03/12


 自習時間の教室に、わたしの悲鳴が響く。


「無理だよぉぉ! 絶対に無理だからぁぁっっ!」

「ええい! オレ様は覚悟の上だ! 我慢してやれ!」

「ちょっ!? やめぇぇぇ!」


 わたしにお尻を向けて床に四つん這いの女装男子。

 名前は城崎君。教室を代表する奇人変人。


 男性恐怖症のわたしは、筋肉質なおしりをめがけて。

 ――ドカッ

 野球部の男子に借りたMIUZUSO製の金属バッドをフルスイング。


「ぐふっ!」

「……大丈夫? 叩くの強かった?」

「ぬぐぉ……クククッ、なかなかの肩を持ってるじゃないか」

「ヒィィっ!?」


 ニタァァ……と。

 ナミダ混じりの偉そうな態度で女装男子の城崎くんは言った。

 バットを構えるわたしは四つん這いでケツを押さえるイケメン男子に怯える。 


 なんか怖いよ……

 すご~く痛がってるのに他者を見下す偉そうな態度を崩さないのが。


「ばっっかじゃないの?」


 女装男子の城崎くんは、女子からの汚物を見るような目で見られている。

 わたしと城崎君は


 男性恐怖症☆克服計画その1『男を力で屈服させよう』


 をしていた。


 城崎君が曰く「女性にとって男の腕力は恐怖の対象である。この計画は早瀬が男に抱く恐怖の要素の1つを和らげる目的で行われる」とのこと。


 気になる計画内容だけど、無抵抗の城崎君@女装をフルボッコにするだけ。

 女が男を力で屈服させる経験が、男性に対する恐怖を軽減する……らしいけど。


「コレって、ただのSMプレイだよね……?」

「否である! SMとは相互の快楽に奉仕する神聖な行為で、一方だけが快楽を得るプレイではない! 早瀬は知らぬが俺は快楽を覚えていない……痛いだけだっ! 双方の快感なきプレイはSMと認めぬッ! ゆえにこれはSMではなく訓練なのだ!」

「あんたの歪んだ性癖を満たすのに、蒼ちゃんを利用すんじゃないわよ……」

「そうだ城崎! 恥を知れ!」

「ぶっちゃけ羨ましいぞ!」

「くそっ……俺も協力してやる! むしろ混ぜて下さい! 俺も蹴って……むぐ!」

「貴様も本性を表したわねっ!! 成敗! 成敗! 成敗ィィィ!」


 うるさ可愛い大空さんが、今日も盛大にから回っている。

 城崎君に続けと四つん這いになった男子に、無慈悲なローキックの誅罰。


 だけど、大空さんに蹴られる男子は言うの。


「ハァハァ……あ、ありがとうございます!」

「あいつ策士だな」

「ワザと蹴られる発言をして、風紀委員の大空からご褒美をGETするとは」

「同志よ。変態道は奥深い。我々も巧夫クンフーを重ねようではないか」


 男子たちが、なにかを確認しあっている。

 女子たちは、彼らを生ゴミを見る蔑んだ目で言うわけで。


「男子って……」

「ほんと……」

「バカなの」

「早瀬よ! もっとオレ様を痛めつけろ! オレ様を蹴るのだ! それが貴様の恐怖を……待て大空っ! 俺は早瀬の男性恐怖症を克服するた……ぬほぉぉぉ!」

「こんのぉぉぉぉ! 超超超超超ドドドドっ、ド変態ィィィィガァァァ!」

「やめろっ大空! そこは男の大事な……いぎぃぃぃぃぃ!」

「大丈夫かな?」


 わたしが、ポツリ漏らした呟きに。

 教室のだれかが「もう手遅れ」と、すごく的確なコメントをしたり。

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