第3話「獣姫咆哮」
アルス・マグナスは目を疑った。
「な、何だ……リフィータ
アルスはスチームメイデンでの実戦は初めてだ。
だが、母がスチームメイデンの
その知識が、
正体不明の騎体は、居並ぶ
「落ち着きなさい、アルス・マグナス。相手が何であれ、やることは変わりません」
「リフィータ殿下……は、はいっ! しかし、あの姿は」
それは、
言うなれば、戦場に舞い降りた
だが、乙女というよりは
その異常な騎体には、円卓同盟の騎士達も色めきだった。
「なんと
「ええい、
敵の隊長らしき騎士が、騎体を押し出し前に出てくる。
他の敵と同じスチームメイデンで、名はドルルーヴァ。一般的な騎士達が使う
アルスは自分のシルフィスを盾に、背にリフィータのクロトゥピアを
「我こそは円卓同盟が一国、パルツィル
名乗りを上げた男の
それが
同時に、アルスも目を疑った。
背後に
そんな中、激しい轟音が鳴り響いた。
敵が足並みを乱す。
「なっ、何ぃ!? きっ、貴様、どこの傭兵団だ!」
「我等の陣営の者ではないのか!?」
あっという間に、二騎のドルルーヴァが沈んだ。
そう、
一振りで二騎、上下に両断されてその場に転がっている。
片方はコクピットが開いて、中から騎士が転げ出していた。運良く、スチームメイデンへと
乗り手の意志をボイラーへとくべて、
ハスキーな声が再び、場違いな貴婦人の姿から
「よぉ、騎士様……無視すんなよ。ええ? パルツィル王国の騎士団だろ?
「いっ、いかにも! 無礼な、名乗れ
「るせぇ! 許さねえのはオレだ……オレはぁ! オレ自身すら、許せ、ねえっ!」
アルスは息を
場違いな外観とは裏腹に、毒々しいスチームメイデンは速い。
再び巨大な刃が
悲鳴がさっきよりはっきりと聴こえた。
中の騎士はまだ、生きている。
だが、その残骸を片足で踏みしめ、その異常なスチームメイデンは
「こちとらとっくにキレてんだよ、騎士様よぉ! ……皆殺しだ。
――スキュレイド。
それが恐るべきスチームメイデンの名か。
パルツィルの騎士達は、混乱の中ですぐに統制を取り戻した。
「ぬう、
「誰か! 帝國の二騎を押さえよ! 先に
だが、単騎の不利をスキュレイドの乗り手は全く見せない。
四騎目を
あれだけ不安定かつ自由度のない下半身で、驚くべき身のこなし……まるで踊るように立ち回る。そしてそれは、見るものを死へ誘う怒りの
「その程度かよ、騎士様は! ……覚えてるか、おい。忘れたとは言わせねえ……手前ぇ等、昨日の夜っ、何をした! オレの、家族にッ! 店の
恐らく、隊長に次ぐ手練の騎士だ。
手にしたバトルアックスを振り上げ、そのまま
「
「ああ、そうかい! じゃあ……喰われちまいな! 買った女も満足に抱けねえ! そればかりか、弱いと知れば殴る!
「な、何っ!? これは――!」
「サド野郎、
スキュレイドのスカートが、四つに割れた。
それぞれ斜めに、まるで花が咲くように広がる。そして……鋼鉄の
アルスにはそれが、四方に広がる
そう、獣……スカート自体が変形し、巨大な
「そ、そうか……あの機動力! スカート自体が脚なんだ。二本の後ろ足でそれぞれ独自に動く四体の猛獣。それは八本の
「そういうこった! どいてな、甘ちゃん騎士さんよぉ! 奴等は全部、まるっとオレの獲物なんだ!」
「甘ちゃん!? ……確かに!」
「おいおい、納得すんな。ったく、坊っちゃん騎士かよ」
そこから先は、一方的な
本性を現したスキュレイドの動きは、人間の姿を
そして、気付けばアルスの背中からリフィータが歩み出ていた。
「見事……アルス・マグナス。彼をお願いします」
「え? あの、リフィータ殿下!?」
「パルツィル王国の騎士よ……わたくしがお相手します! わたくしは、ヴィザンツ帝國
ハイトーンのタービン音を響かせ、クロトゥピアが巨大な剣を構える。それはクロトゥピア本体にも匹敵する巨大な
それを軽々と向けられ、隊長騎のドルルーヴァがたじろいだ。
「なっ……第三皇女!? ば、馬鹿な……帝國の第三皇女は、あのうつけの」
「信じませんか……ならば、わたくしの掲げる
同時に、クロトゥピアの背から吹き出した浄気が、空中に紋章を
汽笛の
そして、この音でこの紋章を
逆さに天から地へと
夕刻の冷たい風にさらわれ、それはうたかたの夢のように消えた。
「な……で、では、本当に……
「ご自身で確かめられよ。では……参るっ!」
「どういう、これは……どういうことなんだっ! 俺は!」
「参るといいました! お
それは、勝負ですらなかった。
大上段に剣を振り上げ、神速の踏み込みでクロトゥピアが切り込む。皇族用のスチームメイデンは、主に式典への参列が目的のため、戦闘は想定していない。
紅白に彩られた水晶の
その一撃は、防御に振り上げられた
そのまま、敵の左腕を斬り落とし、脳天から真っ二つに両断した。
それだけでは終わらず、大地を深々と突き抜け土砂を吹き上げさせる。
気付けば、全てのドルルーヴァを片付けたスキュレイドも黙っていた。
「おいおい……なんて
「ふ、
「へえ……やっぱお坊ちゃんじゃねえかよ。ま、いいさ」
スキュレイドの胸部が開いて、乗り手が顔を出す。
その姿を見て、アルスは絶句した。
そこには……フリルとレースで完全武装した、ゴシックロリータ姿が立っている。リフィータに勝るとも劣らぬ、中性的な顔立ちが魅力の美少女だ。真っ黒な長い髪を風に遊ばせ、挑発的な笑みで彼女は……彼女にしか見えない彼は空を見上げる。
見知らぬ船が徐々に、高度を落としてくるのが見える。
勝敗が決した戦場に、誰にも等しく夜が
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