだよ。だから囲わねえの」。



言語44 

 宋武帝西討劉毅以諸葛長民監留府長民後有異謀猶豫不能發因屏人語劉穆之曰悠悠之言云太尉與我不平何以至此穆之曰公泝流逺伐以老母弱子委節下若有一毫不盡豈容若此長民意乃小安


 劉毅征討の際、諸葛長民を太尉府の監督に据えた。長民には謀叛の意図があったが、ぐずぐずして決起しないでいた。密かに劉穆之と語る。「なんかちらほら俺と劉裕の仲悪いって噂が聞こえてくんだけどさー、なんでだろうね(棒読み)」これに対して劉穆之が涙を流しながら「将軍は、貴方に母上や幼い子供を託しています。仲悪い相手にこんな役目は任せませんよ!」。長民は安心した。なお。宋書劉穆之伝のほぼコピペ。



言語45

 宋武帝大會戯馬臺令諸人賦詩王曇首詩先成


 劉裕が戯馬台に沢山の人を集めて「おう詩読めよお前ら」って命じたら王曇首が速攻で作った。宋書王曇首伝まんまやん。



言語46

 宋武帝既正位語羣臣曰朕始望不至此衆人咸撰辭欲稱功徳王太保率爾對曰所謂天命求之不可得推之不可去衆以為知言


 劉裕の、幹部たちの前での愚痴。「俺こんな地位になんかつきたくなかったんだよ」って漏らすと、みんなが劉裕の功績だとか功徳だとかを褒め称える。その中で王弘がぴしゃりと「天命です。求めて得るものでもなければ、辞退なんぞできるはずもないです」という。みんながやべえわかってるなこいつ、と。王弘伝ですね。



言語47

 髙祖辟宗少文為主簿不起問其故少文答曰棲邱飲谷三十餘年髙祖善其對


 劉裕の招聘を断った隠者宗炳。理由を聞かれて「この谷を愛しているからです」と答えて、なら仕方ないか、と言われた感じ? 宋書隠逸伝。




言志41

 劉穆之性奢豪食必方丈旦輒為十人饌未嘗獨餐每至食時客止十人以還帳下依常下食以此為常嘗白宋武帝曰穆之家本貧賤贍生多闕叨忝以来雖每存約損而朝夕所須微為過豐此外不敢一毫負公


 劉穆之のコミュ達人ぶりについて劉裕に「すんません元々貧乏だったもんでついつい客に豪華な食事振る舞いたくなるんです」って言ってる感じ? 宋書劉穆之伝。



方正47

 桓𤣥作逆晉安帝出宮時徐野民陪列悲動左右及𤣥簒立野民又獨哀感涕泗交流謝尚書謂之曰徐公將無小過也野民收淚言曰君為宋朝佐命身是晉室遺老憂喜之事固自不同乃更欷歔


 桓玄が簒奪した時に安帝を思ってギャン泣きした徐広(余裕で桓玄アンチ行動)、劉裕が皇帝になった時もやっぱり涙を流す。「ちょ、こんなおめでたい席に」ってビビる謝晦に「君は宋の臣だ。けれどね、私は晋の遺老なのだよ」ってコメント。首尾一貫した硬骨漢ジジイである。宋書晋書徐広伝。



識鑒36

 劉穆之旣為宋武帝委任心懐警惕嘗語所親曰貧賤常思富貴富貴必踐危機今日思為丹陽布衣不可得也


 劉裕の信任を深く得ている劉穆之だが「貧乏だった時には金持ちになりたいと思ったんだが、今となってはいつ転落するかがわからなくて怖い。と言って濛貧乏だったころにも戻れんしなあ」と。えーとこれ晋書諸葛長民伝なんですけど。



識鑒37

 劉裕布衣時人未之識唯王謐獨竒貴之嘗語裕曰卿當為一代英雄


 雑魚だった頃の劉裕を王謐さんだけは英雄だと思ってましたという話。宋書よみゃ即ぶち当たりますね。



企羡15 

 謝叔源誅後及宋武帝受禪謝晦言曰陛下應天受命登壇日恨不得謝益夀奉璽紱帝亦歎曰吾甚恨之使後生不得見其風流


 謝混が劉裕の即位の儀式に関われなかったことを恨めしく思うと表明する謝晦と、あの風流を失ったのは俺もつらいと返す劉裕。晋書謝安伝附伝謝混伝。



簡傲16

 宋髙祖為桓修撫軍中兵㕘軍嘗詣謝景仁諮事謝與語大悦因留髙祖共食食未辦且為𤣥所召𤣥性促急俄頃之間騎詔續至髙祖屢求去謝不許曰主上見待要應有方我欲與客共食豈當不得待竟遂飽食然後應召


 桓玄の配下であった頃の劉裕が謝景仁と出会った。二人は意気投合し、食事する。食事中桓玄の召喚を食らう謝景仁、よっぽどの急用だったらしく再三の召喚命令が掛かる。謝景仁は動かない。「ふざけんな、俺は今劉裕との会食が楽しいんだ」。かっけえなこの人。まあ宋書謝景仁ですけど。




結論。読まなくてよかったわこれ。

晋書宋書にねえ話が読みたかったんですがー。

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