02/12
ありのまま、いま起こったことを話すわ。
城崎君にゲロをぶち撒けたら、城崎君が女になった。
なにを言っているのかわからねーけど、わたしもなにが起きたか分からない。
罰ゲームだとか文化祭の悪ふざけとか、そんなチャチなもんじゃあ断じてない。
もっと恐ろしいものの片鱗を味わったわ……
わたしは「ナニモ・ミテナイ」と、心の中で詠唱しながら、
「どうだ、早瀬よ。女装したオレ様は怖いか?」
完全スルーを決め込んでも話しかけてくるのは、イカれた女装男の城崎君でした。
思考停止状態で、わたしは言葉を紡ぐの。
「 ナ ニ ガ オ キ タ ノ デ ショ ウ カ ……シ ロ ザ キ く ん 」
「見れば分かるであろう。女装だ」
威風堂々、自信満々。
ドヤ顔の城ヶ崎君@女装は、短いスカートを翻して言った。
「スカートを履くのは初めてだが、股間がすぅーすぅーと涼しいな」
「なにアレ!? キモッ!」
「なんだ!? あの筋肉質な健脚とすね毛は!?」
「うわぁ……」
「 シ ロ ザ キ ク ン ナ ゼ ソ ン ナ コ ト を 」
「ククク、女装も悪くない。クセになりそうだ」
「ゲェェェ!」
「たっ頼むっ! それだけはやめてくれっ!」
「だれがやめるか! オレ様の女装はマジであるぞっ!」
「よけぇー笑えないわよっ!?」
「クククッ、愚民どもよ! オレ様の女装をしかと見よ! どうだ美しかろう!」
「キモいの。吐き気を催すの」
「完全無欠のオレ様は女装しようと美しい! 早瀬。貴様もそう思うであろう?」
「……えっ? わたしに振るの?」
「そうだ。女装したオレ様は早瀬から見て怖いか?」
「えーとね……」
「別の意味で、怖いに決まってんでしょうがァァァ! このド変態ィィィ!」
――シュバッ!
いきなり横から飛んできたのは、風紀委員の大空さんが放ったドロップキック。
それを城崎君は、体を僅かに捻るムダのない動きで避ける。
スカ――ッと、
渾身の飛び蹴りを空振りした、風紀委員の腕章が眩しい大空さんは、
――ガラガラ、ガッシャーン。
机に激突 → 顔面クラッシュして、見事な自爆で果てましたとさ。
「大空がヤられたぞっ!?」
「大丈夫なの。夏美は頑丈ボディーだから安心して欲しいの」
「女の子に暴力を振るうなんて、サイテーです!」
「フン、奴が勝手に自爆しただけであろう」
「悔しいけど、夏美がバカすぎて……カレの発言が正論すぎて」
「ちょっと彼氏? あんたのお姫さま倒れてるけど、レスキューしなくていいの?」
「めんどい」
「うん。あんたらしいわ」
「さて早瀬よ。愚民どもは放置で質問の続きをしよう。女装したオレ様が怖いか?」
「……ひっ」
わたしに向かって、ツカツカ歩いてくる城崎君@女装。
危害がないのはわかるけど、それでも男の人が近づいてくるのは、やっぱり怖い。
「ふむ。その反応だと女装したオレ様にも恐怖を覚えるようだな」
「うん……別の意味で」
「別の意味だと? ならば、オレ様の目論見はある程度成功を収めたようだな」
「……ホワイ?」
「ククク、この女装は早瀬の男性恐怖症を克服するための作戦である」
「わたしの男性恐怖症を克服するための作戦?」
「その通りである。早瀬の男性恐怖症を克服するには男に慣れて貰うのが一番だと考えた」
「男に慣れる……む、ムリだよ! 絶対ムリだから!」
「早瀬の拒絶も分かる。これは荒療治だからな。例えるなら人参が嫌いな奴に、無理やり人参を食わせるようなモノで、下手をすれば余計に恐怖症が悪化するであろう。だからオレ様は女装をしたのだ。食べ物の好き嫌いを克服するべく、なにか別のものと混ぜて目立たなくしたり、その味を目立たなくさせるように、オレ様は男という要素を薄れさせて、早瀬に慣れさせようと考えたのだ」
「……なるほど。淡水フグのアベニーさんを人工飼料に慣れさせる際、他の人工飼料を食べる魚を同じ水槽で飼育することで人工飼料を餌と認識させるようなものね」
「さっぱりネタが分からんが、そういうことにしてしておこう」
「だけど、わたしにはムリだよ……男の人に慣れるなんて」
「だからオレ様は女装したのだ。人によっては理解不能で、なんてキモい女装男と蔑む奴も居るだろう。だがオレ様は本気だ。女装は貴様の男性恐怖症を和らげる。貴様の恐怖を倒す原動力となる。だからオレ様に触れてみろ。女装したオレ様に触れてみろ。それが第一歩になる。早瀬が自分を変える第一歩だ。それをオレ様は女装で手助けしてやろうというのだ」
威風堂々と、城崎君@女装は宣言した。
「えーとね」
「男性恐怖症を克服する第一歩だ。早瀬よ。まずはオレ様に触れるのだ」
「いっ!?」
戸惑うあたしに、城崎君は指を伸ばしてくる。
人差し指が、わたしに向けられる。
その先端を見ていると……やっぱり怖い。
だけど、少し触れるぐらいならイケるかもしれない。
わたしは、目をつぶって指を伸ばした。
プルプルと震える指先が、何かの先端に接触する感触。
「ET ウ チ ニ カ エ ル 」
「ぷっ……クスクス」
誰かが有名映画の感動シーンをパロって、クラス中が押し殺した笑いに包まれる。
確かに、古い映画のあのシーンと似てるかも。
ちょっと面白くて、わたしが目を閉じたままクスリと笑うと。
「なんだ。余裕じゃないか」
女装した城崎君が、犬歯を剥き出しの邪悪な笑みを浮かべていました。
「あはは……」
乾いた笑いは、お返事の代わり。
わたしと女装した男子の『男性恐怖症☆克服計画』は、まだ始まったばかり。
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