本作はミステリーです。それも、いわゆる本格ミステリにカテゴライズされるほどの「ガチ」なやつです。ただし、人が死ぬわけでもなければ、怪盗が華麗にお宝を盗み出すわけでもしません。(おそらくは)思春期の兄妹がキッチンでピザトーストを焼き、そして食べる。ただそれだけの話です。そんな、ホームビデオのネタにもならないような退屈な光景を、作者はとても刺激的な読み物に変えてみせました。
こだわりの方法で作られたピザトーストの飯テロ描写、謎を謎として成立させる兄妹関係、そして妹のキャラクターの魅力、ピザトーストの作り方に対するロジカルな考察、その果てに待つたった一つの冴えた「焼き方」と、衝撃の真実。特に、中編で示される「最後のヒント」と、卑小な謎をあえて大真面目に考察するというおかしさがまさかの転調を迎える終盤のインパクトは特筆ものです。プロットとキャラクターがかっちりかみ合った完成度の高い1作。どうぞ、召し上がれ――ただし、火傷には気をつけて。