05/12


「おふぅ。コレは刺激が強すぎるかも……」

「これは初心者向けの入門編なのです。次にお見せするのは――」

「コレ、どこに入れてるの?」

「やおい穴なのです」


 わたしは、クラスメイト@腐女子にBL漫画を見せてもらっていた。

 これは、


  男性恐怖症☆克服計画 番外編『ボーイズラブで男性恐怖症を克服しよう!』


 の講座だった。うん、分からないよ。


 城崎君は開始3分で「吐き気がする」と、言葉を残してどこかに消えていった。


 とても気の毒なことをしたと思う。

 本気で嫌そうな顔をしてたけど、大丈夫かな?


 話は戻って、番外編の狙いについて。

 腐女子の友達が曰く「ボーイズラブは淑女の嗜み。BLにハマれば男が好きになるのです」という、理解不能でミステリーなことを言われたけど……


 それより、


「やおい穴?」

「解説はお任せなのです。やおい穴とはBL七不思議の1つ、人体に存在しない穴のことです。その起源は古く、エジプト王朝マラ王ピラミッドの壁画にも描かれており、また殷王朝の霊廟に描かれた『山水流絡男姦図』にも、フランスの英雄譚『シンフォニアーッ ~甘き801の夜~』にも登場するのです。そう、やおい穴とは人類の甘い妄想と桃色の性欲が生み出した「架空の性交器官」なのです。肛門と睾丸の中間にある穴がそうです。はい、この時点で「お前は何を言っているんだ?」と、ミルコ・クロコップにお説教を食らいそうな自覚はありますが、BL世界の受け役男性のそこに穴がないと……じゃないと説明できない体位での絡みがボーイズラブな作品には頻出する次第でしてね、腐女子だって正常位でヤリたいんですよ。実際ヤるのは妄想世界の男性ですけど、実在する穴はもともと出す専用で入れる用の穴ではありませんし、場所が場所なのでリアルだと汚いですし、なにより男同士が正常位で合体するには不都合な場所にあるんですよね……でも、正常位で合♂体して欲しい。そんな腐女子の要望に答える穴が、ヒポクラテスが助走して殴りかかるレベルで解剖学的な知識を総スルーした「やおい穴」の正体なのです。ようするに『ある種のファンタジー設定』なので、重箱の隅をつつく「そんなトコに穴はない」という感想は持たず受け入れて下さい。アーッ奥までズッポリ」

「……うん」


 途中から聞き流しました。


 パラパラと、腐女子なクラスメイトが自作したイラスト集を眺める。

 スケッチブックに描かれた題材は、リアルワールドを生きる実在の男子たち。


 ページをパラパラ、目次をチラチラ。


 丸尾君×山田君の『鬼畜眼鏡プレイ』

 永沢君×藤木君の『玉ねぎヘッドプレイ』

 小杉君の『男だけを発情させる媚薬☆開発日誌』


 ……どんなプレイ?


 新たな性癖の目覚めに恐怖しながら、好奇心に惹かれてページをパラパラ。

 腐女子なクラスメイトは、小声でささやくわけで。


「脳内で男性同士を自在に掛け算できるようになれば、男性恐怖症なんてすぐ治るのです」

「……ほんとかなぁ?」

「マジです。男性同士を脳内で好き勝手に絡ませて、調教したり、監禁したり、場合によっては孕ませる。その罪悪感に最初は苦しみますが、克服した先にあるのは腐敗したユートピア。受けでも攻めでも自由自在な、腐ったやおいのエルサレムなのです」

「あはは……わかんないよ」


 同人誌のハードさは増して、クラスメイト@腐女子の鼻息の荒さも増していく。

 なお、男性恐怖症の克服には『まったく役に立ちません』でした。

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