03/12


「何しに来たのよ?」

「さぁな。遊びにでも来たんだろ」


 その日の夜も、廃ビルの屋上にあかりちゃんがいた。

 暇そうに夜空を眺めていたあかりちゃんは、廃ビルの雰囲気と相まって幻想的でした。


 だけど、不機嫌そうな態度はマイナス要素。

 ツンっと素っ気ない口調で、あかりちゃんは俺に言うのだ。


「こっちは、遊びでやってんじゃないのよ」

「遊びで人殺しするより、真剣に人殺しをする方がマシだな」

「褒められても嬉しくないし、あいつは……あたしだから、たぶん人殺しじゃないし」

「そろそろ教えてくれよ。あいつの正体が何者なのか」


 問いかけるが、あかりちゃんは答えない。

 ジト目で俺を見据えながら、不満度1000%の顔つきで言うわけで。


「あいつの正体より、アレはどうしたの?」

「アレ?」

「ドッペルゲンガーが出てくる漫画のタイトル。教えてってお願いしたでしょ?」

「すまん。タイトル忘れた」

「役立たず」

「読んだ記憶はあるけど、肝心のタイトルだけが思い出せなくて……お詫びにコレ」


 申し訳なさそうに、あかりちゃんに貢物を差し出す。

 コンビニの袋で、中身はプリンやミニケーキなどスイーツが何種類か。

 いつぞやに「女の子の機嫌を取るにはプレゼントが一番」と教えてくれた柚崎は、プレゼントの名目で俺の弁当箱から卵焼きを強奪する女だった。


「……ふんっ」


 嬉しそうに鼻を鳴らして、あかりちゃんはコンビニ袋をかっさらう。

 中身を素早く確認して、プリンと、ティラミスと、ミニショコラと、オレンジジュースを抜き取ると、缶コーヒーだけが残った袋を返却してくる。

 ひとつは俺が喰う予定だったのに、ぜんぶ喰われるのは斜め上だった。

 見た目はおとなしいのに、遠慮しないタイプらしい。


「むぐ?」


 あと甘い物は別腹。

 もぐもぐとハムスターみたいにスイーツを頬張ってるし。

 その瞳がキラキラ輝いてるのは、きっとあかりちゃんが女の子だからだろう。


 サンキュー柚崎、お前は正しかった。

 全ての女がこんな単純とは思えないが、目の前の女はド単純ないきものだ。

 目に見えて機嫌が良くなってやがる。


 もぐもぐを続けながら、あかりちゃんは話しかけてきた。


「で、何が聞きたいの? 少しなら付き合ってあげる。なお、彼氏の有無とかスリーサイズとか、ベタなボケをほざいたら――蹴るわよ」

「ミニショコラ、どうだった?」

「甘さ控えめで柔らかな食感。悪くなかったわ」

「なら帰りに買うか……自分用を」

「あうっ」


 悲しげに呟いた俺。

 あかりちゃんは気まずそうに呻いた。

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