最終日2
「何やってんだ、お前等? この世界の住人まで巻き込んで・・・面倒かけるな帰るぞ?」
先生はそう言いつつ殺気を放ちながら、近づいてくる。
ガルフとニーナは先生の殺気に当てられ、今までに無い表情をしている。
「ジョー君10分だけ時間を稼ぐから、大丈夫か?」
「大丈夫だけど、どうするの?」
俺は所定の場所から離れ、先生の前に行く。
「お前には期待していたんだがな、こんな行動に出るとは思わなかった。面倒な事をしてくれた」
先生はそう言いながらゆっくりと近づいてくる。俺も額に汗を掻きながら近づく。
「俺は結構思いやりがあるタイプだったんですよ」
「そうか残念だ。 でも、もう茶番は終わりだ。強制的に連れて帰る」
行き成り先生がスピードを上げ、俺の前までやってくる。それに合わせて俺も走り出す。
「分かりましたよ。 でも帰るのは俺と先生だけです!」
ぶつかる寸前で俺はポケットから魔法のスクロールを取り出した。
これは、昨日お酒を購入した時に町で買っておいた転移用の物だ。場所を登録しなければ使えなかったので使うことは無いと思っていた。
「ちっ! 面倒な!」
「じゃ、帰りましょうか、先生」
俺と先生が光に包まれて、その場から消えた。
登録していたのはケビンの場所である。二時間ほどかけて移動した町から一瞬で戻れるのは良いな。
先生の殺気はすでになく、怠そうにしている。俺も抵抗する気はないので、先生に後は任せることにする。
「おい、ジョーを迎えに行くぞ」
「そうですね。その前にやること終わらせてからにしましょう」
俺と先生は行動に移す。
先生の移動スピードは尋常じゃなく、草原まで直ぐに帰る事が出来る。先生の魔法で転移してもいいし、なんなら飛んで行ってもいい。
それでも、数分は稼げるし草原に着いた時には魔法は完成しているだろう。
俺と先生が草原に戻ってきた時は、ちょうどジョー君と勇者が対面している時だった。
「なんだ、私は死んだ筈なんだが・・・」
召還された勇者は綺麗な銀髪の女性だった。
そんな困惑している勇者にジョー君は話しかける。
「勇者ジュン、久しぶりですね。姿は変わったが、魔王リアの側近のアルスだ」
ジョー君は入学時に名前と容姿を変えられてたんだな、それほどに有名だったのだろう。
「お前が私を呼び出したのか、何をさせる気なんだ?」
「お前を呼んだのは、リア様の最後の言葉と魔王様を裏切った理由を知りたい」
ジョー君は恨みの籠もった目で勇者を見つめ、今にも飛びかかりそうに体を振るわせてい。
「リア様は本気で全種族の統合を目指していたんだぞ! 争いが無く! 平和な世界を望んでいたんだ! 裏で勇者と協力していたことも知っていた! 最後は平和条約が結ばれる筈じゃなかったのか!?」
感情の籠もった声でまくしたてるジョー君に勇者は優しく微笑んでいた。
「何が可笑しい!」
「いやな、リアは愛されていたんだな・・・そうか君は何も知らなかったのか、リアは話すタイプでも無かったしな」
勇者は昔を懐かしむように語り始めた。
「私は裏切ってなんかいないよ。 リアは最初から私に倒されることを望んでいた。裏でしていたのはリアが倒されてからの君たちの処遇を考えていたのさ、現に魔王がいなくなった後で人間が襲ってくることは無かっただろう?
千年続いた魔族との溝は深く、人間や亜人の憎悪は相当なものでね。どうしても人柱は必要だったんだ。すまないね」
その話にジョー君は驚き困惑している。しかし認めようとはしていなかった。
「だ、だが! 魔族の差別は酷い物だったじゃないか! それに人柱ならリア様じゃなくても良いじゃないか!」
「そんな簡単に差別が無くなる訳がないだろう、それに差別なら場所が違えば逆の立場も多い。
私たちは未来に掛けたんだよ。これから何千年と先の未来の君たち、私たちの子孫にね。
確かに魔王じゃなくても良かった。だが誰かがやらなくては、いけない事でもあった。リアはそんな役目を人に押しつける事が出来る奴だったか?」
苦虫を潰したような顔をしているジョー君に、なおも勇者は言う。
「リアの最後の言葉はな「ありがとうね、後は任せたよ」だ。 リアは誰も恨んでないし、後悔もしていない」
「そんな、そんな・・・俺の勘違い?」
ジョー君は崩れ落ちてしまい、地面に膝を着き瞳に涙を溜めていた。
そんな中、勇者の体が薄くなってきていた。魔法の効果が切れてきたのだろう。
「む・・・そろそろ時間かな? 最後に私が言うのも何だが、リアがいなくなった後でも魔族をまとめ挙げていたのは素晴らしかった。魔王の側近・・・いや、リアの意志を組み取り魔族初の賢王となったアルスよ」
ジョー君は顔を上げて消えゆく勇者を観ている。何を思っているのか分からないが、その顔にはもう魔王の幻想は無いように見えた。
「あ、最後にリアも君の事が好きだったぞ?アルス君」
そうお茶目に言った勇者は消えていった。
それに対してジョー君は「うるせぇ、知ってるよ」と言い笑った。
「やっと終わったか、世界崩壊が始まってるから今度こそ帰るぞー」
そう先生が空気をぶち壊しながらジョー君の元に行く。
「そうそう、世界が崩壊するから帰るぞジョー君・・・って世界崩壊?」
「そりゃ、あれだけの魔法を使ったんだ。 それに違う世界の人も呼んで神に見つかってるだろうからな、時間の問題だろう」
てか、既に地面が消えかかっていた。
どうすんだ?これ?
