第9話「再会……おねにーさま!?」
フレスヴェルグ城の城門が、重々しく開く。
その奥でアルス・マグナスを待っていたのは、奇妙な
すぐにアルスはコクピットのハッチを開け放つ。
外気がひんやりと気持ちいい。
そして、すぐ横の騎体からも、流麗なる所作で少女が立ち上がった。
「ヴィザンツ
以前とは違って、リフィータに消耗しきった様子は見られない。
だが、高揚に上気した
周囲がざわつく中で、リフィータは
優雅に大地へ降り立つと、彼女は透き通るような白い髪をかきあげる。
「籠城指揮官はオランデル
そして、アルスの耳に不敬な言葉が漏れ聴こえてくる。
兵達の動揺も、無理からぬだろう……しかたがない。リフィータは誰の知識にも、
ここにいるリフィータは、
「おいおい、第三皇女……リフィータ殿下だって? だってお前、第三皇女つったら」
「ああ、頭のからっぽな第三皇女だよな? 役立たずの」
「俺は以前、帝都の王宮で見たぞ……庭でメイド達に子守されながら、ずっと土いじりをしていた娘だ」
「シッ! 不敬だろ、
すぐにアルスも騎体を降りて、リフィータに駆け寄る。
だが、振り向く彼女の
どうやら
真実を覆って隠すための、現実だったのだ。
リフィータはずっと、頭と心の壊れたお姫様を演じてきたのである。自らの命を守るため、そして……いつの日か、帝國に降りかかる
それでも、アルスには我慢ならない。
思いっきり息を吸うと、大きな声を気取って作った。
「お控えください! こちらにおわすお方は、自ら進んで
不意に、小さな女の子が飛び出してきた。
思わず反射的に、アルスは腰の剣に手をかけてしまった。
「よい、アルス。あれは……まあ!」
「え? あの、殿下? あっ!」
見た目は14か15か、酷く
オレンジ色のツナギ姿で、上は脱いで腰に結んでシャツだけだ。
全力疾走の彼女は、そこだけ年頃に不相応な胸をゆらしながら……なんと、リフィータに抱きついた。
「リフィータおねにーさまっ!」
「久しぶりですね、チェイカ。父上は……ウォーケンは
「ええ、元気過ぎて困ってたとこ! でも、リフィータおねにーさまが
快活で
アルスが目を白黒させていると、リフィータが笑顔で彼女を紹介してくれる。
心なしか、明るく柔らかい笑みだ。
それで、この小さな少女が親しい者だと自然と知れた。
「アルス、紹介します。この娘は、我が養父ウォーケン・オランデルの娘、チェイカ・オランデルです。スチームメイデン技師見習い、でしたよね?」
「もう、おねにーさままであたしを半人前扱いする! ……ま、まあ、見習いというか、
「まあ……徹夜はよくありませんね。作業の能率が
「美容と健康にもよくないわ!」
自然と、周囲の緊張感が和らいでゆく。
チェイカに見せた笑顔の、そのぬくもりが伝わったのだろう。
アルスは内心、ホッと胸を撫で下ろす。
落雷のような声が響いたのは、そんな時だった。
数人の騎士を連れた鎧姿の男が、
「ハッハッハ! まさかリフィータ、お前に助けられるとはなあ! どうだ、花の王宮生活は。よく生きてたもんだ。ワシならば三日で
そして、その傷だらけの
オルランド伯ウォーケン……かつて、帝國最強騎士と呼ばれた男だ。幼少の頃から先帝の
今の皇帝はその影響力を嫌って遠ざけたが、
辺境の領地に追いやられたウォーケンは、密かにリフィータを育てた男でもあった。
「お久しゅうございます、父上。……それとも、オルランド閣下とお呼びすれば?」
「おいおい、リフィータ! よせよ、そんなことしたら、ワシはお前さんをリフィータ殿下とお呼びしなくちゃならん。そいつは勘弁だ!」
「わたくしもです、父上。無事で安心しました」
「なに、お前さんとチェイカの
生ける伝説が顔をクシャクシャにして笑う。
そのままウォーケンは、片手で軽々とリフィータを肩に乗せてしまった。
恐るべき
珍しくリフィータは、無邪気な笑顔を見せていた。
アルスも不思議と、心があたたまる。
我が
そんなことを考えていると、背後で城門が重々しく閉じる。
「ふーっ、参った参った……
遅れて城に入ったスチームメイデンは、フィオナ・フィロソルのスキュレイドだ。かなりの数の
そして、コクピットから這い出したフィオナは、
だが、彼はゴシックロリータのスカートを
「おう、アルス! いい気迫だったぜ……やるじゃねーかよ、ハッ!」
「い、いえ、僕は殿下を守るのに必死で」
「さっきのありゃ、ボルグ・ダンケルク……
「えっ!? あ、あの、円卓の騎士……円卓同盟の十三人の」
――円卓の騎士。
それは、各国の代表からなる円卓同盟の
その力は
アルスは、そんな恐ろしい相手に剣を抜いたのである。
「僕は、なんて恐れ知らずな……で、でも、必死で。そう、死ぬ気で、その……え? がっ!」
突然フィオナは、アルスの股間を握ってきた。
男児の命にも等しい場所を、同性とは思えぬ手が包んでくる。
「縮こまってんじゃねえぞ、アルス。それとな……死ぬ気だなんて言うなよ」
「あ、あの、フィオナ、手を! ちょっと!」
「まあ聞けよ。お姫様を守るんだろ? だったら、死ぬ気でなんて言うんじゃねえ。むしろ、殺す気でいけ。お姫様の敵は全部、お前がブッ殺すんだよ」
そう言って、ようやくフィオナは手を離した。
文字通り命を握られたかのようで、気付けばアルスは妙な汗に濡れていた。
「ところでアルス、さっき……撤退するとき、妙な援護射撃があったろ。ありゃなんだ?」
「あ、はい。僕も見ました。この城からですが、妙ですよね」
「ったりめーだろ。普通、大砲がスチームメイデンに当たるかよ」
そう、スチームメイデンを倒せるのは、スチームメイデンだけだ。
どれだけ強力な砲を持ってしても、スチームメイデンには当てることができない。屈強な騎士の肉体を拡張し、鋭敏な感覚を何倍にも増幅させるのがスチームメイデンだ。浄気を
だが、先程見た……強力な射撃が、敵のスチームメイデンを一発で大破させたのだ。
そのことは、騎士のアルスから見れば奇跡に近い。
フィオナも同感のようだが、二人の話はここまでだった。
「整備班、このシルフィスは使えるわ! 急いで格納庫へと!」
「あ、ちょっと! えっと、チェイカさん、でしたよね! 僕のシルフィス!」
「クロトゥピアは、これ、
「ですから、チェイカさん! 俺のシルフィス……」
「で、これは? 見たことのないスチームメイデンね。興味あるわ、場合によってはバラすし、これも運んで!」
フィオナまでもが、アルスと並んであんぐり口を開けたまま固まる。
元気の
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます