10/12
あかりちゃんの家を出てすぐ、携帯電話がヴヴヴッと震えだした。
柚崎からの「途中参加!」と書かれたメールだった。
とりま放置と思いきや、同じようなメールが着信履歴に50件近くもあった。
どんだけ拘るんだよ……と、俺はドン引き。
そんな俺を物陰から伺っている、鬼畜眼鏡な男にもドン引きだった。
「なんだよ?」
「突然ですまない。僕は影時という者で……キミは古橋の彼氏か何かか?」
「さぁな」
俺に話しかけてきたのは、あかりちゃんを土下座させた影時だった。
鬼畜眼鏡の影時は、誠心誠意といった感じで頭を下げながら言うわけで。
「……古橋を頼む。今のあいつには支えが必要なんだ」
「だから、お前は何を言ってるんだよ?」
「……知ってるんだろ」
「何を?」
「古橋が両親を殺したことだ」
「はぁ|~っ?」
影時とかいう鬼畜眼鏡が、何かトンデモないことを言い出した。
「僕もキミと同じで古橋に聞いたんだ。あいつが自分の両親を殺したって」
「確かに……言ってたな」
殺したようなもの――というニューアンスで。
まさか、こいつはそれを勘違いして。
「黙っていて欲しい」
「……なにを?」
「古橋が両親を殺したことだ。警察には言わないで欲しい」
「おまえさん……何を企んでるんだよ?」
「僕はこれまで必死で実績を作ってきた。古橋に酷い言葉を投げかけたり、古橋の両親への恨みを周囲に言いまくったり、首吊りを偽装するのに必要な道具を自宅に保管したり」
「なるほどな。あかりちゃんの罪を被る為の下準備をしていたと……続きを」
「僕が古橋の罪をかぶって警察に自首するのさ」
「…………お、おぅ」
「古橋が犯した過ちが警察にバレる前に、僕が個人の怨恨で古橋の両親を自殺に見せかけて殺した犯人と」
「…………」
この鬼畜眼鏡……クソバカだ。
真面目キャラを通り越して、純情バカ一直線でいやがる。
あかりちゃんの発言を拡大解釈しただけでなく、無駄に人生を捨てるつもりだ。
呆れて頭痛がする俺は、悲劇のヒーローに酔ったバカに衝撃の真実を告げる。
「本当はこんなことを言いたくないんだが……」
「なんだ」
「あかりちゃん、両親を殺してないぞ?」
「……なにを冗談を」
それから、数分かけて。
勘違いバカに「両親を殺した(ようなもの)」発言の真実を語ってやった。
聞いてる最中、影時はずっと放心していた。
やがて事実を受け入れたのか、ガックリと肩を下ろす。
すべてを言い終えた俺は、影時の耳元で「あかりちゃん、まだ家にいるだろうから誤解を解いてこい。あかりちゃんにはお前が必要なんだ」とアドバイスしてやった。
「さて」
慌てて走り去る影時を見送った俺は、しばし思案する。
純情バカのおかげで物語はご都合主義――ラストに向かって加速している。
推測が確かなら。
俺が主人公の物語は、とても幸せなバッドエンドで終わるはずだ。
そんなことを考えていると、また携帯が鳴った。
『もしもーし! あじさい君ー!』
「柚崎か。今からそっちに合流するから場所教えてくれ」
『ほぇ?』
ちょっと時間ができたから、ちょうどいい。
タイミング抜群な柚崎に感謝しつつ、俺は電話を切った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます