第04話 深沢シルクの5DAYライフ
「あはは、元気そうでびっくりしたでしょ?」
ダラダラと微熱が続いて、カラダは重いし、やたら眠いし、動くのダルイし、試験は爆死、苦し紛れに病気のせいだし、慌てた教師がまさか妊娠してるんじゃ――心当たりがねぇわよ。
そんな理由で高校を早退して病院に連れて行かれたら、病人より病弱そうな転ぶだけであの世へフライハイしかねない入院するのは患者の前にお前だろドクターと心配せざるをえない指の先っぽがぴくぴく痙攣しているおじいちゃん医師から「レイ・ボーダン症候群じゃな」と診断されて、即日入院が決まったのは昨日のこと。
ヤバそうな病名に、血の気が引いたのを覚えている。
――レイ・ボーダン症候群?
――なんなの? 死ぬの? ヤバイ病気なの?
――実はたいしたことなかった。
おじいちゃんドクターが曰く、昔は怖い病気だったけど、進歩した現代医学の前には「クスリを打って寝てれば治る」というコケ脅し。
だからあたしはなう退屈な入院生活をエンジョイしてるけど……。
……ヒマ。暇。ひま過ぎる。
入院生活って、退屈すぎてしょうがない!
ウワサには聞いてたけど予想以上!
電磁波がどうこうでケータイは使えないし、唯一の娯楽なテレビは地デジ非対応で、窓の景色は退屈だし、お見舞いに来てくれそうな両親はニコニコ仲良く結婚記念日で熱海の旅館へGO。
クラスのみんなもスキー教室で長野へGOとか、これってなんちゅー嫌がらせ!
いやいや、入院中はおとなしく寝てるのが正しいけど……
入院生活2日目。
あたしは、寝るのが怖かったりする。
「病室に飾ってある絵、ほんとお姉ちゃんソックリだよねー」
入院生活2日目、午前10時。
お見舞いに来た妹に話を振られて、あたしはチラリと壁の方に視線を向ける。
古ぼけた絵があった。
鉛筆で描かれたモノクロの絵画が。
額縁で区切られた白黒の世界では、パイプ椅子に座った美少女が笑っている。
……いや、本当に美少女かの議論はさておき。
とにかく鉛筆画の中で笑っている少女は、あたしに瓜二つで。
「ふーみゅ。やっぱ似てるわよね」
「うん、お姉ちゃんにそっくり。体格もそうだけど、お顔なんてそのまんまだもん」
「しかも、着てるパジャマも、あたしと同じなのよね」
「そうそう、シンプルというかセンス皆無な、病院提供のパジャマだよね」
「安っぽいパイプ椅子も、いまあんたが座ってる病室備え付けのと同じみたいだし」
「でも、この絵。なぜかお目めがないよね?」
壁の絵を眺めてみれば、中途半端なのっぺらぼう。
妹の言うとおり、病室に飾られた鉛筆画の少女には目が描かれていない。
お口とお鼻はあるけれど、目があるべき場所には何も描かれてなかったりする。
あたしは「スタイルもお姉ちゃんと同じだよね」とか「ぷっくくく、つまり胸の貧弱さもソックリなわけで」とか調子に乗りだして、慎まやかなシンデレラバストをノーブラのパジャマ越しに指先でツンツンし始めやがったクソ妹を愛と殺意をたっぷりこめた視線で威嚇しながら、無意識にぼやいてしまうわけで。
「やっぱりあたしに瓜二つで、おまけに昨晩の夢。ということは?」
「もしかしたら、この絵のモデルってお姉ちゃんなのかも?」
寒いジョークの反応を楽しみに、無邪気な妹はニヤニヤと笑顔を向けてくる。
あたしは、
「ハハハッ……」
引きつった笑い。
「ハハハ……やっぱ似てるわよね。うん、この絵のモデルってあたしだわ……」
「そうだよねー。やっぱりお姉ちゃんがモデルだよね」
「あはは……はは」
ノリノリで冗談を飛ばす妹に、嫌な冷や汗と苦笑いが止まらない。
あたしのマイシスターに、心のなかで語りかける。
――ゴメン
――そのジョーク、マジみたいなの
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