世界が壊れ始めているのだが、ほっておけない事があった。ガルフとニーナである。
「お、俺達の世界が壊れるってのか?」
「どうするのよ」
ニーナとガルフは状況をあんまり理解できていないみたいだ。
「・・・すまないな」
先生は二人に聞こえない声で呟いた。
そして地面だけでなく、この疑似異世界の一部でもある二人も消えかかっていた。
「ガルフ、ニーナ・・・すまない
君たちは俺達の為に作られた存在なんだ」
「ごめん・・・そして僕の為にありがとう」
俺とジョー君は真っ直ぐに二人を見つめて言う。
俺達の目をみて、何かを察したのかガルフは「フッ」と笑った。
「流れ人の存在や勝の話で薄々は気が付いていたさ・・・俺らも馬鹿じゃない」
「そうね、でも少し寂しいわね」
やりきれない感情に刈られ、俺は先生の方を向く。この状況をみて先生は何にも感じないのだろうか。
「そんな顔をしても無駄だ。これはお前等が原因だと言うことを忘れるな。」
そうだな、俺達が起こした問題だ。
元々無くなるのは決まっていたが、俺達に関わらなければ何も知らずに消えることが出来たのかも知れない。
「納得しているのか? 理不尽に消されることに・・・」
俺の言葉にガルフはニカッと笑い言った。
「ハハハ、何かそんか気がしていたんだよ。気にするな! それに世界の真実が知れて嬉しい気持ちもあるんだぜ?」
その顔は本当に納得している様にみえた。本当に二人は良い人なんだ。
この二人はおれは忘れることは無いだろう、少しの時間しか過ごしていなくても一緒に冒険をした事実は変わらない。
「じゃあな! 次があったら会おうぜ? こんな凄い力があるんだ。 会える可能性はゼロじゃないだろう?」
「そうね、私たちの世界は終わりだけど、またどこかで会いましょう?」
そう言って二人は消えた。
ちょっとした沈黙が俺達三人を覆った。
そして、もう既に俺達の周りにしか世界は存在していなかった。
「・・・お前等、帰るぞ」
先生はこの世界に来た時と同じ転移魔法を使い俺とジョー君を転送した。
目を開けると学校のグラウンドにいた。そして周りには俺とジョー君だけでなく他の生徒もいる。
「ちょっとーどこに行ってたのさ? 出かけるなら一言声かけて行きなよ」
俺とジョー君が何で皆がいるのか理解出来ていない所にアーガが話しかけてきた。
「そうです。 先生が教えてくれなければ私たちに刑罰Pが加算される所でしたよ?」
丸さんの言葉を聞いてジョー君は先生の方をみる。
時間的に皆が転移したのと俺達が転移したのは違うと思うのだが・・・どういうことだ。
「ん? 面倒だからな時間を少しだけイジった、お前等は忘れ物を取りに行ったことになってる。 それと最終日の予定は合宿で体験した事の発表だ」
欠伸をしながら先生は後ろ方に移動していく。
面倒だからって時間操作するなよ、この先生は本当に天使なのか疑いたくなってくる。
「皆さん! 合宿はどうでしたか? 二人ほど問題を起こした生徒がいるそうですが、無事に全員帰ることが出来ました! 教室に移動して合宿の発表をしますので移動しましょう! 寮に帰るまでが合宿ですからね!」
ミルルがこちらを観ている・・・後でジョー君と誤りに行かないとな。
そうして、俺達は教室に移動する。
「ありがとう、今回は助かったよ」
ジョー君が俺の隣にきて感謝の言葉を言った。その顔は合宿初日の様な陰険な顔でなく、すがすがしい物であった。
「感謝なんていいよ。 俺は手伝っただけだ」
「手伝ってくれただけで、感謝するのに値するよ」
「いや、そういう事では無いんだが・・・まぁいいか」
「?」
少し冒険をした俺達の合宿はそうして終わった。
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